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2-8 衣食住会議

「それでは、ユイから、現状の報告をお願いしようかの」

「はい、お父様。それでは、私から説明させて頂きます」


僕らの手元に資料が配られる。

良くわからない数字が書き込まれていた。


「私の担当している住に関してです。

 私は、主に国民の土地の売買に関して、携わって参りました。

 始めは、私もどのように関与していいか分からずに手をこまねいておりました。

 国民がどのようにしたら、もっとより良い土地や家を欲するのか?

 そこで、私は考えました。

 国民の誰もが、住んでみたい、引っ越してみたい、と感じられる場所、家を提案したらどうかと。

 私は、交渉し少しでも良い場所を開拓、少しでも格安で良く見える家を建てました。その後は、必死に広告、宣伝を行い住人を募りました。

 キャッチコピーは『バイダイムにあなたの一生の桃源郷がある…』

 国民に寄り添い夢を叶えたい…。国民の気持ちに立って行動した結果、経済成長率は25%となりました」


手元の資料は、ユイが土地の開拓や、家の建築に携わり、結果を出した経由が事細かに書かれている資料だった。


「ほっほっほ。よく頑張ったのユイ。私が大臣と管理していた時よりも、国民が土地を求め、より良い生活を手に入れておる。さすがじゃ。一番難しい担当だと思っておったが、見事に結果を出しおったわ。あっぱれじゃ」

「ありがたき幸せ」


ユイは大げさに一礼して見せた。他の妹たちにも、ドヤ! という意志が顔ににじみ出ているようだった。


「勇者様より、何か質問はないかの?」

「そうですね…」


突如振られた。視線が僕に集中する。


「良かったと思います。特に質問は、ないです」

「な、なんだと! 貴様!」


ガキンと、ユイが腰の剣を抜いた。何度目か今回。


「わ、私は、頑張って結果を出したのだぞ! 貴様が、こうやって、強引に権利を分配して私たちにやらせるって言ったから! な、何か、何か、一言ないのか!」


ギラリと、怪しく剣が光る。


「わ、私にその、何か、何か言うことがあるだろうが! が、頑張ったね、ユイ、とか、何とか…」


後半が消え入りそうで聞えないが、要するに褒めてほしいのだろうか。


「そ、そうですね。良くやったと、思います。いや、良くやった、あっぱれ!」

「ふ、フン! お前の為にやったのではないんのだからな!!」


ツンデレ口調で、ユイはふてくされて着席した。


「ほっほっほ。とにかく、良く頑張ったな。ユイ、その調子で頼むぞい」

「そうですね。素晴らしいですわ」

「では、次は、ユーカお願いしようかの」


次の資料が配られる。

ユーカが緊張した面持ちで起立し喋り出した。


「は、はい。私は、衣を担当しました。

 国民の皆様に、どうやったら着飾ることを楽しんで頂けるのか?

 たくさんの国民にヒアリングをした結果、国民が望んでいる衣服が私なりに見えてきました。ですが、それを形にする職人がいなかったのです。なので、私は職人を募り一緒に、衣服を作って参りました。少しづつではありますが、技術は進歩し、今までになかったような服が作成できるようになってきましたが…。

申し訳ございません。服の技術は上がっているとは思うのですが、実績にまだ直結しておりません。結果、成長率は、-10%になっています…。申し訳ございません」


ユイとユマからは侮蔑の笑みがこぼれた。


「ふうむ。ワシもユーカの努力はいろいろ見てきたのだがの…。やはり、実績を伴わなければ、評価は難しい。それが、大人の世界というものじゃ」

「はい…。本当に、申し訳ないです」


金髪の髪で隠れて、沈んでいる顔は見えない。


「勇者様からは、何かないかの?」


またもや僕に視線が集まる。しかし、これは、簡単だった。


「そうですね。全然からきし駄目ですね。やはり、努力より結果が大事なこんな世の中ですから!」


バシッと言ってやった。


し~ん。


「ハイ…。本当に申し訳ございません」


さらに、消え入りそうな声でユーカが言った。


すると、ちょいちょいと、脇をシールディが引っ張っている。


「な、なに?」

「勇者様、酷すぎます。そんな言い方では、次頑張ろうという気持ちになりません。最低です」


深紅の闇に染まった眼で僕を見ている。怒っているようだった。


「だ、だって成績が悪いって」

「初めての事だったら勇者様うまく出来ますか? でしたら、今すぐ治癒魔法で私の傷跡を治してください」


言うと、バッと左手をローブから出したシールディの腕には、見たこともないような火傷のような大きな痣があった。な、なんだ、すごい痣だ、初めて見た、当たり前だけど。


「さあ! 早く!」

「え、いや、その、わ、分かったよ」


僕はシールディの怒りに圧され、再び立ち上がった。

僕らのやりとりは、他の人には聞こえていないようだった。やれやれ。


「ごほん! と、一度は思った僕ではありますが、昨今、人の気持ちを考えない人間が増えている世の中でもございます。こんな冷たい世の中では、人が未来に希望を持って、頑張ろう!という気持ちも萎えていき、それとともに冷え切ってしまいます。

ユーカ様は、今その途中の段階であるとお見受け致しました。芸術とは、突如爆発するもの! 成長カーブを信じて、今は種を巻き、育てている段階。結果は、その後きっと出るでしょう!

結果はまだまだ出ておりませんが、その大きな木の鱗片を私は今の報告から感じましたので、とってもいいと思いますよ!!」


僕は、大げさにビシッと親指を立てた。ローマでは…なんたらかんとかである。


その瞬間、顔を上げたユイは、まるで初めてクリスマスプレゼントをもらったような笑顔で、


「あ、ありがとうございます! 勇者様! 私、頑張ります!」


と言った。

シールディもうんうんと頷いている。


「こほん、そ、そうか。勇者様がそう評価するなら、そうじゃの。様子を見ていってみようかの」


王様は、もっとユイを攻めてほしかったようだった。

しかし、俺は伝説の勇者。怖い方の意思を尊重する漢よ。


「それは、次はユマじゃ!」

「はい、じゃん! 私の報告は食! 書類よりも、その舌で堪能してほしいじゃん!」


言うと、コックが僕らの前に、数々の料理を運んできた。

な、なにが始まるの?

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