1-2 新・体・験
目が覚めると、世界が逆さまだった。
そうか、異世界は世界が逆さまなんだと思ったが、その瞬間、僕は床に落ちていた。
「いてててて・・・」
壁からずれ落ちたらしい。僕は、腰をさすりながら周りを見渡した。木造の壁、机、椅子、本棚・・・。どうやら、ここは本当に異世界らしい。
まあ、外国に飛んだと考えられなくはないけど。
窓はカーテンで湿られているが、明かりが入ってきていないところを見ると、今は夜らしかった。
「本当に、異世界に、来ちゃったのか・・・」
この部屋にいるだけでは、確証はないが、とりあえず、トラックにぶつかる瞬間からこの部屋に飛んでいるのは事実だ。日常で起こりうることではない。
ふと、見ると壁に掛けてある鏡があった。僕は、覗き込むことにした。
「あ、あ、あ、あ・・・」
そこには、知らない人間が映っていた。たぶん、この人が勇者なんだ。
ツンツンの髪に、目はつり上がっている。青い服に、黒のブーツ、黒いマント、背は僕と同じくらい。そして、信じられないくらいにネックレスと、指輪の数々。すごい、派手だった。
「やっぱり、異世界に、転生したんだ・・・」
僕は、勇者の顔を自分でまじまじと触ってそれを実感した。とりあえず、男でよかった・・・。と見当違いのことを考えていると、突然、ドアが叩かれた。
「勇者様!! 大丈夫ですか!? 勇者様!」
知らない声。当たり前だけど。だが、言葉は理解できたので良かった。
小心者の僕は、隠れる場所を探してしまっていたが、冷静に考えると、この場をしのいでもこの状況は変わらないな、と考えて、扉を開けることにした。
深呼吸して扉の鍵を開けた。
「勇者さ、うわわわわわわ!」
「いてっ!」
勢い込んで、小柄な影が部屋に入り込んできた。
「いたたたた・・・。勇者様、大丈夫ですか!」
「え、いや、だ、大丈夫だよ!」
ショートカットの金髪にメガネを掛けた背の低い青年だった。フードをかぶっているところ見ると、異世界であることの認識を強められる。
「異世界と更新するとかなんとか行って、2階に上がったと思ったら、すごい爆発音が響いたんでびっくりしましたよ! お怪我はありませんか!」
「い、いや、僕は怪我はないよ・・・」
「ぼ、僕!?」
しまった。勇者は確かに俺っていってたな。
「いやあ、俺は元気ピンピンだよ。はっはっは・・・」
無駄に胸を張ってみた。
ジッー・・・・
明らかに、疑いの眼差しを向けられている。
「ところで、君は何かね。俺と、その、同居人か何かかね?」
「え?」
メガネ君は、びっくりした顔をした後、顎に手を当てて考え始めた。
「あ、あの・・・・」
「うーん、心配だったんだけど勇者様はマナの力をエレメントに流動させるのが下手くそだったからなあ。魔法に失敗したのかもしれない・・・」
「え?」
ガバっとこちらを向くとメガネ君は僕の胸ぐらを掴んだ。
「勇者様、自分の名前がわかりますか?」
「な、名前!? えーと、勇者、です」
「勇者は名前じゃないです。あなたの名前ですよ」
「名前ーは」
早速ピンチになってしまった。そもそもこの世界の知識がなにもない以上、わからないことだらけなので、自分の名前を素直に答えよう。
「村上紘汰です」
「ム、ムラカミ・・・!?」
案の定なリアクションが帰ってきた。
「こ、これは!? 大変だ! 勇者様がおかしくなっちゃった!」
「お、おかしくはないよ、ただの知らないだけだよ」
「完全におかしいですよ! みんなに知らせなきゃ! 勇者様もこっちに来て下さい!」
「あいたたたたた!」
メガネ君に腕を引っ張られながら、僕は階段を引きずられていった。