2-6 こんにちは王様
あほ毛決定権委員会の現実を見て衝撃を受けたまま、僕たちは時間がないのでお城に向かった。
お城の門番に許可書をもらい門を抜けた。
お城の中ではすれ違うたびに兵士が
「こ、これは、勇者様! け、敬礼!」
と挨拶してくるので、
「これは、どうもどうも…へへへ」
と、僕は勇者らしく頭を軽くぺこりと会釈をしながら返事を返していった。
「あんた、もっとどうどうとしないさいよ。なんか情けないわよ」
「情けないことあるもんか! これが、おもてなしと言う日本の文化を体現した返答だよ!」
「はぁ?」
という、ライカとの謎の掛け合いをしていた。
さて、お城の中庭と思われる回廊を歩いていると、それが目に入った。
「な、なんだこれ…」
「これは、僕らの銅像です」
「僕らのって全然、似てないけど!」
「製作者のフィルターがかかってますから、きっとアレンジが」
「これを作った人はかなりの近視の方かもしれないぞ…」
そこには、4人の銅像が立ってはいるが、
たぶん勇者と思わしき人物は、ガウンを着てグラスを片手に、偉そうに玉座に足を組んで座っている。
ライカと思わしき人物は、なぜかアイドルのような派手な衣装に身を包み、投げキッスをしている体制だ。
ビッケは、身長が全然本物と違い背が高く、魔法使いなのに、裸で筋肉もりもりで筋肉を強調するかのようにエッジの効いたポーズをとっている。
シールディが大問題で、頭からすっぽりとフードをかぶり顔が見えず、杖を天に掲げて、その周りには悪霊のようなモニュメントが多数漂っていた。なんじゃ、このホラー感。
「ツッコミどころが多いだが!」
「あんた、喜んでたんじゃないの! 『こいつは、素晴らしいぜ! まるで俺たちの生き様が再現されているようだっ! がははははは! って』」
なんで、これを見て喜べるのか分からん。
そして、この国の国王は、国民の税金でなんて、無駄なものを作っているのか!? 会う前から、民のことを考えているか到底疑わしくなったぞ…。
「いやあ、僕もこんな風になりたいなあ」
「そんなことはどうでもいいです。行きましょう」
シールディは明らかに不機嫌そうに、さっさと先を行く。
まあ、そうですよね。
彫刻家のフィルターには、シールディは悪霊使いにでも見えたのだろうか。
いくつかの通りを曲がり、長い階段を上がると超豪華な装飾が施されている扉にたどり着いた。
「お待ちしておりました、勇者様。こちらに我が国王がおられます」
「よっしゃ、みんな、武器は持ったか! ボス戦だぞ! 薬草をくわえておけよっ!」
僕は、仲間を叱咤激励するように、鋭くグーを突き上げて言った。
「あんた…。何を言っているの…。時々、危ない人になるよね…前々からだけど…」
「ごめんなさい。ギャグです」
だって! こんな扉を見たら、誰だってボス戦の前の気持ちになるよねえ。
と、いう間にギギッーと、扉は開けられちゃった。
そこに広がる大広間。ライオン?のような装飾の長ーい机の先に、国王はおられた。
「ほっほっほ。久しいな勇者よ! 我が国の為に遠路はるばるすまぬな」
「まあまあ、本当、いつもありがとうねえ。ほら、座って座って」
おお。ファンタジーゲームで見たそのままの王様と王妃様がそこに座っておられる。王様って、王冠かぶってくるくるお髭はデフォルトなんだなあ。王妃様もおおきなドレスを着ているし。
2人ともトランプの絵柄みたいない恰好だな。
「お久しぶりです。カーザマ王、リヌール王妃」
横を見ると、3人とも膝をついて頭を下げている。い、いかん!
僕は、遅れるように、3人の真似をして膝をついた。
「ボンジュール、王様、王妃様。ご機嫌、麗しゅう。ハバーグッド! ナイスバディ!」
僕は、腕を広げ、最高の礼儀作法で挨拶を行った。か、完璧じゃないか。涎が出る。
「ば、ばか? あんた王様にわけわかんないこと言わないでよ」
「なにぃ! 今のダメなのか」
ライカに小脇を突かれる。
「ほっほっほ。肩ぐるしい挨拶はいらぬ。いつもの通りで良い。こちらへ、はようよるが良いぞ」
「そうですよ。お菓子もたくさん用意しておりますよ」
「は、はい」
僕らは、王様近くの椅子に順番に座った。
今更だが、現実にほっほっほ、と笑う人間を初めて見た僕だった。
椅子に座ると、王妃自らてくてくとこちらに降りてきて、手近なお菓子を開け始めた。
「これ、アッザムの村の遊毛王ゲームのクッキーです。ほら、食べて食べて、はい、あ~ん」
「うぐが、ごごごご、ごおえう」
意外と身近なお菓子だった!
しかも、なぜか、ビッケの口にお菓子が詰め込まれて、謎の音声を発している。
息は出来ているのか?
「こっちもありますよ。ねえ、ほら、あ~ん」
「あ、アリがごねうんえのまのす…」
ラ、ライカも犠牲に…。
なんか、田舎のおばあちゃんみたいな人だな。
「これこれ、そんなのは後じゃ。話をしながらでも食べられるじゃろ」
「それも、そうですね。ほら、むいておきましたからね」
「あ、ありがとうございます」
シールディが胸をなでおろすのが見えた。良かったね。
お菓子をごくんと、飲み込むとビッケが言った。
「あ、あの王様、実は大事なお話がありまして…」
「大事とな? はて?」
「実は、勇者様、今、記憶喪失なんです」
「なんじゃと!」
「なんですって!」
バイダイム国の大広間に戦慄が走った!
遊毛王のクッキーを食べた僕の口の中にも戦慄が走った!
うます。