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1-1 異・世・界・転・生

今日もけだるい日が続いていた。

世の中が動いているが、俺は必要とされていない。

やることもない、行くところもない。

そんなことが続いていく中で、それさえもいつからかわからなくなるぐらいの月日が立っていた。


僕は就職を失敗した。

正確には諦めた、のが正解だが。


特に有名でもない大学に滑り込みで入れたものの、やりたいこともない僕は、特に目標もなく生きていた。

大学3年目で就活が始まったが、周りががんばっているので、僕も頑張ることにした。しかし、行く先々で僕は必要とされなかった。


周りが次々と社会という次のステージに飛び立っていく中で、僕は立ち止まり、次の世界へ足を踏み入れなかった。


そして、大学を卒業して、何もせずに月日がたった。

家族は優しいから何も言ってこない。

友達は徐々に話が合わずに離れていった。


目標も特にない。

僕はこの世界に生きているが、まるで周りは別世界のように目まぐるしく動いている。


僕は世界に必要とされていない、そう思うようになっていた。



今日は、叔母に送る郵便物を出してきてと母に言われて、外に出た。

少しでも外の世界と接触してほしいからだろう。

僕はそれを受けて、外に出た。


日光を眩しく感じながら、道を歩いた。いろいろな人が歩いている。みんな、それぞれ、自分の目標や役割があって、それに向かって歩んでいるんだ。


僕は、頼まれた郵便物を出すために、郵便局に向かうだけ。

自ずと人と目を合わせるのが嫌になっている自分に気づいた。


僕は、郵便局で郵便物を出すと、家に戻ることにした。


外出たけど気分は乗らない。さあ、これからどうしたらいいんだろう。

お得意の自問自答が始まったその時・・・



ーーーー僕の目の前には、トラックが迫っていった。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



ーーーーい。


なんだろう・・・。声が聞こえる。


おーーーー、、、い。


男の声が聞こえる。誰かを呼んでいるようだった。


おい、おい!!

次第に怒気をはらんだ声になる。


「っておい、起きろ!!」


ドスッ! 体の胸あたりが痛み、僕は目を開けた。

「な、なんだ!?」

「なんだじゃない、起きろ!」


僕は、自分を蹴っ飛ばしたであろう人物を見上げた。しかし、そこには、黒い影がおぼろげに立っているだけで、顔も姿もよくわからない。


「ゆ、幽霊?」

「ちげーよ。まあ、どっちかってーと、お前さんのほうが幽霊になりかけているみたいだがな」

どういうことだろう? 僕は周りを見回してみたが、薄暗く何も見えない。ここはどこだ?」

「俺もよくわからないが、お前さんは死にかけてここに来ているみたいだぜ」


え? どういうことだろうか? 僕が死にかけて・・・、そうか。あのトラックに僕はぶつかって・・・。


「でも、ここはどこなの?」

「俺もよくわからん。まあ、たぶん・・・」


影は周りを見渡して言った。


「異世界を繋ぐ空間じゃないかと、俺は思っているけどな」

「い、異世界を繋ぐ空間??」


異世界という言葉を死にかけて聞くことになるとは思わなかった。この場合、霊界ではないのだろうか?


「お前は、死にかけて偶然この空間に呼び出されたと思うんだが、俺は自分で来たんだけどな」

「え? 意味がわからない」

「まあ、わからんで良い。見たところ、世界そのものが違うみたいなんで、話も合わん気がするぜ」


影は、説明を諦めてしまった。というか、すでに意味がわからない。この影は、自分でここに来た? 別の世界から?


「たぶんだな、あっちの光が俺のいた世界、こっちの光がお前のいた世界だな」


影は、指でそれを指し示した。

僕は、自分の世界と説明を受けたほうを見た。すると、父や母が一生懸命、僕に声をかけている様子がぼんやりと見えた。つまり、僕は病院かどこかで、トラックによる事故で運び込まれて治療を受けているようだ。


「父さん、母さん・・・」


僕は、2人の悲しそうな顔に、胸が苦しくなる思いがした。だけど・・・。

だけど、2人をずっと悲しませてきたのは僕だった。何もしないで、何も応えないで、2人に長い間、同じ顔をさせてきたんだ。


僕が死んでしまったら、きっと悲しむかもしれないけど、生き返ったとしても、きっと僕は変わらない。また、2人に悲しい顔をさせてしまうんだ。だったら、いっそのこと・・・


「このまま、僕は、生き返らないほうがいいかもしれない・・・」


ぼそりと、口出していた。


「なに?」

「僕は、自分の世界で、何もして来なかったんだ。だから、周りの人を悲しませてきた。だったら、もう、僕がいないほうが悲しいことが起きないと、思う・・・」

「はあ」


「僕は、生き返らないほうがいい・・・」


僕は、そういった。正しい考えだと思ってそう言ったけど。僕は、たぶん泣いていた。


「ふうん。まあ、情けないやつだな。何もしていない、だったら、何でもしてみれば、よくね?」

「何もしたいことがないんだ、何にもなかったんだ、気がついたら・・・」


僕は、得体の知れない影にそう言った。


「本当にそうか? お前は、本当になにもないのか? それって、やってみてから言うことじゃないのか? お前の世界の常識がそれなら、俺には到底理解できそうにないね」


見下されたように言われた。死んでからも見下されるとは思わなかったが。


「まあ、お前の意思はわかったよ。なるほどな。お前の気持ちは理解できんが、お前のしたいことはわかった。となるとだ・・・」


人影は、パンと手を叩いたように、見えた。


「こりゃまた、都合がいいわけだ」

「は?」

「俺は、お前と違うがある意味同じなんだ。俺は、自分の世界でしたいことがなくなっちゃったんだよ」


「え? どういうこと?」


したことがなくなった、事の意味がわからない。それは、やり尽くした、という意味だろうか?


「まあ、世界観が違うんで説明が難しいから、簡単に言うが、魔王をボッコボコに倒して、世界に平和をもたらしたけど、平和な世界でやることが、面白くなさすぎて、飽きちゃったんだ」

「魔王を倒した?」


僕らの世界で言う、悪い大統領とか、だろうか。 現実にいる魔王というのは想像が難しい。


「まあ、英雄なんで好き放題できるんだけどさあ、これが、なんというか、特に苦労しない日常って、つまんなくね?」

「そ、それはそうだけど・・・」


この人の言っている日常がよくわからないが、僕の今の日常は、ご飯食べて、ぼーっとネットして、寝るだけの毎日。それと同じ?


「というわけで、異世界へ遊びに行く魔法ってのを試してみたんだが・・・よくわからん癖にできちゃったんで、こんなところに来てしまったわけだよ」

「魔法??」


彼? から出てくる言葉を拾っていってわかることは、彼はゲームなどで出てくるファンタジーの世界から来たのではないか? と推測はできる。


「なんで、さ。簡潔に言うが、お互いの意見が合うわけだ。なので、俺と世界を交代しないか? うん、それがいいぞ。いいアイデアだ!」

とんでもないことを言ってきた。


「ど、どういうこと!?」

「そんな、難しく考えるなよ。あっちの光にお前が行く、こっちの世界に俺が行く。万事解決! OK?」

「オーケーじゃないよ。僕は、別の世界に行くってこと!?」

「そりゃ、俺も別の世界に行くわけだから、同じじゃねえか! な、お互い納得したことだし、これでいこうぜ!」


「ちょ、待って、僕は生き返らないって話で異世界に行くことじゃない・・・」

「もう、うるせーな! とっとといけよ!!」


僕の体は、影に軽々持ち上げられると、あっちの光という方向に軽々投げ飛ばされてしまった。


そしてーーーーーーー 体が軽くなって、また僕は意識を失ったのだった。




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