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2-7 3人のお姫様

「それは、すぐに医者を呼ばんと」

「王様、もう優れたお医者様にはたくさん看てもらいました。いずれも原因不明で解決方法がわかっていません」

「なんてことでしょう…」


大変驚いた様子で申し訳ないが、当の自分はそんなに困っていない。

困っていることは、幾通りかあるにはあるけれど。


「王様、大丈夫です。僕は勇者です。記憶喪失の1つや2つ、魔王との激戦の数々に比べたら、さほど問題はありません。思い出した頃に、ふっと、思い出して見せます!」

「え、おお…」


僕の今の台詞を聞いて、うぬ! 分かった! と、返事を期待していたが、無理だったか。だと思った。我ながら自分で言ってて、意味わからんしな。


「お医者様にも、治せないなんて。そうだわ、私聞いたことがあるの」


リヌール王妃は、パンパンと手を打って兵士を呼び寄せると、何かを命令した。

兵士が持ってきた物は、皿に積まれたテウンウッドの実だった。

てくてくと、王妃が僕の方へ歩み寄ってくる。


「これは、私が昔聞いたことがあるおまじない。きっと効果があるわ。さあ、上を向いて目をつぶって」

「こ、こうでしょうか…」


僕は、頭を上げて目をつぶった。

その瞬間、おでこに、むにゅっとした感触が走る。

これは…。


「ほら、出来た。このテウンウッドの実をおでこに乗せているとあっという間に病気や災いが逃げるんですよ」


ほっほっほ。

これは…、梅干しをおでこにのせていると風邪をひかないというあれで、あろうか。マジかい! 世界を越えて暗躍する梅干しの隠された力だった。


僕の額には、3つのテウンウッドの実が張り付いた状態になった。

これで、きっと記憶が戻るのだろう。


くるっと、ライカの方を向くと、


「よ、良かったわね、勇者…。っプ――――――!」


クスクスと声を我慢しながら笑っている。

他人ごとだと思って!


「なんというお心遣い、感謝致しま…っプ!」

「勇者様、何でも試してみるのがいいと思い…っぷ」


ビッケ、シールディともに全滅だ。パーティそのものの存続が危うい。


「とりあえず、記憶喪失はすぐには解決せんということじゃの。不憫だが仕方あるまいな。申し訳ないが、我が娘たちも控えているので、話を進めさせてもらうぞ」

「お願いします。早めに」


僕は早く終わって、額の梅干しを洗い流したいのだ。


「あなたたち入ってきなさい」

『はい』


タイミングのピッタリ合った返事とともに、扉が開き3姉妹が入ってきた。

3姉妹は僕らの机の対面に並んで座る。


長女はユイ。ロールまきにした腰まで長い金髪、白銀の鎧を全身にまとい、立派な鞘を腰に携えていた。

二女は、ユーカ。落ち着いた緑色の装飾のドレスに、こちらも金髪だが、肩までぐらいの長さ。

三女は、ユマといい、金髪にショートカット、背は一番低い。蝶々を模したと思われる装飾のドレスを着ていた。


「勇者よ、久しぶりだな…って、お前‼ なんだ、その額のテウンウッドの実は! 我が国王を愚弄する気か!」


ガキンと、鞘から目に止まらぬ速さで剣を抜くと、いきなり僕の方へ向けた。

ひー! 剣術が使えるやんちゃお姫様系か!


「あらあらあら。それは、私が勇者様に処方したおまじないですよ、ユイ。あなたが子供のころにも、してあげたことあるでしょう」

「ぬ!! そ、そういえば。母上、すまなかった。早とちりでした」


ユイは、僕ではなく、王妃に頭を下げると、ざっと椅子に腰かける。

話し合いの場に鎧着てくるなよ。


三人のお姫さまたちとそれぞれ目を合わせる。う~ん、やはり、殺気というか、何か心に秘めた目でこちらを見ている気がする。これは、たぶん、何かあるな、ってあるんだろうな。

だが、詳細が分からない以上、こちらから黙っておこう。


「他のお仲間さんたちは、相変わらず元気そうで良かったです」

「いえいえ、こちらこそ、ユーカ様も元気そうで何よりですよ」

「勇者なんか、痩せたじゃん? ちゃんと体力がつくもの食べないと」

「ユマは食べてばかりであろうが、勇者は我々と違って忙しいんだ。のんきの食べている暇もないんだろう」

「姉さまには、聞いてないじゃん。私は勇者様に聞いているんじゃん」

「何だと! 貴様、私がわかりやすく事情を説明したんだろうが! ユマよ、そこになおれ! 剣の錆にしてくれるわ!」


再び、ユイは席から立つと再び剣を抜いた。仲悪い!


「お、お姉さまもユマも、せっかく勇者様がいらしたんだから、落ち着いて、ね」

「もう本当ですよ。なんで、こんなにすぐに喧嘩になるのやら」

「そういえば、額のテウンウッドの実は、なぜ? 勇者さまは見たところ元気そうですけれど」

「それが、勇者様はどうやら、記憶喪失のようなんじゃ」


『なんですって!』


また、三人がハモった。さすが三姉妹。


「ま、まさか、私達の事を忘れているというのか!」

「そうですね。ばっさりと、忘れちゃってるんで、そのところはよろしくとしか」

「いろいろな法律を我が国に落としておいて、全部忘れるなどなんて無責任なやつなんだ! 本当に、本当に忘れているのか?」

「まあ…。童話の中だけの話と思いました。記憶喪失って本当にあるんですね」

「おいしいもん食べれば、思い出すじゃん」


それぞれが、それぞれに言う。まあ、言ってくれ。俺には最強のおまじないがかかっているんだ。もう、大丈夫だろ。


「近況に関しては大体のところ、私たちが説明をしているので、大丈夫だと思います」


ライカがフォローする。しかし、何が大丈夫なのか。かなりざっくり鹿聞いていない!


「そ、そうなのか。うーぬ」

「言っていても、しょうがなかろう。そろそろ、本題に入るぞよ」


僕はおでこにテウンウッドの実を装備したまま、会議に参加するのだった。

誰か、もうとっていいよって、言ってくれ。

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