プロローグ 12月25日
プロローグ 12月25日
ゆっくりと目を開ける少年。そこには見知った天井があった。色々な配線がむき出しとなった天井を一瞥すると少年はあたり前というように顔を横に向ける。少年の視線に写る大きなガラス。その奥には部屋がありそこから同じような顔をした白衣の男達が少年を見つめていた。
「お目覚めですか」
無個性な白衣の男達の中で一人個性を爆発させる男がガラス越しにマイクを使って少年に話しかけてきた。
狐を連想させる糸目と常に人を小ばかにしたような口元。周囲にいる無個性な白衣の男達から確実に浮いた姿。少年は無個性な白衣の男達の名前を知らないし、顔の見分けもつかない。しかし自分に話かけてきた男だけはその容姿も相まって印象深く少年の記憶に残っていた。
少年に声をかけてきた男は常に笑顔であるが、それは心の底からではなく作られたような笑顔だと少年は感じていた。それを現すかのように、同じような顔をした無個性な白衣の男達は、その男の事を嘘笑顔と呼んでいた。
本人もそのあだ名を気に入っているのか、周囲の者達にはそう呼ばせるようにしており、少年にもそれを強要していた。少年はセンスの無いあだ名だと初めて聞いた時、笑いそうになった事を覚えていた。
しかし少年が理解しているのはその程度で、スマイルフェイクの本名も年齢も結局少年は何も知らなし、それで別に構わないと思っていた。
少年とスマイルフェイクの関係はあくまで仕事上の関係であって今はそれ以上でもそれ以下でも無い。
「……今、お前の顔は見たくない……」
少年はスマイルフェイスの顔を見た途端不機嫌な表情になり、自分の体についていた色々なコードを引き抜くと、立ち上がり自分が寝ていた部屋を後にした。
「どうしたのでしょうか?」
無個性な白衣の男の一人が少年の様子を疑問に思いスマイルフェイクに話かけた。
「ふふふ、機嫌が悪いのは何時ものことです、胸糞悪い夢でも見ていたのではないですか」
スマイルフェイクは白衣の男の問に適当に返すと少年の後を追うようにして部屋を出ようとする。
「あっ皆さん実験結果諸々の整理と片付け、お願いしますね」
「「はい」」
白衣の男達に指示を出すとスマイルフェイクは漂々と部屋から出ていく。廊下を歩く少年の後を追った。
「いやはや、今回は速いお帰りでしたね……坊ちゃん?」
「お前に坊ちゃんと言われる筋合いは無い」
スマイルフェイクが少年に対しそう言った瞬間、眉間に皺を寄せた少年はスマイルフェイクを睨みつけた。
「ですよね……私も何で今あなたの事を坊ちゃんと言ったのかわかりません」
明らかにワザと言い間違えたであろうスマイルフェイスの言葉に坊ちゃんと呼ばれた少年は更に機嫌が悪くなったようで、廊下の壁を蹴るとスマイルフェイスから視線を外し、廊下を走っていってしまった。
「あらら、更に機嫌を損ねてしまったようですね」
眉毛をヘの字にしても尚その表情は笑顔を保つスマイルフェイクは走り去っていく少年の後ろ姿を見つめる。
「またあそこに行くのでしょうかね……えっと確か……日々平穏?」
頭を軽く掻きながら、スマイルフェイクは少年が向かうであろう場所の名を口にするのであった。