2-3 ライバルバイバイ
だが、先制はナイルだった。上段から来る刃をアイアンソードで受ける!
ガキンと金属音が響き渡る。
『いいねえ! この感じ、まさに死闘って感じじゃあねえか!』
刀は、自分の仕事が出来て嬉しいらしい。テンションが高い。
「ふん! だが、これは伝説の剣ではない。すぐに、その背中の剣を抜かせてやるでござる!」
「それは無理だな…」
なぜなら、僕は、この剣を持てないので、そもそも使えないからだ。
「は!! せい!」
「や! とう!」
おお! 成長しているな僕。一応、目で見てナイルの剣を受け止めきれている。ライカの特訓のおかげでござろうー! 言葉がうつった。
『なにやってる! ナイル、さっさと本気を出せ、ちゅくしょう!』
「馬鹿な。勇者エックスも、本気を出していないのに、私が先に出せるものか!」
そういうわけなのね。
ナイルは、僕の右手から切り込んできたので、受けるのをやめて、身を屈めて剣を躱した。
体制を崩したナイルの懐から、何かタオルのようなものが落ちた。
「なんか、落ちたよ」
「!? なにぃ! こ、これは、い、いかん!」
ナイルは、剣を放り出してタオルに覆いかぶさるようにしゃがみこんだ。
『こ、こら! 剣士が戦いの最中に、刀を放り投げるなあ!』
「やかましい! それよりも、こっちが大事でござる!」
刀が抗議している。そりゃそうだろう。
今のナイルなら、僕でも背中から簡単にぶった切れそうだった。
「あの~。隙だらけですけど」
「ま、待て! 今、直すでござる」
汗汗と、ナイルは懐にタオルをしまう。
「それ、大事なものなの?」
「なに! 貴様、忘れたとは言わせんぞ! あの、武道会の決勝戦が終わった後、お前から『いい試合だったぜ! ほらよ、汗をふきな!』と、お前が俺に渡してくれたものではないか! 私は、これを家宝のように大事にし、毎日、朝起きたらこのタオルにスリスリして、1日を始めるのを日課にしているのだぞ!」
『え?』
4人全員がハモった。
『てやんでぃ! 気持ち悪いんだよ! てめえはー!』
そして、一番身近な人から適切な言葉が表現された。
「何を言っているでござるか。ライバル、つまり、追いつき、追い越すもの。そのためには、まず目標の対象者と同じ環境に自分を置くことが大事になるでござる。だからこそ、タオルのほかにも、勇者が使っていたというペン、くし、靴下、シャツ、パンツ、歯ブラシ、コップ、など様々なアイテムを、私は持っているでござるよ!」
背中からツーっと、汗が引いていくの感じだ。悪寒というやつだった。
「き、気持ち悪いです」
シールディの率直な感想だった。
「そういえば、勇者様、『なんか、最近物がなくなるんだよなー』って、いってました」
ビッケが追い打ちをかける。
「貴様らのように、剣術を極めんとするものの志は到底、理解できまい。私のように厳しい目標設定をすることで、それが形になっていくでござるよ」
「ストーカーみたいなことを、目標設定って言うんだ…」
目的はどうであれ、やってることはやばい奴だった!
「貴様ら、人を小馬鹿にしおって! いいだろう! 私が日々行っている精神の鍛練、見せてやるでござる!」
言うと、荷物をがさごそと漁り始めた。
「じゃん! 見ろ、これが『勇者の歯ブラシ』だ! まずは、これを、口にくわえてだな!」
「やめろおおおお!!!!!」
悪寒が限界に達した僕は、我慢できずに、歯ブラシを口に突っ込もうとしたナイルを、思いっきりグーで殴っていた!
そう、この時は、前勇者と僕の意識は統合されていたといえよう!
「ぐはああああああああああ!!」
空中できりもみしながら、ナイルは飛んでいくと、偶然通りかかった、荷馬車のほし草に突っ込んでいった!
『おお! ナイル!! 俺を置いていくなよー! ちくしょー!』
かわいそうだったので、刀もポイっと荷馬車に投げ込んだ。
その瞬間、グサッと音がして、
「いったああああで、お前、何をやっているでござるか!!」
ナイルの悲鳴が聞こえるのだった。
しかし、荷馬車のおじいちゃんは、後ろのその声に気づかずに、僕らの進行方向とは逆に向かっていった。
めでたし。めでたし。