2-1 『バルイダムの波瀾』 初めましてライバル
僕らは、次の目的地バルダイムに向かっていた。バルダイムは結構大きな国らしい。
城を囲むようにして城下町が栄えているそうだ。
そして、僕らはそこに何しに行くのか。
「まあ、記憶喪失のあんたに言うのもなんだけど、あんたの決めた法律のせいで、だいぶ混乱しているのよね」
「僕が決めた法律って?」
「バルダイムの王様は、カーザマっていうんだけど、その娘さんが3姉妹なの。んで、王様は早くから国を治めていく経験を娘たちに学んでほしいって、あんたなんか頼むものだからさ」
「勇者様は、衣食住の権限を3人に分けて管理させるように提案したのです。それが、王様の心に響いて、実際に実行されているんです」
「え? つまり、3人が交代で、衣食住に関わっていくってこと?」
「そうよ。でも、3人はもともと仲が良くなかったわけだから、うまくいくはずもなく、定期的にあんたがいって、それをとりまとめているってわけ」
「それは、難しそう…」
地平線を見渡せそうな道を僕らは歩きながら話していた。時折、荷馬車とすれ違ったりした。
シールディが言った。
「あと、3姉妹はとっても美人なんですよ。ユイ様、ユーカ様、ユマ様。とっても個性あふれる方たちなんです~」
「あのー」
僕は嫌な予感がしたので、聞くことにした。
「また、僕は手を出していて、男女関係があるんじゃないよね」
言った瞬間3人が、今までの談笑が嘘のように黙りこくってしまった。
やはりか! やはりなんだな!
「まさか、3人ともじゃあないよね。それはさすがにそんなことしないよね?」
「『さすがにないこと』をする、それが勇者ってもんだ、って勇者様が自分で言ってましたよ」
正確には違うんだけど、ビッケから盛大なブーメランが僕に帰ってきた。
「完全に、そのせいで、仲が悪くなったんじゃないの!」
「興奮されても困りますけど。もともと悪かったようですし。火に油を注いだだけですよ」
「火に油を注いだら、火事になるだろう! 大火事だ!」
「ちょ、ちょっと! ぼ、ぼくに詰め寄らないでください!}
気づいたらビッケの首を絞めていた。
いけない。いけない。
「もう、僕もさあ、本当、女の子に手を出す相手を選んでほしいなあ」
「自分に言ってよね…って言っているか。あと、問題はそれだけじゃ、ないわよ」
「まだ、あるの?」
「あるわ。その城下町にエルドって町があるの。この町も、魔王の戦いのあと、治安が悪くなったので、あんたが、それを収める為に作った法律がまた、問題で」
「問題とは?」
「その名もアホ毛決定権問題よ!」
「え? もう一回言ってほしい。アホ毛って聞こえたけど」
「私だって、言いたくて言ってるんじゃないわよ! あんたが自分で決めたんでしょ」
今度は僕が首を絞められている。酸素が足りない―!
「ぐえ! アホ毛がどうなるの?」
「前話したと思うけど、今度は、もめた後に、いっせーのがせいで、帽子をとって、お互いがアホ毛の多い数で勝負を決するのよ。自分で言ってって、私も意味わかんいないけど」
「アホ毛…」
意図的に作れるものだったのか。アホ毛って。
あと、国王マジ仕事してないな! 適当だな!
「その法律も問題なんだけど。その法律が出来て権力を握っちゃっている人がいてね。その子が、居酒屋の看板娘エルバディっていうんだけど。負け知らずなんだって」
「それは、すごい、のか・・・」
アホ毛の力の基準がわからない。
「本人は望んでいないけど、この娘がいるだけで、いろいろなことで勝利を勝ち取ることが出来るから、町中で引っ張りだこなんだって。だけど、それが嫌だって。本人から悩みの伝書バットが届いたの」
もはや、つっこみどころがいっぱいだが、伝書鳩よりも伝書バットの方が夜活動しそうだなとは思った。
「あんたが、まきにまきまくった種なんだから、こっちも解決してあげないとね」
「…」
「勇者様言ってましたよ。困った女の子がいるならば、俺はたとえ異次元を越えた異世界にでも行くであろうって」
その人、もう、そこに行ってますけどね、実際、はい。
なるほど、今度は魔物退治のような戦闘ではなく、内政っぽい感じか。とほほ。まあ、無敵の戦闘力を求められるよりかはいいかもしれない。
僕が顎に手を当てて、これからどうしようかなあと考えていると
「ついに見つけたでござる! 勇者エックスバーランド・センチュリーマキシマムカッサウェイ!!!」
「な、なにぃ!」
この世界に来て、初めてその本名をフルネームで言っている人を見た。
そいつは、道の真ん中で腕組をして立っていた。
白銀の長髪に、水色主体の侍のような服を着て、さらに腰には鞘を携えている。ずいぶん日本的な恰好だった。こっちの世界にも日本のような国があるらしい。
「いつも、いつも、どこかにふらっといなくなりおってからに! 今度こそ、今度こそ、いざ決着をつけようぞ! 略して勇者エックスよ!」
ガチャリと腰の剣を抜いた。やっぱり、日本刀だった。
そして、名前はあっさりと略された。
僕はライカに小声で聞いた。
「あの~、あのお方は?」
「そういえば、いたんだった。こんなの」
ライカの態度を見るに、良い感じの方ではないらしい。
「どこかの国の武道大会の決勝戦で当たって、あんたがボッコボコにしてから、それ以降「ライバルでござる!」って、ずっと付きまとってくる変なやつよ」
「変なやつとは失礼でござるよ!」
目の前にいるのに、ライカは指差しして大きな声で言った。
「さあ、勇者エックスよ。我らに言葉は無用。早く背中のブツを手に取るでござる」
戦いでしか分かり合えないってキャラか! 僕の戦闘力では誰とも分かり合えないであろう。
「あの~。ナイルさん、実は最近、勇者様は、記憶を失ってしまって。その時に、戦い方も忘れてしまったのです」
「?? 記憶を失ったというでござるか!」
「そうそうそうそう!」
ビッケのフォローに乗っかり、僕は、必死にアピールした。名前はナイルっていうらしい。
「だが…」
ナイルは、しかし、あきらめるどころか前にずいっと、踏み出た。
「体は戦いを憶えているであろう!!」
昼ドラのようなことを言いながら、刀を振りかざしナイルが僕に襲い掛かった!