頑固なお姉様
「あの、本当にいいんですか?」
リーシャが潤んだ目をしながら、申し訳なさそうに私達を見ている。
胸の前で手を組み、オドオドしている姿はまるで小動物。
やだ可愛い。
おかしいな。私の中のプレセア像はこの子みたいなはずだったんだけど、どこでくるったのかしら。
「もちろんよ。こう見えて私達は強いんだから、大船に乗った気でいて」
「ヒック… グス… 有難うございます。有難うございます」
やだもう、超可愛い!
純真な可愛さを見せるリーシャに、私は思わず飛びついて『ギュッ』と抱きしめてしまった。
プレセアが居るであろう背後から、『ピキッ』と音が聞こえたのはきっと気のせいだろう。
「こういうのは早ければ早い方がいいよね」
やるべき事は決まったのだから、それならと先陣を切って立とうとした時だった。
グラッ…
「え……」
私は、今迄に体験した事のない強い眩暈と頭痛に襲われた。
何、これ… 頭が割れそうな位痛い。
足元がふら付き、地面に倒れそうになる。
「大丈夫ですか」
直ぐにクラウドに支られ、倒れる事は阻止できたけど、私はそのまま地面にしゃがみ込んでしまった。
「ごめんなさい、急に眩暈が」
吐き気までする。
一体、アリシアの体に何が起きたの?
得体の知れない症状に、私は凄く不安になった。
「魔力が底を尽いてるのよ、お姉様。少し休めば良くなるわ」
え、どういう事?
「魔力が底を尽きると眩暈がするの?」
「そうよ、魔力切れは酸欠状態と同じ症状が出るわ」
「そ、そうなんだ」
知らなかった。そういう設定があるのね。でも待って、
「私、そんなに魔法を使ってないよ? 召喚魔法1回と、水と火の初級の攻撃魔法をそれぞれ1回づつしか」
そう、合わせて3回しか魔法は使っていない。
召喚魔法は確かに上位の魔法で、それなりのMPを使うけど、LVをカンストしてたアリシアなら、例え100回使ったところで最大MPの半分も消費しないはず。
それがどうして…
「…… 初級魔法は関係無いわ、問題なのは召喚魔法の方よ。いくらお姉様だからって”リーヴェル”から次元を越えて私を召喚なんてしたら、魔力の殆どを持ってかれるわよ」
「え、え? ごめんプレセア。もう1回言って」
聞き間違い? 私の聞き間違い? 今、”リーヴェルから”って言わなかった!?
「初級魔法は関係ない。リーヴェルとは違う世界から私を召喚したせいで、魔力が尽きてるって言ったのよ、お姉様」
「此処はリーヴェルじゃないの!?」
「そうよ、カーネなんて村の名前、聞いたこと無いでしょ?」
「う、うん…」
聞き間違いじゃなかった…
カーネ村、実は初めて聞く村の名前だったから、どこ?って感じで少し気になってた。
私が知らない間にアップデートで加わった村かな~位に思ってたんだけど、そうじゃなかったんだ。
だったら此処は、
あ……
「あの、お体、大丈夫ですか? 」
気が付くと、リーシャが私の顔を見て不安そうな顔をしていた。
私の体調を心配するのと同時に、考え込む姿を見て、カーネ村に行く話が無かった事になるんじゃないかと、心配になってるんだと思う。
いけない。
彼女に比べたら、私の問題なんて些細な事。
ここが何処かなんて、後で考えればいいじゃない。
今一番優先しなきゃいけないのはリーシャよ。
「行こうリーシャちゃん。私達をカーネ村まで案内して」
「で、でも…」
「いいから、私の事なら心配しないで」
リーシャの手を取り、カーネ村に行こうと強く催促したんだけど、
「リーシャちゃん…」
彼女は首を横に強く振って、その場を動こうとしなかった。
自分の事より、私の具合の方が気になってるようだ。
「お姉様は休んだ方がいいわ、村にはクラウドに行ってもらいましょ」
無理をしようとする私をプレセアが止めに入った。
それに便乗する形でクラウドが後に続く。
「自分もその方が良いかと、アリシア様は魔力が回復するまで安らげる場所でお待ください。村に着き次第、転移魔法の陣を設置しますので」
ああ、そうか。
ユニオンファンタジーには転移魔法が存在する。
PTメンバーの誰かが一度でも行った場所には、それ以降、魔法で瞬間的な移動が可能になる。
まぁ、ファンタジーゲームじゃ定番の魔法なんだけどね。
確かにクラウドに先に行ってもらって、魔法陣を設置する事で転移が出来るならその方が効率的かもしれない。
でも、
「村に行くって言い出したの私だよ、私がリーシャちゃんと一緒に行かなきゃ筋が通らないよ」
だいいち、言い出しっぺが休んでたら格好悪いしね。
「もう、聞き分け悪いなぁ~ 私もクラウドもお姉様の一部みたいなもんなんだから、そこを気にしなくてもいいのよ」
い、一部? 私の? 運命共同体って事?
「そうは言ってもやっぱり…」
「私達の功績はお姉様の功績! いいからサッサと寝てサッサと休みなさい!」
「ちょっ、プレセア!?」
プレセアは右手の手の平を私に向けると、
「彼の者を、深き眠りへと誘え、フェールミスト」
と呪文を唱えた。
「それ… 眠りのま、ほ…う…」
私は強烈な睡魔の襲われると、この言葉を最後に深い眠りへと入ってしまった。
(正確にはプレセアの睡眠魔法”フェールミスト”で寝かし付けられてしまった。)
「全く、頑固なところは変わってないんだから」
『ふぅ~』と呆れながらも、プレセアはアリシアに笑顔を見せるとクラウドとリーシャに指示を出した。
「リーシャ、悪いけど此処でお姉様を見ててくれる? 向こうでクラウドと少し話をしてくるから」
「は、はい!」
「すぐ戻るわ、そしたら一緒にあんたの村に行きましょ」
「ありがとうございます」
背筋を伸ばし、元気の良い返事をするリーシャ。
「行くわよクラウド」
「はっ」
2人は眠っている奈々《アリシア》と、お人形の様に固まっているリーシャを残し、その場を後にした。