2-9 腹万乗
「それそれそれ！ もっともってこいじゃん！」
ななな、なんだ！？
机の上に次々とコックが料理を並べていく。見たことのない料理の数々。無論、僕には、初めての食べ物ばかりだった。
巨大なカエルのようなものが逆さまになって、こんがり揚げられていたりする。これ、食えんの？
「これが、私が探究した食だよね。一流コックを、あらゆる有名店舗から引き抜き、かき集め、一流の食事を提供する。こうすることにより、国民の職に対する欲求が高まり、他国から輸入してきた食材が売れていく、国民は常においしい食を求め、買い求めることで需要と供給が高まっていくじゃん！」
「いい、匂い～」
「ですね～」
匂いだけで女の子はいちころだった。さっき、城下町であれだけ買い食いしたのに。さすがとしかいいようがないじゃん！
「書類で数字を追うよりも、舌で私の努力を感じてほしいじゃん！ ほらほらほらほら、次に来たるは、ファグラ、ロブスターに、エスカルゴ！ ほら、このポワレもとってもおいしいじゃん！ パック！ あ～ん、幸せ、みんなも幸せになってじゃん！｝
「なっています、幸せに！」
「わ～、これ、お肉がとろっとろ～」
会議というよりも、お食事会に強引に変更されてしまった。
王様と王妃様は、飽きれた顔をしている。
まったく、しょうがないなあ。
僕も一口食べてみよう。逆さまのカエルを切って一口、口に入れる。
「う、うまい！ へー！ こんなのがうまいんだなあ！」
「それは、ファイダーブールにしか生息しない、黄金のかえるじゃん！ いくら、勇者様とはいえ、そうそう口にできるものじゃないじゃん！」
「た、確かにそうかもしんない」
気づくとカエルは足だけになっていた。かえるよ、お前の死は無駄ではない。
「こら、ユマ。きちんと報告しなさい」
「あ、ご、ごめんなさい。というわけで、私の食の部門は、え～と、あ、良かった。ええと、成長率は、プラス10％じゃん！」
「うむ、成果は出ているというわけじゃな。勇者様、いかがですかな？」
「そうですね…」
僕は顎に手を当て、考える。
「食事と言えば、このように、女性を輝かせる…」
僕は、必死に料理を食べているライカとシールディを指さした。
「そんな女性を振り向かせる為に、男がさらに精を出して働く。そして、国が豊かになっていく…。まさに、理想郷に必要な光景を作り出せているので、オーケーです！」
僕は、ピースした。平和ってことで。
「う、うむ。良いってことじゃな」
「ありがと、じゃん！」
王様がパンパンと手をたたくと、コックがお食事を引いていく。
寂しいそうな2人の顔。卑しいぞ。
「とりあえず、会議というよりは報告会じゃったが一度、締めさせてもらう。明日は、個人面談で、それぞれの部門をどうやって進展させていくか、勇者様と決めて報告してほしい。勇者様、本日は、どうか、わが城に部屋を用意している。ぜひ、お泊りください」
やったー、と3人のお供が大はしゃぎする。確かに、お城に泊まれるのは嬉しい。わくわくするなあ。
「ふふふ、梅干しは、お部屋に用意しておきますので、ぜひ、入れ替えてくださいね」
し、しまった！ 額の梅干しを忘れていた…。っく、くやしい！
いらぬ気づかいの王妃様だった。
「それでは失礼する、勇者よ、明日は頼むぞ」
「うんむ」
僕はユイに合わせて返事をした。
ガチャガチャと音を立てて去っていった。だから鎧、脱げよ。
「本当に、先ほどはありがとうございました。それでは、勇者様、また明日お願い致します」
「OKちゃん」
ユーカにとっては心苦しかっただろうが、笑顔で出ていった。
僕の挨拶が面白かったのだろう。
「勇者様！ 明日は一緒に、食べようじゃん！」
「おう！ 食べるのが目的じゃないことはわかっとけじゃん！」
良く食べているはずだが、小柄のユマは、チョコチョコ走って去っていった。
女性にとっては、うらやましいだろう。
「我々も失礼する。ぜひ、くつろいでいってくれたまえ」
「ありがとうございました。カザーマ王。お言葉に甘えさせて頂きます」
ビシッと、ビッケが一番の挨拶して、僕らは自分たちの部屋に向かうことにした。
「いや～、おいしかったなあ。そこしか、憶えてないけどね」
「そうですね。あのロブスターの引き締まったお肉は、忘れられません～」
「夜ごはんが楽しみですね！」
こいつら、まだ食う気か！ たしかにファンタジーは食ってばかりいる気がする。
僕は胃が小さいほうだというのに！ （転生後は知らないけれど）
あっという間に僕らの部屋の前についた。男女分かれて、2部屋用意されていた。
「とりあえず、お風呂入ろー！」
「いいですね、勇者さまも一緒に行きましょう！」
「なにぃ！ そのノリは混浴と考えていいんだな！」
「んなわけないでしょ！ あんた馬鹿じゃないの！ 入口まで一緒に行こうという意味よ」
「ファンタジーでも越えられない壁があるんだな」
「また訳分からないこと言っている…」
というわけで、準備してお風呂となった。
さてさて、お城の高級バスタブに、つかりましょーか！
