2-4 初めての城下町
邪魔者のいなくなったので、僕らは再び歩き出した。
「約束の時間に間に合いません。急ぎましょう」
広大な野原を抜けると、突如として、道が開け城の先端が見えてくる。
おお、大きい! これは、すごい! ここが、バルダイムの国か!!
丘の上からお城の全貌が見えてきた。
それは、都会のビルの立ち並びよりも、壮大に見えた。
大きな真っ白なお城を中心に、周りに町が囲むように広がっている。
こんなのは、ファンタジーもののハリウッド映画ぐらいでしか、見たことがない、いや、あれもCGだと考えるとこちらは本物だ。やはり、本物には感服する。
空には、何匹もの鳥が気持ち良さそうに飛んでいた。
つい、インスタ映えするなあ、と思ってしまうが、これに共感できる人間はこの世界にはいないのだった。
町の入り口までいくと、大きな門があった、
たくさんの人が、兵士らしき人と話をして、出入りしている。
ビッケが兵士と話をして、サインをすると、僕らも中へ入った。
「おお! すごい!」
今度は、僕は感動の声を上げてしまっていた。
中に入ると、ファンタジーな家が立ち並ぶ中、メインの道はたくさんの出店であふれていた。
たくさんの売り子さんたちが、行きかう人々とやりとりをしている。
人の活気が溢れる町は、この国の平穏を表しているように見えた。
なので、より一層、勇者の決めた法律ってやつと、アンバランスに見えて、恐ろしくなってくる。
「ほら、勇者様、買ってきましたよ、テウンウッドの実! こんなにいっぱい!」
笑顔でビッケが、袋いっぱいのテウンウッドの実を見せてきた。
僕が好きだからかもしれないが、こんないろんなものの中からそれを買ってくるほど、価値があるものだったのか? 梅干しって。
「ほんと、あんた、それ好きね。これ、食べる?」
ライカがもぐもぐと、黄色い焼きトウモロコシを手に持って、みんなに配っていった。
「ライカちゃん、お行儀悪いですよ」
「だって、時間ないじゃない? 小腹もすいたし、食べながら行こうよ」
「シールディも、エルドの町のチョコクロワッサン買ってましたよね?」
「だ、だって! これは、ここに来たら買わなきゃダメなの!」
手で後ろに隠しながら言った。
シールディは甘いものが大好きなんだろうな。
ぼくも興味本位で、お店をのぞいてみると、焼鳥屋だった。
「へい! いらっしゃい! ん? あんた、勇者じゃねえのか?」
「え? は、はい。そうだと、思います」
どうも、勇者という呼称に慣れない。もうちょっと待ってほしい。
「おお、後ろにいるのは勇者様御一考じゃあねえか! 俺はついるねえ。ほら、これ4人分持っていきな!」
「え? お代はいかほど…」
「いいよ、いいよ! 持っていきなって! 願掛けみたいなもんだぜ!」
「あ、ありがとうございます!」
僕は、4人分の焼き鳥の串をもらうと、みんなに配った。
「おいしい! やっぱ、エルドの町に来たら、食べ歩きよね。お城に行くのが面倒くさくなってきちゃった!」
「もぐもぐ、そうですね。こんなに、いろいろな食べ物が食べられるところは、そうそうないです」
「ああ、ほっぺが落ちそうです!」
食欲という魔力の前に、いつも急かしていたシールディもミイラになったようだった。
なんて、エルドの町を堪能していると、
「あんた! やっぱり二股してたでしょ! 許せない!」
「ちょっと待ってくれよ! キャミ―! 僕は、そんなことしていないよ!」
雑踏の中、人波をかき分けて、言い合いをしている声が聞こえてきた。
のぞいてみると、
「だって、昨日、家にいなかったじゃない! 私とデートの約束していたのに!」
「それは、急用ができたからって、言ってるじゃないか! 何も証拠もないのに決めつけないでくれよ!」
「私、知ってるんだから。隣の家のパティと遊びに行ったんでしょ? パティもいなかったもん!」
「そ、それだけで、決めつけないでくれよ」
周りのざわめきから、「もう1時間以上やってるから、あれがくるなあ」と声がした。
「いい加減、認めなさいよ! 私の友達も、2人でいるところを見たって言ってるんだから!」
「いや、ちがうよ、断じて!」
なんか、終わらないやりとりをしているな。
どの世界も男女関係はいっしょなんだね。
道のど真ん中でやってるものだから、通行の邪魔だし誰か止めないのだろうか。
と、思っているとピッ―!! と高らかに笛の音がして、バシッとした黒い学生服のような服に身を包んだ眼鏡をかけた3人組がその2人の間に割って入ってきた。
「そこまでだ!! ここからは我らアホ毛決定権管理委員会の私たちが仕切らせてもらおう!」
アホ毛委員会と書かれた腕章をつけている。
ま、まじか!
僕は、今まさに、アホ毛決定権問題の全貌を目の当たりにするのだった…。