マドロムセカイ
それは秋の風さざめく夕暮れの草原
進み行く私の前に現れた赤いくちばしをした鳥は
首を曲げこちらを見つめたまま何故か飛び去りもせず
ここには疑うべき嘘もまして探すべき真実も無い
何も失わないかわりに信じるべき何もない
ただ我が身とこの世界それだけなのですよ、と一言
静かな真実を告げた
そんな夢の中で
テルリトトアトル、と
誰かが私を別の名前で呼んだような気がする
それは冬の月映し見る湖上の静寂
舟を出す私の前に現れた青黒い背を光らす魚は
寒そうに鱗をふるわせながら何故か泳ぐこともせず
ここには敵となるけものもまして味方となる石影も無い
何も奪われないかわりに与えられるべき何もない
ただ我が身とこの世界それだけなのですよ、と一言
静かなあきらめを吐いた
そんな夢の中で
ゆすめほろきらち、と
誰かが私を別の名前で呼んだような気がする
そして私が目覚めるとき
ほんの一瞬世界が時をゆがめる