2-12 肉まんと白桃
「いい湯だったね」
「やっぱ、ココはいつ来ても癒されるわ~」
脱衣所で女兵士2人がキャッキャッキャ言いながら、談笑している。
「うん、ちょっ、ま、はぁ…」
「っく! せ、狭い…」
しかし、こちらは、裸の女性と狭い空間に挟まれ酸欠の事態に襲われていた。
すごい体勢で、清掃用具入れに入れられてしまった。一体自分がどこを触っているのかわからない。何とか体制を立て直そうとしているが、僕が動くたびにライカの何かを刺激して、甘い吐息をはかせてしまうので、なかなかうまくいかない。
「ど、どないせいっていうんだ!?」
「じっとしてればいいでしょ! …って、ぁっくふう」
足を動かしたら、デッキブラシのらしきものに当りそれが、ライカを刺激したようだった。ピタゴラスイッチのように、何かを触ると連動する仕組みのようだ。大人版だが。
下手に声を出すと、あの気づきやすい女兵士達にこんな状況をみられてしまう。
僕1人でもやばかったが、さらに裸の女の子と脱衣所にいたことなんて、ますますバレるわけにはいかなくなった。
もはや、勇者=変態という図式がバルダイム王国の一般常識となるのも時間の問題だろう。
ライカには謝るとして、ここは何とか突破しなくてはいけない。
「そういえば、今、お城に勇者様来てるってさ」
「え? そうなんだ! 今回は見られるかな。私、前回、見れなかったんだよね」
「もったいない。私見たよ。めっちゃ、かっこよかったな」
馬鹿な!? こんな高評価を目の前にしたら、絶対に下げたくなくなるのが人間の心理。絶対に、この状況、突破して見せる。
しかし、息が出来ないので、ちょっと呼吸をしよう。
「す~、は~」
「え、ひぇ…。み、耳、や、やへてぇ…ち、力が…ぬ、けて…」
「!?」
すごい良い反応だった。こんな状況でなければ、RECしておきたい気持ちになるところだが、ちょっと待てライカ! 我慢するんだ! しっかりしろ! と、心で励ましてみる。
「? 今、何か言った?」
「ん? うんうん、言っていないよ」
ちぃ! やはり勘づいたか!? バルダイムを守ってきた気づき力は甘くはない。やはり、お前と俺は戦わなくてはならない運命なのかー! と、意味不明な使命感に捕らわれる。
「さっきもだったけど、なんか人の気配を感じるんだよね」
「もう、職業病だよ。レトリーナはさ。少し、気を抜いたほうがいいよ」
そうだ! レトリーナの友人Aよ、どこのだれかは知らんが、頑張るんだ!
「ふぇ…。耳と、うぁ、胸ちかくも、や、やめてぇ…ひゃん、、、」
ライカはライカでピンチらしい。何もしていないはずなんだが!? なんで盛り上がってるの!?
「こっちの方かな…」
足音が近づいてくる。
ちぃ! ライカの口を塞がなければ!
僕は、ライカの口元と思われる場所を塞ぎに掛かった。
しかし、
「なぁに、ふおんのよ!」
「シッー!」
僕の指はライカの口の中に突っ込んでしまった。
「ふん!」
「いでぇ!」
ライカの攻撃! 歯が僕の指に食い込んだ。2のダメージ!
「ん? 音がしたような」
泥沼化した。こうなったら、あれしかない!
僕は息を吸い込んで、言った。
「ちゅ、ちゅー!」
「あ、ああ。ネズミね。なあんだ」
一か八かの賭けに僕は勝った。
この世界に、ネズミはいたのだ。ようし。
僕は、せまい清掃道具の中でガッツポーズをとろうとした。
が、僕のうではとっても柔らかい何かを撫でた。
「あ、あひぃん、いやぁ…」
「…」
ライカのお尻を撫でてしまったらしい。本当にごめんなさい!
僕に出来ることは深呼吸をして、マナの流動というか、血液を抑えることだけだった。
ひと時して、レトリーナ達はお風呂場から出ていったようだ。
ふう。
その間も、なぜか、ライカは1人唸っていたが、僕は心を閉ざしていたので、大丈夫だった。
何とか2人とも清掃用具入れから出る。
「…」
「…」
ライカは、タオルで体を隠しながら、こちらをにらんでいる。
怒りか恥ずかしさで顔は真っ赤になっていた。
髪の色と相まって素敵な色だね。
「…このことは他言無用よ。WLUの恥になるし」
「はい」
「そして、今日の事はあんたの記憶から抹消することいいわね?」
「はい」
「もちろん、あたしからの罰は受けるわね?」
「はい」
返答に関してはもはや、ドラクエのAボタン連打状態だった。
僕は、腕を後ろに組んで罰を受ける姿勢をとった。
…そして、僕の視界が吹き飛ぶのだった。
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「勇者様、どこ行っていたんですか? 探していたんですよ」
「いやあ、まいごになっはってはぁ」
「それに、その顔…。どうしたんですか!? ほっぺたがはれ上がっていますよ!」
「むしばになっはって、ははは!」
男湯に戻った僕は、苦し言い訳をしながら、湯につかるのだった。
いってぇ!!!