2-13 天が与えた力
といわけで、次の日。
面談はお昼からなので、エルバティという少女の相談に乗るために街に繰り出すことにした。
ライカとビッケは、ライカの提案で別の案件に行ってしまったので、今日はシールディと2人で行動することとなった。
ライカには昨日悪いことをしたな。機会を見て、謝っておこう。
「さあ、行きましょう。エルバディという少女が働いている居酒屋は、町の北西です」
もはや、北も南もわかないので、シールディの道案内に従っていく。
「そういえば、ライカさんと何かあったのですか?」
「なぜ!?」
「いえ、何か様子がいつもと違いましたから」
「いいえ、何もないですよ」
「そうですか。なら、いいのですが」
シールディがジ~っと、僕の目を覗き込んでいる。確実に疑ってきているな。女の勘だろうけど、当たっているんだよな。
ひと時して青い髪をなびかせて再び歩き出した。ふう、何とか突破したらしい。
城下町エルドは今日も活気であふれていた。いやあ、人々が平和に暮らしているっていいなあ。魔王がいる時って、どんな感じだったんだろう?
と、無駄に思考を広げていると、居酒屋についた。
看板には『飲んで騒いで、1000ゴット! 居酒屋ハッピ~!』と書いてある。ほほう。居酒屋がハッピーなのか、名前がハッピーなのかわからん。僕は20歳越えているから、酒を飲んでも大丈夫だろう。この世界のアルコールに対する規制は知らないが。
「そういえば、シールディは何歳なの?」
「…。唐突ですね。女性に年齢を聞くのは失礼では?」
しまった。何も考えずに聞いてしまった。好感度が下がった効果音が脳内で再生された。ゲームによっては戦力が大幅ダウンになるものもあるから気をつけないとな!
「19歳です」
「19歳! 若い!」
「若いって、勇者様20歳ですよ。それも忘れちゃったんですか?」
「ええ!?」
そ、そんな馬鹿な!? あっちの世界では僕は23歳だったはず。じゃあ、こっちの僕は20歳の体に入ったから20歳なのか! 僕にとっては3歳若返ったことになるが、元勇者は3歳としとっちゃったはずだ。これは、会うことがあるとしたら文句を言われそうだな。
「ライカも19歳です。ビッケは18歳です。若いですね」
そのまま、言葉をお返ししますが。
仲間の情報を今更知るのもなんだが、しょうがないか。
店に入るとご主人らしき人がこちらに向かってきた。長身の痩せた人だった。
午前なので、周りには誰もまだいなかった。
「はいはい。あ、勇者様御一行様ですね。エルバディなら住み込みで2階にいますよ。待っていると思いますので、どうぞおあがりください」
案内され、階段を上がると、エルバディと名札のついた扉の前に来た。
「すみませーん。勇者ですけど~」
…。人の家を訪ねておいて勇者ですけど、で理解してもらえるって、かなりレアなケースだよな。
「あ、は~い」
扉があけられると、ピンクの髪にツインテールの女のことが出てきた。なるほど、アホ毛チャンピオンの匂いがするぜ。変な意味じゃなく。
「あ、ありがとうございます! 本当に来てくれるなんて! 伝書バットを出してよかった!」
「ふふふ。当たり前ですよ。お話聞かせてもらっていいですか?」
「大丈夫です。こちらへ」
僕らは、エルバディの部屋に入った。
ぬいぐるみや、化粧品の山が目に入る。
僕らは、椅子に腰かけた。
「早速ですが、話を聞かせてもらいたいのですけど」
「はい。悩みというのは、アホ毛決定権についてです」
エルバディの大きな瞳が僕に向いた。非難されている気がする! 非難されているんだろうけど。
「その節は、すみませんでした」
「謝られても困ります。けど、私はアホ毛決定権を推進した勇者様を恨んではいません。恨んでいたらもっと、手紙に書いてました」
「そう、ですか」
「そういうのじゃなくて、書いた通り、私、アホ毛の才能があったらしくって。初めは、楽しかったんです」
ぷにょん。
才能の意味が計り知れるが、たぶん、アホ毛が発生しやすいので、負けない、という意味だろう。
「なんですけど、いつからか、私を利用する人たちに絡まれるようになって。この前も、無理やり呼ばれて行ってみたら、立ち退きを拒んている人と争っていて。で、私がアホ毛決定権で戦うことになり、勝ってしまったから、相手を追い出すことになってしまったんです。でも、何か相手が可哀そうで…」
「それは、そういうやり方が出来るのか」
「そうです。アホ毛決定権の勝負の際は代理を出すことができますので。また、ある時には、別の国から仕入れた商品の値段でもめていて、私が介入することになって勝ったことによりかなり安くで仕入れを行ってました。それも、相手が可哀そうで…」
ぷにょん。
う~む。そうなってくると、通したい案件をアホ毛決定権の争いまでもっていくことが出来れば、ほとんど通すことが可能になるじゃないか。そもそも代理制度がまずい。
ぷにょん。
「私、嫌なんです。この自分で求めていない力で、他人が苦しむのを見るのが…」
「それは、気持ちはわかります」
ぷにょん。
なぜか、気持ちがわかる少女シールディ。大人だった。
「というわけで、ご相談なんですけど、どうやったら私、この力で他人を苦しめることがなくなるでしょうか! 私この力が恐ろしくて!」
ぷにょーん!
ばっと立ち上がるとエルバディが身を乗り出していった。
「うがああああああ!」
「!? ど、どうしたんですか! 勇者様!」
僕は、自分の頭をガンガンと殴った。なぜなら、エルバディの基本の大きさをどう見ても上回っているはるかに超えた胸の部分が、さっきから気になって話に集中できないからだ!
アホ毛もすごいが、そっちもすごいぞ。
「だ、大丈夫です。心配をおかけしました。つ、続けましょう」
「まー。気持ちはわかりますけどー」
僕の煩悩を察したシールディの目は、絶対零度よりも冷たかった。