1-17 胸・中・成・竹
シルフの力により、谷間に突風が吹き荒れる。
ワ二は、一瞬吹いた風に構えたが、その風が大したことがないと判断して、僕の方へ再び走り出す。
が、次の瞬間
「!?」
ガコン!
ワニの鎧が外れ、勝手に落ちた。
ワニは、意味が分からないと、自分の体を見ている。
「え?」ビジットも驚いているようだった。
「よ、よし!」
偶然とはいえ、僕が唯一成功したことのある魔法がうまくいった。
その魔法とは、つまり、相手の防具を解除するものだった。
「たああああああ!」
このチャンスを逃すわけにはいかない! 僕は、ダッシュで槍を構えると、相手の心臓があるであろう胸に突き刺した!
バッシュと血しぶきが飛ぶ!
「ぐぎゃああああああああ!」
ワニは、剣を捨て、胸の槍を抜こうとするが、そうはいかない! 僕は突き立てた槍をさらにねじ込む!
ブッシュ! と血しぶきが吹き飛び、さらに、ワニは悲痛な叫びをあげる!
「や、やった! すごい、勇者!」
ビジットが賞賛の声を上げる。
ワニは、槍ではなく、その眼光を僕自身にギラリと向けた。
剣を落とした以上、次にワニが出来ることはーーーーー
ぐわっ!
と、大きな口を開けると、刃のように並んだ鋭い歯がいくつも見えた。
ワニのかむ力は1000kgを越えると聞いたことがある。
これに噛まれたらひとたまりもないだろう。
なので、僕は背中のあるものをごそごそと手にとった。
「ぐおおおお!」
ワニが、雄たけびを上げ僕の頭を噛みちぎろうとした。しかしーーー
「いけええええええ!! マナ流動!」
僕は手に取った勇者の盾に、エネルギーを注ぎ込み、ワニの口に押仕入れるようにした!
口を大きく開けたまま、閉めることが出来ないまま、ワニの巨体は、ぐぐぐ、と後方に動くと、ドガッ! と岩壁まで吹き飛んだ!
よし! 思った通りだった。この盾は、あらゆる攻撃を防ぐ、触れることが出来ない、つまり、盾から触れようとすることで、相手を押し付け、吹っ飛ばすこともできるーーーーー。という、憶測を立て実行したがうまくいったようだった。
また、特殊な力がある道具には、マナを流動することでその力を開放することも理解できた。
僕は、そのまま盾を持ったまま、岩壁まで追い詰めたワニに対しさらに、追撃を加える!!
「ぐうう!」
ワニは、わけがわからないだろうが、同情するつもりはない!!
「はあっ!
僕は、勇者の盾で、ワニを岩壁にロックするように押し付けた! 力を全力で注ぎ、ワニを固定する。
ワニは、じたばたと暴れるが、岩壁と勇者の盾で挟み込まれた状態になっている!
あとはーあとはーーーーーーーー!
頼む!!
祈りながら、僕は、ワニの固定を続ける! じたばたと動く、動かないでくれ!
20秒、30秒・・・・まだか!
ワニを固定して時間が過ぎていく。僕の力も徐々に弱まってきた。やはり、マナとは自分自身の生命力、使えば消費していくんだ・・・。
力が入らないといよりは、頭が疲れたような状態になってきた。これが、生命力を消費するってことか・・・。盾に流していく力も徐々に弱まっていっているのがわかる。
1分!!! 限界か!!!!
諦めかけたその時、待っていた声が上から聞こえてきた!
「遅くなったわ!!!! 勇者、どきなさい!!!」
上空からライカが下りてきていた! 2本のダガーを前にして、こちらに突っ込んでくる!
来てくれると―信じてたー!!
「私の残ったマナ、全部叩き込んであげるわ!! 『トランス! マナ流動! コンセントレイション・スラッシュ!!」
ライカの体が一筋の光の刃となり、ワニの額の宝石を一閃して貫ぬく!!!
「ごがああああああああああああああああああああああ!!}
宝石は貫かれ亀裂が入り割れた。
ワニは最後の断末魔を上げると、体が黒い霧とともにボォオオオンと、弾け飛ぶ。
黒い霧の中に、人影が見えた気がしたが、一瞬で消えてしまった。
霧が晴れると、そこには、ひび割れた黒い宝石だけが残っていた。
「や、やったのか・・・ハァハァハァ」
何気に手を見ると、僕なのかワニなのか、真っ赤な血の色で染まっていた。
「あ、あはあ・・・」
再び貧血のような症状により僕は気を失った。
意識が薄れる中、ステレオでデジットとライカの声か聞こえた。
悪くないバッグミュージックだなって思った。