駄話 1
始まりの駄話 1
町というのはそこに生きている人間によって雰囲気が変わる。気性の荒い町に、のんびりとした町、忙しない町にオタクな町、様々だ。
そんな様々な町がある中、きっと変と言われればどんな町よりも変であろう一番であろう人杭という町に俺は住んでいる。都会でも無くかと言って田舎でも無い中途半端な位置に存在する人杭の駅前で俺は日々平穏というBARを経営している。
今、町の名前が物騒だなと思ただろ? 噂によれば人杭がまだ名も無き村だった時に色々とあったらしいんだが、大分昔の話で知っている者が少ないとか。まあ何かない限りこんな名前付くわけ無いし、ふんわりとした情報しか残っていない訳で。結局このご時世、呼び方なんてあってないようなものだから気にしたら負けだろう。
とまあ話が脱線したけれども、そんな町の俺の店には、町の名前と同様、それ以上に変な客達がやってくる。
そいつらの目的が俺のBARで高い酒を飲む事だったら文句も無い訳だが……さてそうこうしている内に、お客が来たようだ。
「……いら……お前か……」
「客に向かってお前とはなんだ、接客業として問題なんじゃないのかマスター?」
チリンチリンと来客の訪れを告げる鈴の音と外の冷気を運んできた者に視線を向けた俺は、あからさまに残念そうな表情をしながら視線を自分が立っているカウンターに戻し、巷のマスターがよくするコップを拭く仕事をはじめる。
「ここは大人の社交場だ、お前みたいなガキが来る所じゃない」
「あ……俺オレンジジュースとホットケーキね」
「かしこま……て、メニューにそんなもんねぇよ」
慣れた足どりで俺の目の前のいつもの席に座る少年。そう店に入ってきたのは未成年。この店には相応しくない客であった。
グダグダ言いながらも俺はカウンターの下にある店のでは無く、俺個人の冷蔵庫からオレンジジュースを取り出し、カウンターに並んでいたコップを一つ手に取ってオレンジジュースを注ぎカウンターに腰掛けた少年、優斗の前に置いた。
「ほらよ」
「ありがと、ホットケーキも期待してるよ」
「ほっとけ!」
「オヤジギャグは要らないよ」
「うるせぇ」
ホットケーキを作る用意を始めようとする俺を何か汚い物をみるような表情で見つめる優斗は、このBAR日々平穏にとって全く金にならない常連客だ。フラッと現れたかと思うと、決まって二週間毎日のように姿を現し、お決まりの席に座り、オレンジジュースとホットケーキを頼んでくる。そして二週間が経つと忽然と姿を現さなくなるのだ。
誰が好んでまだ乳臭いガキにと毎回思うのだが、俺のもう一つの仕事に絡んでいるため無碍に断ることが出来ないのが正直な気持ちだ。
「さて、お前が来たって事は彼奴も来るんだろうな……」
俺がそう呟いた瞬間、まるで俺の言葉を待っていたように再び来客を伝える鈴が鳴る。
「いらっしゃい……すぐ持ってくから座ってろ」
BARの扉の前に立っていたのは、俺の言葉にコクリと頷くドアの前に立つ明らかに不審者な全身黒ずくめの男。しかも何で出来ているのか知らないが目元だけくり抜かれた真っ白な仮面をつけた男だ、これを不審者と言わずとして何と言うのか……そうこの不審者が日々平穏のもう一人の常連客だ。
全くどこが日々平穏なんだと命名した自分さえ思う時もあるが、こんな客達が日々、俺の店にやってくる。しかも酒を飲みにやってくる訳じゃないって事が何とも切ない。
「おう、いつものだ」
店に迷惑をかけないつもりなのか、仮面の男はいつも一目が一番つかない席に座り俺が持ってくるビタミンCの化身ともいっていい黄色い炭酸飲料が来るのを待っている。ちなみにこれも日々平穏には無いメニューで俺の個人的な冷蔵庫に常備してある物だ。
仮面の男は俺から手渡された炭酸飲料を、仮面を少しずらし器用に飲み始めた。毎回この時に素顔が見られないかさりげなく見つめるのだが、明らかにパンツがみえてもおかしくない角度なのに完璧にガードされたアニメのように、仮面の男の素顔を拝むことができない。
今日も拝めなかったかと半ば意地になりつつ、仮面の男が座る席を後にする俺が店のカウンターに戻ると優斗は持ってきていた携帯ゲーム機を取り出しピコピコと盛り上がり始めていた。
「お前ゲームなんてやってないで早く彼奴の所に行けよ、仕事だろ」
「んっ……それよりホットケーキ」
優斗と仮面の男は、仕事仲間である。まあそれ以上でもそれ以下でもないみたいで、仕事以外の会話を見た事がない。しかも優斗が一方的に喋るだけで仮面の男は頷くだけという会話が成り立っているのかも疑わしい状況だった。
しかしどうやら二人とも今は仕事をするタイミングでは無いらしくそんなそぶりを見せない。まあいつもの事なんだが。
「はぁ……」
俺はため息を吐きながらゲームに熱中する優斗の願いを聞き入れるためホットケーキの用意を始めた。
「ねえ……あの人って妖怪みたいだよね」
「……妖怪?」
ゲーム画面からチラチラと視線を仮面の男に向ける優斗。
「……俺が今なんとも言えない感情なのは全部妖怪の所為ってか?」
「……僕はどっちかっていうとマスターを目指すほうがいいな」
「それで言ったら俺はデジタルな世界で選ばれし子供達になるほうがいいな」
「子供って何十年前の話だよ」
「はいはい、俺はいい歳のオッサンですよ」
とまあこんな会話をするのが俺と優斗の日課のようなものだ。何が寂しくて男女がイチャイチャする12月25日に俺はガキのこもりをしているのかね。
「で……何の話だっけか?」
「僕の仕事相手の人、見た目からして妖怪じゃない?」
「妖怪っていうよりは中二だろあの恰好は」
「中二か……まあどっちでもいいけど」
優斗はすぐに興味を失ったのかゲームに熱中しはじめた。しばらくは俺が厳選した音楽たけが店の中で響きホットケーキの甘い匂いが店の中に充満しだした頃、俺は見つめるか語るしかできない物語が動きだすのはこれから数十分後、店に来客を告げる三度目の鈴が鳴った時だった。
01 ここは日々平穏?
見た目都会でも無く田舎でもない中途半端なその町は、駅から電車に乗れば、都会にも田舎にもすぐに迎えるという場所的にも中途半端な町。
何もかもが程々にあるそんな場所に、何か特質した物があるとすればそれは駅前にひっそりと佇む、BAR『日々平穏』であろう。
落ち着いたお洒落な外観をしているものの、都会でも田舎でも無いこの町の駅前の景観にはそぐわない店。ある種の異様さを醸し出しているのは間違いなかった。
しかも『日々平穏』という店名とは裏腹にそのBARは得体が知れない。なぜならばその『日々平穏』には夜な夜な死んだような顔をした少年や、サンタクロースの恰好をした者、明らかに不審者であろう目の所だけくり抜かれた仮面をつけた黒ずくめの男など、色々得体の知れない者達が集まるBARであるという噂があるからだ。
そんな得体の知れない『日々平穏』にはこの町特有の都市伝説が存在する。どんな情報でもすぐに拾って来る情報屋や、本当に何でもやってくれる『何でも屋』。得体の知れない超常現象を解決する他称『霊媒師』がいるとか、上げれば切が無い。
そんな何処にでもある安い噂が渦巻く大人の社交場『日々平穏』の店前に姿を現した男は、店の外観を見て懐かしさを表情に現していた。
男がその町に足を踏み入れたのは一カ月前、否、詳しく言えば《帰ってきたのは》10年ぶりであった。男にとってこの町、人杭は地元であり高校を卒業し町の外に出るまでの18年間を過ごした町であった。
現在28歳となった男が地元に帰ってきたのは、仕事で負傷した右足の後遺症によって仕事を続けられなくなったからであった。
だが経緯と目的は違う。仕事の関係で足を負傷し退職した男ではあったが、地元に戻ってきた理由は別にあった。
仕事の関係上、一般人には行きわたらないような情報を知る立場であった男は、長年追いかけていた人物がこの町に居るという情報を、退職の日に元上司から聞かされていたのだ。
男から見て元上司は真面目で仕事には常に真剣である人であった。しかし元上司が口にした情報は荒唐無稽であり、まるでアニメや漫画のようであった。
元上司が真顔で口にしたその情報は男のいた職場では極秘案件にされており、なにより冗談をあまり口にしない元上司の言葉によって男はそれが冗談などでは無いのだと半信半疑ではあったが信じる事にしたのだ。
「……そのまんまだよな……」
負傷した事による後遺症でうまく動かせなくなった右足を引きずりながら男は『日々平穏』と看板に書かれた店先を見つめる。。
「何ともBARなのに日本風な店名、うん変わってない……」
凄くお洒落な店構えであるのにそれを台無しにするかの如く筆で書かれた店名に苦笑いを浮かべる男。
十年前までこの町で暮らしていた男は当然このBARの存在は知っていた。学生ということもあり中に入った事は無かったが、町の景観とあまりにもかけ離れた店構えは、この町に住む者ならば誰しもが一度は目にした事がある。何しろ駅前というかなり立地の良い場所にその店はあったのだから。
少なくとも十年前からこの場所にこの店が存在していた事になる訳だが、昨今特にこの町で広まっているこのBARにある噂や都市伝説は、当時学生であった男の知る限りでは聞いた事もないものであった。当時男が知っていた日々平穏の事と言えば、店に入る客を見たことが無いぐらいだろうか。
荒唐無稽な噂や都市伝説が広がり始めたのは丁度男がこの町から離れた直後の事であった。
「さて……じゃ入ってみますか……」
当時の自分とは違いあまり入りたくない表情を浮かべながら男は、『日々平穏』の扉を開いた。チリンチリンと高い鈴の音が店の中に響きわたった。
「いらっしゃい」
鈴の音に気付き、気だるそうな中年が店に入ってきた男に声をかける。カウンターの内側で中年の男は咥え煙草をしながら手に持った何世代も前の携帯ゲームに、視線を落としていた。
「ちょっ……お前、それは……おいおい、反則だろ!」
カウンターの一番端の席に座るどうみても未成年にしか見えない少年は、カウンターの内側にいる中年が持っている携帯ゲームと同じ物を手に握っており、どうやら通信対戦をしているようでカウンターの内側にいる店のマスターであろう中年は少年に負けたようであった。
「あ、あの……」
客が来たというのにいらっしゃいませの後が何も無くそれがあたかも常識であるかのような雰囲気が流れるこの店に男は戸惑いを抱きながら、この店のマスターであろう中年とゲームの対戦相手である少年の対戦が終わるのを待って声をかけた。
するとガタッという音が響いた。男が音のした方に視線を向けると、そこには店内だというのにフードを深く被りあからさまに怪しそうな全身黒ずくめの客がいた。
「ああ、適当に座って……てっお前……またそれかっ!」
そう言いながらこの店のマスターは再び始まった少年との対戦に没頭していく。
「適当って……」
男は頭をかき困りながら再びフードの男に視線を向けるとフードの男はビクリと肩を跳ね上げながら、男の視線を遮るように背を向けた。
「見るからに怪しい……」
男の目にフードをかぶった客はかなり怪しく映っていた。仕事をしていた時の癖でその客の体格や挙動を分析し始める男。しかし今はただの一般市民である男に、フードをかぶった客をどうこうできるはずも無く男は視線を再びこの店のマスターに向けた。
「あ、あの……」
カウンターで客であるのかも分からない少年と対戦ゲームを続けている完全に商売にやる気が感じられない中年マスターに声をかけた。
「ああ、飲み物? ビールでいい?」
「え、……ああ、いやちょっとお聞きしたい事が?」
「聞きたい事?」
そこで初めて中年マスターは客である男に興味を持った。
「悪いな、優斗、ちと仕事をしてくる」
そう真顔で言いきる中年マスターは優斗と呼ばれた少年に軽く手を振りながらカウンターの後ろに設置された大きな冷蔵庫から何かを手にとって、立ち尽くしていた男を、フードをかぶった客とは反対側のBOX席に誘導するマスター。
「とりあえず、この店は酒を出す店何でな」
そういうとマスターは缶ビールを男が座った席のテーブルにコトリと置いた。
「あ、はい、ではいただきます」
進められた缶ビールに手をかけ、プルタブを開ける男。プシューという音を立てる缶ビールを口に含みながら男は店のマスターを視線に捉える。『日々平穏』のマスターは顎にだけ髭を蓄えた人懐っこそうな顔をした男であり、多少接客業としては荒い言葉使いではあるが、親しみを持てる感じの雰囲気を持っていた。自分の缶ビールを手にとるとプルタブを勢いよく開けて、その勢いのまま口に持っていくマスター。あんたも飲むのかよという言葉が口から出かけるのを喉で止めた男はゴクゴクと気持ち良さそうにビールを喉に流していく喉マスターを見つめた。
「くぅー仕事後の一杯は効くな」
缶ビールから口を離したマスターは全く説得力の無い全く訳の分からない事を言い放った。オイオイあんたは子供とゲームしていただけだろと思う男ではあったが、それを表に出すことはせず、缶ビールをテーブルの上に置いた。
「それで……聞きたい事っていうのはなんだ?」
まさか中年マスターから話を切り出してくるとは思わなかった男は一瞬驚き、すぐに自分が持っていたバックの中をガサゴソとあさり出した。
「あの……この男についてなんですが……」
男は自分のバックから一枚の写真を取り出し、テーブルの上に置くと滑らすようにマスターの前に持っていく。
「この男?」
その写真には制服を着た男女三人が写っていた。写真の一人は目の前の男であるとすぐに理解したマスターは写真と実物を見比べるように視線を動かす。
「……その私では無い方の男を探していまして……ここに来れば行方が分かるかも知れないと、情報を仕入れたので……」
男は余計な情報を入れず、シンプルにマスターに自分の目的を伝えた。
「ほう……聞いても無駄だろうが……その情報の出所は?」
マスターは感心があるのか無いのか分からない表情で、男に情報の出所を聞いた。
「それは……」
「ああ……分かっている……だがもっとうまく話さんと、お前さんが何者なのか、こっちにはすぐにわかっちまう……他で聞く時は気を付けろよ」
マスターの言葉に一瞬にして悪寒が走る男。警告とも言えるマスターの言葉は、男が一般人では無い事を大体理解しと同時に、マスター自身も一般人では無いという事を示していたからだ。
迂闊であった。だが男の運が良かったのかマスターは必至に冷静を装う男に悪意が感じられない笑みを浮かべていた。
「あ、はい……いや……それで……何かしりませんか?」
男は目の前のマスターが単なる一般人では無い事を理解した上で多少の混乱を残しつつ自分の話を進めようと口を開いた。マスターは再び缶ビールを口に含みながら、男から渡された写真を見つめる。
「うーん、悪い……分からないな……」
男の期待を裏切るようにマスターの口から発せられた言葉は分からないという言葉であった。
「そうですか、すいません……お邪魔しました」
マスターの言葉に肩を下げながら男は席から立ち上がると軽く頭を下げた。
「ああ……別に話さなくてもいいが……何でその男を探しているんだ?」
扉へと向かって背を向けた男を呼び止めるマスター。
「ああ……ええ……ちょっと会って話がしたくて……」
男は要所を削り簡単にマスターに写真に写る男の探し人の事を話した。
「会って話ね……」
マスターは男の口ぶりを聞き、納得するように頷く。
「それじゃ私は……」
「ああ、待ってお兄さん……」
マスターは店の扉に向かう男を再び呼び止めた。
「何ですか?」
「缶ビールの代金」
「ああ、すいません、お幾らですか?」
慌てて財布を取り出しマスターの下に向かう男。
「2000円」
「高っ!」
思わず口に出た言葉を隠そうと慌てて口を塞ぐ男の姿に笑みを浮かべるマスター。
「冗談だ、今回は俺の奢りでいい……だからまた来てくれよ、常連客が全く金を落としてくれなくて困ってるんだ」
と視線をカウンターでゲームをし続ける優斗と呼ばれる少年と、死角になっているフードの客に視線を向けるマスター。
「あ、はいありがとうございます」
男は頭を下げると店の扉に手をかける。
「お兄さん」
今までゲームに集中していた優斗と呼ばれている少年が突然店を出ようとした男に声をかけた。
「な、何だい?」
大人の社交場であるBARで、少年に声をかけられるという状況に若干混乱しながらもそれに答える男。
「お兄さんの探している人……僕が探しておいてあげるよ、だからまた今度ここに来てね」
そういうと興味を無くしたようにゲームに戻る優斗。
「あ、うん……ありがとう」
理解できないまま『日々平穏』という何とも不可思議な店を後にした男は店を背に深いため息をついた。白い息が雪のふる夜空に昇っていくのを見ながら今日がクリスマスである事を思いだす男。
「あー人生で一番良く分からないクリスマスだったな……」
男はクリスマスに浮かれる人杭という町に空気を感じながら、少し真新しくなった親しみのある道を進み寝床へと急ぐのであった。
男の名は聖春樹。この物語の軸となる存在の一人である。
終わりの駄話
結局今日はまともな客が一人も来なかった。そんな事を考えながらさっきまでいた客の飲みかけの缶ビールを手にとり俺はカウンターに戻った。
「お前……珍しいな自分から客を取りにいくなんて」
「別に……」
カウンターに座ってゲームを続ける優斗はそっけなく俺の言葉に答えた。
「別にって……なんかあるからあの客にあんな事言ったんだろ?」
「別に」
再びそっけなく返してくる優斗。
「お前別に別にって連呼してると別に女優になっちまうぞ」
「はぁ? 別に女優って何? そもそも僕男だし」
「な、なんと知らないのかあの別に女優を!」
これがジェネレーションギャップというものだろうか、俺と同年代の者なら腹を抱えて笑えるネタなんだけどな。
「さて」
優斗がカウンターの席から立つと仮面の男の座る席に歩きだした。
「ようやく仕事か……ちゃんとしてくれよな……」
優斗にそう声をかけると優斗は、軽く手をふり仮面の男の前に座る。
優斗と仮面の男。この二人が行う仕事は、巡り巡ってこの店の存続に関わってくる。正直店の利益だけではこの店は明日にでも潰れるからだ。従いこの二人にはしっかりと仕事をしてもらってこの店を存続させる利益をだしてもらわなければ困る訳だ。
情報屋という何とも胡散臭い仕事をしている優斗と、なぜかこの町で頻発する超常現象によって起こる事件を解決する仮面の男。それらの仲介役をしているのが俺だ。
はっきりいってこの二人は一人じゃ仕事が出来ない。優斗は見た目が子供で信用されないし、仮面の男は喋らないからそもそも仕事にならない。だから俺が客と二人の間に入って色々としているという訳だ。二人ともそれぞれ目的があるようで俺が間に入る事に文句を言わない。
まあ言葉悪く言えば互いに利用し合っている関係な訳だな。
「おい、二人とも……おかわりいるか?」
二人が何やら会話している中、空気も読まず俺は二人に話かける。そもそもこの二人の空気を読むほうが難しいからな。
「うん」
「……」
二人は俺の言葉に頷いた。
「分かった、すぐ持っていくから待ってろ」
これがBARとしては全く機能していない『日々平穏』という店の仕事内容だ。