ごみのブルース
駄作ですが残しています。
その辺のミュージシャンを気取ってるやつってのは、顔が良けりゃ売れやがるし、悪けりゃ批判の的として重宝がられる。おれはそんな欺瞞とか虚偽の愛とかを歌ってるクソ音楽家になって成り上がるつもりは毛頭ない。たしかに今はストリートの身の上だが、これはいつか舞台に立つクソ度胸を鍛えるためのもので、本気でやってるわけじゃない。だから、今おれの歌を聴かないやつがいてもおかしくないし、聴かないやつはただのバカってことになる。おれは、イマドキと言われるかもしれないが、インターネットで曲や歌詞を募集してるところに応募して、そこからプロになる予定だ。SNSで宣伝もしてる。今は笑われることのほうが多いが、おれは才能もあるし努力もしてる。どんなやつより素養がある。おれは中学時代にはデビューできなかったが、このクソ高校に所属してる間にプロデビューして、街角のストリートミュージシャンから大成した若き天才てなもんでテレビ出演を果たして、バカな大衆にありがたがられるのさ。
「おっ、いたいたぁ」「マジ? 本当にやってたんだ」「えぇーウケるんだけどぉ」
遠くから俗な声が聞こえたので、おれがそちらを向くと、ちゃらついたクラスメイトたちがひそひそ話してやがった。あいつら、おれより低い点数取ってたやつらだ。おれをバカにする価値もないやつら。するとやつらが近づいてきた、男女含めて5人ほどだ。
「なあ。お前のSNS見たけど」
「はあ」
「お前さ、自分の作った歌詞あげてたよな」
「ああ」
「あれ、俺らのことバカにしてなかったか?」
「……いや、別に」
「嘘つけよ。同級生がバカだとか書いてたよなぁ?」
「別に、真実だし」
「は? お前なめてんの」
「……お、お前のこと言ってるわけじゃねーし」
「ふーん、じゃあもういいわ。そのギターかっけぇな? ちょっと触らせてよ」
「え……やだよ」
「なんでだよ?」
「汚れるとやだし」
「俺の手が汚れてるって?」
「そうは言ってないだろ」
「そう聞こえたから言ってんだろ? 頭悪いなお前」
「…………」
「なんだよ?」
「もういいから、どっか行けよ」
チャラ男は舌打ちして、他のやつらとどっかへ消えた。後ろの女がおれを無断で撮影していたから、自分のSNSにあげて、またバカにする気だろう。おれは別に構わない。くだらないことだ。
「きみ、ここで何してる?」
しばらくして、警察官が話しかけてきた。時刻はもう7時を回っていた。
「ここで弾き語りしてるの? なんというか、昔気質だね。年齢は? 中学生かな?」
おれは、親に連絡されることを恐れた。あの大嫌いな親に世話になったなんて事実ができたら、おれは耐えられなくなる。
「あっ、きみ、待ちなさい!」
おれは逃げた。体育で持久走をした思い出が蘇った。おれは一番遅いわけじゃなかったが、いつも後ろから数える方だった。おれは度々後ろを振り向いて、息を切らせたデブを密かに笑っていたんだっけ。
おれは警官から逃げ切ったが、忘れ物をしたことに気づいて、取りに戻った。まさか、警官が待ち伏せていたなんて思いもよらなかった。
おれは警官に捕まって、親の連絡先を吐かされた。親はおれを見るなり、心配そうな顔をした。障害者を見るような目だと思った。おれは無様に泣いた。
「ねえ、お父さん。お父さんからも言ってやってよ。あの子、ずっと部屋に引きこもって、変な歌を歌ってるのよ」
「無駄だと思うけどねぇ。でも、せっかく金を払ってるんだから、高校には行ってもらわんといけないな」
応募した賞の入選を逃した。選考者からの文章が送られてきた。『今のあなたにプロの楽曲レベルの作曲技術はないと言えます。そして歌詞ですが、反社会的なことをただ書き連ねるだけでは歌詞とは言えません。真実だけを書いても歌詞にはならないのです。あなたは学生のようなので、今はまだ、色んな音楽を聴いてみたり、関連した本を読んでみてください。きっと突破口が見つかるはずです。……』
傷つきやすい少年はある日心を閉ざした。高校を卒業したあと、彼は就職した。数年後、彼は一児の父となった。
「ねえ、あの子がいつもどこに行ってるか、知ってる?」
「どこに行ってるんだ?」
「あの子ったら、誰とも遊ばずに楽器ばかり弾いてるのよ。今日もストリートミュージシャンごっこをしてると思うわ」
少年はとある街角でギターを弾いて歌っていた。そこに彼の父がやってきた。父は少年のギターを取り上げた。
「あ……何するんだよ!」
「やめろ! 今すぐこんなことやめろ! 気味が悪い!」
父が少年に怒鳴っている姿を映した誰かの動画が、国内で大きな反響を得た。
父はその日、人生で最も注目された。