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1-15 直・進・邁・進


僕は目の前のワニを睨みつけた。できないとか言ってられない。


ワ二も、こちらを睨みつけていた。先ほどの戦いから、僕は戦闘力が弱いと判断されているのだろう。

口元が笑っているように見える。


魔物というのは、どこまで知力があるのか。見ている範囲だと見当がつかないが、こいつは、戦闘のどさくさに紛れて、こちらに襲ってきた。僕が勇者だからか? それとも、後方にいたから、弱いと判断して、こちらから潰しに来たのだろうか?


どちらにせよ、相手が有利なのは間違いない。僕が現状を打破するには、1・根性で倒す 2・逃げ切る 3.ライカ達が来るのを待つ、の3択しかない。


本当は、1・根性で倒す 僕の中の勇者の力が目覚めて、一掃してくれるとマンガのようでとても嬉しいが、今までの戦闘から、その気配が全く自分の中に感じられない。そんな、可能性の低いものに頼っても、無駄だろう。


なので、逃げ切る、か、ライカ達を待つ になる。

逃げ切るのは、もう無理だ。ビジットもあの状態だ。抱えて、走ることは困難だろう。


上部に耳を澄ますと、相変わらず、打撃音や爆破音が聞こえてくる。あと、1体なはずなので、時間を稼げばあるいは・・・。


僕は、槍をまっすぐに構えると、ワニに向き合った。


「たああああ!!」


今までは、受け身だったが、今度は攻めに転じる! 見様見真似だが、刃を相手に突き刺すようにくりだす。

ワニは、僕の攻撃に、気づいて、剣で受けようとする。


ガン! ガン! ガン!

素人ながらに何とかなっていた。どうも、槍の方が剣よりも機動力が勝っているおかげで、僕の手数が多く出せるようだ。


「そこだ!」


何度か、ガンガンと槍を突き続けているうちに、ワニがふらりと体制を崩した!

これは、チャンス!


がら空きになった槍の刃を胸に向かって突き立てる!

しかしー


ガンッ!


と音が鳴り響いた。槍は、ワニの着ていた鎧に防がれたのだ。至極当たり前だったが、当てることに集中し、見えていなかった。


「グオオオオオオ!!!」


槍が弾かれたことで出来た僕の隙を、ワニは見逃さなかった。

僕の体は、ワニのすぐ近くにある!

ブォン! 、と風を切る音がして


「ぐはっ!」


ワニの左の鉄拳が僕の腹に叩き込まれた!


無様に地面叩きつけられる。肺で呼吸が出来ない、腹部に激痛が走る。


「がはっ!」


そのまま、地面に倒れた僕を、たぶん、ワニは蹴飛ばしたんだろう。見えていないからわからないが。


無様に、ゴロゴロと転げて、僕は岩壁にぶつかり止まった。

「ガハッハハアハハハ!」


ワニは、笑っているようだった。そうだ、向こうの世界でもあんな奴いたなぁ・・・・。相手よりも絶対的立場にいる人間が、自分よりも弱い人間をいたぶって楽しんでいるような・・・。胸糞悪いなあ。


僕は、なんとか手から離さずにすんだ槍を杖代わりにして、立とうとした。が、右足と左足が打撲したのか、再び激痛に襲われる。

現実では、ここまで身体的ダメージを負ったことがない。せいぜい、走りすぎて筋肉痛になったことぐらいだろう。こんなにも、痛いものなのなのか。


こんな苦痛がない向こうの世界って、実は幸せだったのかもしれない。


「っく!」


ワニは、剣を構え、こちらにのしのしと歩いてくる。迎え撃たなくては・・・・!


でも、良かった。デジットの方へ向かったんじゃなくて。僕で、いいんだ。こっちに、来い!


その時、ワニの頭にコツンと小石が当った。いや、当てられたのだ。

ワニがそちらに頭を向ける。


「ちょ、ちょっと、あんた、ハァハァ、勇者は、私の、・・・なんだから・・・やめなさいよね・・・」


見ると、デジットが服がボロボロの状態で、ヨロヨロと立っていた。

デジットが石をワニに向かって投げたのだ。


ワニは、一瞬止まったが、

「ぐおおおおおおがあああ!!」


馬鹿にされたと思ったのか、挑発したデジットの方向へ走り出した。


あの娘は、何をやってるんだ、いくらなんでも、武器もないのに無謀すぎる!

そこまで、勇者の事を・・・ってことか。


「こっちに来い・・・!」


デジットは、策はないだろうに、走り出そうとしている・・・。


くそっ! デジットが好きなのは、前の勇者かもしれないけど、今は、僕が勇者だ。僕が、今の僕が、何とかしないと!


「ぐおおおおっ!」


僕は、叫びで痛みを吹き飛ばすと、何とか立ち上がる。


自分のできることを全部するしかない・・・! 


その時、頭上から、2度目の凄まじい爆発音が聞こえてきた。

今までに聞えてきたことがないぐらいの衝撃音だった。

一体、どんな技をつかったんだろう? 魔法かな?


たぶん、2体目をやったんじゃないだろうか。 だけど・・・みんなを待っている時間はない!


僕は、血だらけになった手で槍を握りしめると、ワニに向かって走り出した。

勇者として。


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