1-14 無・力
「う、ううう」
気がつくと、薄暗い場所にいた。
あいたた、体中が痛い。
「あいたたた・・・」
すぐ横には、ビジットがいた。どうやら、無事のようだ。良かった。
僕は重い体を、何とか立ち上がらせると、周りを確認した。
上部から、金属音や、爆音が聞こえる。どうやら、かなり、下まで落ちてしまったようだ。
とりあえず、装備を確認するが失ったものはない。
「まあ、しょうがないよな。逃げるしかなかったんだから」
「いててて、ねえ」
ビジットがそばに来ていた。
「ん? あ、ごめん、さっきは強引に・・・」
「うんうん、助けてくれたんでしょう。ありがとう」
「あ、う、うん」
こっちの世界に来て、初めて感謝されて少し嬉しかった。
「でも、胸を触ったり、私を抱きしめたことは、永遠に憶えているからね・・・」
「え?」
感謝のおまけがついていた。さっきつき飛ばしたことと、飛び降りた時のことか!? しかもフォーエバー。
「でも、勇者、なんか、前より弱くなっていない? あんなやつなら、一発で倒せるでしょ」
「まあ、倒せるんだけど・・・」
やっぱ、バレるよな。
「実は、僕、最近、記憶喪失になって、何にも憶えていないんだ」
「え? き、記憶喪失!?」
ビジットは、ポカーンとした顔をした。
「じゃあ、私の事も?」
「うん、憶えてない。って、たぶん、言ってたような」
「いや、あれは、嘘かと思って」
「嘘じゃないだよ、本当なんだよ。だから、戦う力も失っているような感じなんだ」
「そ、そういうことかー」
ビジットは、そうか、そうかーと、うなずくとう~んと、唸っている。
すると、上から声がしたような気がした。僕は上を見ると、ライカの声が微かに聞こえた。
「・・・・! に・・・・、わ・・・・!」
金属音と爆音で、うまく聞こえなかった。
「えー! なんて言っているの!?」
「そっち・・・いった! にげ・・・・」
「ワニがそっちに、降りて行った! 早く逃げてー!!」
「えええ!!」
まずい。今のボロボロの状態じゃ、さっきよりも追い詰められる可能性がある。
「ここから、離れよう」
「離れようっていったって!」
確かに、周りは、崖に囲まれている。
身をひそめるしかないか。
「とりあえず、こっちに・・・」
「危ない! 勇者!」
ビジットに突き飛ばされた。その場所を、剣がブォンとすさまじい音を立てて、通り過ぎて行った。
「グルルルルル!」
ワニだった。僕らを追って、降りてきていた。しまった!
「よし! 私が、やる! 勇者は、下がってて」
ビジットはそういうと、僕の手から奪った槍をくるくると回し、牽制する。
まさか、さっきの話を聞いて、ビジットは僕を守ろうとしているのか?
「グオオオ!!!」
「これぐらいで!」
ガンッ! ガンッ! と、ワニの剣の一撃をビジットは槍で受け流していく。当たり前だが、僕よりも上手かった。
しかし、防戦一方だ。このままだと、体力負けしてしまうだろう。
僕も何か、考えないと!
その瞬間、頭上で、ボーン! という爆裂音が響き割った!
「ギャガアアアアアアアアアアアアア!!」
この世の者とは思えない、叫び声が聞こえる、たぶん、ライカ達が1体倒したんだ。
ワニも頭上の音に気を取られ、一瞬、動きが止まった。
「チャンス! トランス、マナ流動、ストライク・ニードル!」
上手い!
ビジットの槍が光り輝き、勢いをつけ突進する!
それを見た、ワニは、剣を地面に突き刺し、それを両手で受け止めた!
「やあああああああああああ!!」
「ゴウオオオオオオオオ!!」
ワニの手は、槍の攻撃を受け止め、血しぶきを上げる! が両手で槍をつかみ取り、そのまま、ビジットごと、吹き飛ばしてしまった!
「え? きゃー!!!」
ドカッ! と岩壁にたたきつけられるビジット。
「大丈夫!!」
僕は、ビジットに駆け付けようとしたが、
「グルルルルルル」
再び、剣を手にしたワニが僕の前に立ちふざかった。
僕は、ワニから目線をそらさずに、地面に落ちている槍をゆっくりと拾った。
やらなきゃ、次は、僕だ。
女の子があんなに頑張ってくれたのに、僕は何をしているんだ!
記憶喪失とか、そんなこと、もはや関係ない。
僕は、槍を握りしめると、その刃を相手に向けたーーーーーーー。