1-16 超・越
ビジットは、逃げているがいかんせん、ココの広場は狭い。
逃げる広さはなかったので、すぐに追いつかれてしまう。
「ハァハァ・・・」
壁を背に、ビジットが立ち止まった。
ワニはすぐに、前方に迫っている。
が、たどり着かせない! 僕も近くまで、ダッシュで走りこんでいた。
「やああああああ!」
槍を再びワニの背後から奇襲をかける!
だが、ワニは、分かっていたかのように、槍を横に避けると、再び僕の腹を殴った。
「げほ!」
しかし、殴られながら僕は槍を離さない! そのまま、鎧で覆っていない、腕に槍を突き刺してやる!!
「でやああ!」
「ぐがああああああああああ!」
槍を刺した僕を突き放そうと、ワニは、空いた手で何度も何度も殴ってくる! しかし、僕は離さなかった。刺さった槍に体重をかけて、少しでもダメージを蓄積させていく!
「ぐがああああああ!」
ワニは、体制を変えると、真剣を僕に向けた。! 剣はやばい! さけないと! 致命傷は避ける!
ガキン!
僕は、槍を抜くと、剣を槍の柄で受け止めて踏みとどまった。危ない。
力は、凄まじいが、おかげでスピードが鈍い。こんな僕でも、相手の動きが予測できる範疇で収まってくれるので、何とか対応できそうだ。
体が痛む。けど、このダメージなら、まだ、動ける。
そして、痛いはずだが、僕は何か、自分の中で変化していくのに気がついた。痛いし、苦しいはずなのに、僕の中に芽生えつつある何かを感じ取っている。
ワニは、腕のけがに触れ、怒りを携えた眼光を僕に向けると、いよいよ僕に進行方向を変えた。
こういった意味では、知能がないのではないか、と思うが。今は、助かる。
「ぐおう! ぐおお!! ぐおおおおお!」
「っく! しつこい!」
ガン! ガン! ガンッ!
ワニは、執拗に、何度も剣で切りかかってくる。受け止め切れているが、やはり、力が強い。僕の体力は、徐々に削られていく。再び手が痺れてきた。いや、関係ない。耐えろ!
「勇者! 逃げて!」
「逃げるわけには・・・いかない!」
叫んだ瞬間、ワニが尻尾で、僕の背中を薙ぎ払った! 爬虫類! 尻尾は、考えていなかった!
かなり、やばい感触がして、僕は再び、吹っ飛んだ。
っく! 背中が、痛い・・・! 出血しているか・・・。
だが、そんなことにかまっている暇はない。
僕は傷口を見ずに、すぐに立ち上がろうとした。が、体中に激痛に思わず槍にもたれかかった。
「っく!」
「なんで! あなた、記憶がないんでしょ! 戦い方も忘れちゃったから、戦えないんでしょ。なら、無理しないでー」
ビジットの叫びに僕は答える。
「僕は、僕は、やれないからって、諦めてた。必要とされないからって、諦めてた。でも、それは、今ならそれが間違っていったってわかる。僕は、戦いを上手じゃないし、こんなにボロボロだし、だけど、だけど、前に進んでいる、ほんの少しでも。挑戦すれば、良かったんだ。諦めなければ、僕は、」
僕は、よろよろと再び立ちあがると槍を右手に持って、空いた左手をワニに向かって構えた。
「前に進めたんだ。何もしないのが、いけなかったんだ。戦えないなら、戦いを求めればよかった。勝てないなら、勝ちを求めれば良かった。必要とされないなら、必要とすれば良かったんだ!」
ワニは、叫び剣を振り上げ僕に襲い掛かってくる。
衝撃波が起きるぐらいの咆哮をあげながら!
「何を言っているの! 逃げないと! 死んじゃうよ!」
「そうだ! 死んでから気づいた、僕は! 今更!! なんて情けない、でも、僕はまだ、間に合うなら、諦めない!!」
僕は魔法を唱えた。僕が1つしか使えない、魔法を。今度は、僕の意思を持って!
「『エレメント、シルフ! マナ流動! ウィンドウズ・ソサエティ!!!』」