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その町は日々平穏では無い(仮)  作者: 山田二郎
導入
2/6

プロローグ 2 12月18日


 


エピローグ 2  12月18日 




 その知らせが入ったのは突然だった。


「……」


冬が迫り寒さが強くなった秋の終盤、学生服の中にパーカーを着た青年は、携帯電話から聞こえる声を聞き、道の真ん中で歩みを止め手に持っていた携帯電話を地面に落とした。

 まるで周囲の時間が止まったように感じる青年に車のクラクションが鳴り響く。


「……っ!」


車のクラクションによって我にかえるパーカーの青年は、地面に落ちた携帯電話を急いで拾うと、飛び出すように街へ走り出していった。


 街を走り抜けていく青年の脳裏に今朝の光景が蘇る。それは他愛無い毎日のように訪れる青年の日常。それはこれからも続くと思っていた。


「秋斗! また夜遅くまで何かしていたでしょ?……やらしいんだ~」


眠たい目をこすりながら歩く青年の名を口にしながら肩を叩く学生服を着た少女は、覇気のない青年の顔を見てニタニタと笑みを浮かべる。


「ああ……そうだな○○とか、△△とか……××とかもしてたな~」


パーカーの青年は、少女に向かい指を折りながら、学生には少々過激な単語を連呼する。


「な、なあ……」


少女の顔は温度計のように赤みがどんどん増していく。


「秋斗! そんな卑猥な単語、朝から連呼してるんじゃないわよ!」


「卑猥な単語って理解しているんだな……お前のほうがよっぽどいやらしいんじゃないのか?」


その瞬間、秋斗の視界は真っ白になり、二人が歩く通学路に目の覚めるような破裂音が響いた。


「最低っ!」


そう言い残し、少女は学校へと続く通学路に秋斗を残し走り去っていく。それが今日秋斗と少女の最後の会話であった。

街を走り抜ける秋斗。その足は、街で一番大きい病院へ向けられていた。


「はぁはぁ……おばさん!」


病院の玄関口にある自動ドアに体をぶつけながら、院内へと入る秋斗は視界を泳がし、病院のロビーに設置された長椅子に座る少女の母親を見つけ駆け寄っていく。


「アキちゃん……」


今朝秋斗が見かけた時よりも痩せたように見える少女の母親は、今にも泣き出しそうな表情で駆け寄ってくる秋斗を見つめ秋斗の名を口にする。


「一体何があったの!」


長椅子に座る少女の母親に、少女の身に何が起こったのか聞く秋斗。しかし、少女の母親は首を横にふる。


「分からないの……学校から帰って来て、自分の部屋に戻ってしばらくしたら大きな物音がして、私が部屋に入ったら、もう意識が無くて……」


その時の光景を思い出した事によって、不安が限界にきたのか少女の母親の目からは涙がボロボロと零れ出し始めていく。


「大丈夫だよ、おばさん……あいつは……冬香フユカは大丈夫だ」


秋斗は何かに気付き、そして苦虫を噛みしめるように苦い表情を浮かべながら、少女の母親に声をかけた。しかし秋斗の言葉を裏切るように少女が目を覚ますことはなかった。


それから間もなく、秋斗は街から姿を消した。



人気の無い廃墟。そこは十年前に起こったとある事故によって、街から切り離された場所であった。その事故によって大勢の人が亡くなり、街の一割が封鎖された。

今もそのままの状態で放置されているその廃墟に、闇と溶け込むように佇む者がいた。

目の位置だけくり抜かれた真っ白な奇妙な仮面を被ったその者の全身は闇のように真っ黒で、それ故に真っ白な仮面がより不気味な雰囲気を放っていた。


「今日の仕事はこれで終了です」


そんな見るからに不審者であるその仮面の男の背後に現れる女性はなんの躊躇も無く、目の前に背中を晒す仮面の男に声をかけた。


「わかった……声姫コエヒメ……」


声姫と呼ばれた女性の言葉に返事を返す仮面の男。長い黒髪と均整のとれた体躯を持った一見廃墟には似つかわしくない美しい女性である声姫であったが、彼女は包帯で目を覆っており、どこか熱量というものが感じられない。それは生きているのか生きていないのか分からないという感じであり彼女から放たれる異様な雰囲気は、仮面の男と肩を並べるほどであり不気味であった。

 

「今日もあの場所に行くのですか?」


特に会話も無く歩き出した仮面の男の気配を感じ取ったのか、声姫はまるで仮面の男の背中をみるようにして静かに仮面の男に声をかけた。


「ああ」


短く返事を声姫に返す仮面の男は、まるで闇に溶けていくように姿を消していった。


「……日々平穏……あなたに似つかわしくない店ですね」


廃墟に残された声姫は何かの店の名前を呟くと、スーと周囲に溶け込むようにして姿をけした。まるで幽霊のように。


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