1-11 通・常・戦・闘
大きな真っ白い虎が、僕らの前に立ちふさがった。
戦闘曲がバックBGMに流れると期待したが、特になかった。
悲しい。
それにしても。で、でかい。何を食べたら、こんなに大きく育つのか!
「ホワイトタイガーン、ね」
「ホワイトタイガー、ン?」
「獣の名前も分からないのね・・・」
ライカが言った。
この獣の額には、宝石が見当たらないので、魔物ではないということか。
天然の生き物だ。
ホワイトタイガーンは、ぐるぐるるるると、涎を垂らしながら、僕らを周りをゆっくりと歩いている。まるで、品定めをしているようだった。お腹すいているんだろう。
そして、ビッケに視線を定めると、いきなり、ガバッと、牙をむいて襲い掛かった! 僕じゃなくて良かった!!
「『エレメント・サラマンダー! マナ流動、ファイアー・ストーム!』」
ギャウン!!
ビッケが唱えると、目の前で、突然、火炎の竜巻が発生すると、ホワイトタイガーンの尻尾に、引火した! 悲痛な叫び声をあげて、茂みへ消えていった。
「おお! すごい! これが、まともな魔法か!」
「ま、まともって。これが普通ですよ」
みんなの服が吹き飛んだりしないか、期待したが徒労だった。
「し、師匠とよばせてください!」
「え? な、なんですか? 勇者様、突然!」
僕は、ガバッとビッケの足元にで正座をして、頭を下げると、お願いした。とりあえず、初歩的な魔法から身につけたほうが、戦力が上げられると思ったからだ。正直、勇者の奥義とやらを、僕が使えるようになる保証はない。
しかし、先ほどのように、魔法なら一応出来たので、こちらの方が期待が大きいと思ったのだ。
「記憶が戻るまででいいから、簡単な魔法を教えてくださいませっ!」
「や、やめてくださいよー! わ、分かりました。時間があるときに少しずつ教えますから」
「本当! やった!」
僕は、ジャンプして喜んだ。が、背中の伝説の武器セットが重くて、ジャンプできなかった。
今のところ、伝説の剣は全く役に立っていない。
「あの~。攻撃魔法でなければ、私もお教え出来ますけれど」
シールディが上から覗き込んできた。
「そ、そちらもお願いします!」
「わかりました! 簡単な補助魔法から教えますね」
回復や補助系の魔法も使えたら、この劣った能力を保管できるだろう。こうなったら、アイテムや魔法でドーピングできるだけドーピングをするしかない。
ゲームの勇者も〇〇の種とかで、力を上げていたので、僕も真似てもいいだろう。
肩をチョンチョンとつつかれたので、顔を上げるとライカだった。
「ちょ、ちょっと、だ、だったら、私は・・・、ま、魔法は出来ないけど、スキルを教えることができるわ」
「おお! そちらも、お願いします!」
僕は、3人に頭を下げた。プライドを捨てて、生きることを選んだ、男の生き様を、世の中に見せるしかない。
「いっぺんには無理ですので、1日交替で、トレーニングしていくのがいいですね」
「そうね。ジャンルがバラバラだから、1対1で教えていきましょう」
「わあ~。勇者様に、何かを教える日が来るなんて~。ちょっと、ドキドキします! トレーニングメニューを作らないと~」
なんていい人たちなんだろう。
これは、真面目に取り組まなければならない。
「といっても、今日が終わってからよ。ビッケ、早く探知してくれる? 逃げちゃうかもしれない」
「ああ、そうでした。それ!」
杖を天にかざすと、またしてもピコーン、ピコーンと音が鳴り響いた。
今度は、特におかしくなかった。人間の慣れって怖い。
「魔物とは少し、距離が開いてしまいました」
「走って追いかけるわよ。みんな、いくわよ!」
「ええ!」
僕らは、山道を走り出した。
果たして、魔物とはいったい、どんなやつらなんだろう?
魔王軍の配下なので、見た目はやっぱりえげつないだろう。
強さも先ほどの獣のようには弱くはないだろう。
僕は、手に持ったら槍を、ギュッと握りしめ畏怖の念を振り払おうとしていた。