8話
実技訓練の後、俺がシャルと昼を食べようとしているとマルシア達にご飯に誘われた。今度は一緒にご飯を食べようと心に誓っていたので俺は快諾した。
マルシア達はお弁当を用意していなかったので、食堂で食べることにした。
食堂へ向うとそこは多くの学生で賑わっていた。食堂のなかにはフレンチ、イタリアンなどの高いものからファーストフードのような安いものまで様々なメニューがあるようだ。ここの学食は夜も使えるようなので、フレンチやイタリアンなどは夜に食べるためのメニューなのだろう。
俺とシャルは弁当なので先に席をとって二人を待っていた。しばらくすると二人がそれぞれトレーを持って席へ戻ってきた。マルシアは魚の定食、リーリスはたらこのスパゲッティをそれぞれ頼んだようだった。
俺とシャルもそれぞれ弁当を広げる。今日の弁当はサンドイッチだ。ハムサンド、カツサンド、卵サンドなどいろいろな種類がたくさん詰まっている。シャルのぶんは一つ一つを小さくしたから、数が多くても食べきれるだろう。そしてデザートに昨日買ったプラムを入れておいた。
「ごめんなさい。待たせちゃいましたか?」
「いや、このくらい待ったうちに入らないよ、じゃあ、いただきます」
「「「いただきます」」」
サンドイッチを一つ口に運ぶ。うん、うまい!我ながらうまく作れたもんだ。シャルを見てみるとかなり気に入ってくれたようでおいしそうに食べてくれている。
「いうほ、ほへおいひいはえ!!」
「きちんと飲み込んでから言え。何言ってるか分からん」
「ユウト! これすごくおいしいじゃない」
「そんなにおいしいなら一つちょうだい」
「わ、わたしも一ついいですか?」
そういう二人に一つずつ渡してあげる。二人とも満足そうに食べてくれた。
「これおいしい」
「ほんとおいしいですね! どこで買ったんですか?」
「いやこれは俺の手作りだよ。 そんなに褒めてもらえるとは思わなかったよ」
「でもこれホントにおいしいわよ。ただ量が少ないわね。明日はもっと多く作ってくれていいわよ」
「お前結構食べるんだな。今日はわざわざ少し少なめにしたんだが、明日からは俺と同じ量でいいか?」
「ええ、私けっこう大食らいなのよ」
そうか。それは悪いことをした。明日はもっと多めに量を作ろう。
「シャルロットさん、ユウトさんにお弁当を作ってもらってるんですか?」
「ええ、昨日こいつは寮の家事担当になったの。だからご飯はこいつに作ってもらってるわ」
「こんなにおいしいものを毎日食べられるなんてうらやましい」
「そうそう−−って違います! シャルロットさん、家事全部ユウトさんに任せてるんですか? そういうのあんまりよくないと思うんですけど」
「いや、いいんだマルシア。俺が好きでやってることだから」
シャルが何か言う前に俺が弁明を入れておく。もしこの場でシャルが昨日のことを言ったら、俺の学園生活が終了してしまう。
「そうそう、いいのよ。だってこいつ昨日私のはだ−−」
「いやーシャル、俺のサンドイッチ食べるか? それに今日の実技のあいつすごかったな! 名前はなんて言ったっけ?」
シャルが余計なことを言う前に話題をそらす。危ない危ない。露骨な話題のそらし方だったがきっと大丈夫だろう。シャルはサンドイッチに夢中だ。
ただ彼……名前は確か……セミゴーゴス? の名前を出したとたん二人の顔が曇る。どうしたのかと聞こうとしたがここへ向ってくる気配を感じてそちらへ視線を向ける。
この席へ向かって来ていたのは、今ちょうど名前を出した彼だった。
彼は何人かの取り巻きを連れてこちらの席へ向ってくる。彼が俺へガンを飛ばしてきたので彼との接点を思いかえしてみる。うん、特にないな。なんでこの席へ来たのだろう。
彼は視線を下に向けた俺がビビったと勘違いしたのか頬をつり上げてマルシアへ視線を向ける。
「おい、マルシア。何勝手にメシ食ってんだよ」
「え? だ、だってダミゴーラス君とご飯食べる約束してないし」
「はぁ? お前は俺様の婚約者だろ。何言ってんだよ。妻が夫を待つのは当然のことだろうがぁ!」
そういって彼は机を蹴り上げる。けり飛ばされた机はひっくり返って料理が宙に舞う。シャルだけは彼に目もくれもせずサンドイッチに夢中になっていたので、飛んでいったサンドイッチをみてすごく悲しそうにしていた。
「ダミゴーラス、昔爵位が私たちより高かったからってあまり調子に乗らないで。それ以上やるなら私が相手になる」
「そ、それにその話は断ったはずです。わ、私はあなたの婚約者じゃありません」
「おいおい、同じ貴族だからってあんま調子のってんじゃねぇぞ! 俺んちは公爵家でお前らんちは伯爵家。俺様のほうがお前らよりえらいんだよ」
へぇ、マルシア達は貴族だったのか。あいつらの特別な魔法はなんなんだろうな。
さて、どうやってこれ止めようか。まあ武力介入はなし。目立ちすぎちゃうからな。後は……俺が調子こいたふりしてぶん殴られたら帰ってくれるかな? とりあえずやってみるか。
「おい待てよ、えーと…デミグラス君? こんなところで戦ったら迷惑掛かっちゃうらさ、どっか行ってくんないかな?」
こんな感じでいいかな? みるみる内に顔が真っ赤になってる。すげー怒ってんな?
「今何ていった? デミグラス? 俺様は公爵家ジャガナのダミゴーラス様だ! それによぉ、元はといえばお前がマルシアをメシに誘うからこんなことになったんだろうがぁ!」
「ち、違うんです、私からユウトさんを誘ったんです。だから彼に暴力をふるうのはやめてください」
「うるせぇ! あいつは俺を馬鹿にしやがった、それにお前が仲良くなるヤツを片っ端からぶっ飛ばしていけばお前と関わるやつはいなくなるじゃねーか。最初からこうしておけば良かったんだ」
清々しいほどのゴミだな。家の力と暴力で全部解決しようとしてやがる。これは殴られたがけじゃ収まんないかもな。ああ、どうしよう。
「おい、そこのくそゴリラ! 私のサンドイッチ返しなさいよ!」
ここでシャルがようやくサンドイッチを飛ばされたショックから回復したようだ。ただ彼女の顔は、あっやっちまった…、って感じだった。きっと誰か確認せずにあんな啖呵をきってしまったんだろう。
デミグラスの意識は完全にシャルに向いたみたいだった。彼は既に武闘を発動してシャルに向けて走り出していた。
仕方ない、作戦変更。実力であいつを倒すことにしよう。これはもう静かな学園生活はないなぁ、などと的外れなことを考えてシャルのもとへ走る。
「このくそアマ、死ねぇ!」
彼が全力で繰り出した拳はきっと岩を砕いただろう。しかし、彼の拳はシャルに当たることなく俺に阻まれていた。
「な、俺様の拳を…」
「貴様ら! ここで何をやっている、学生の私闘は禁じられているぞ!」
そこで現れたのは副校長だった。なにやらこの騒ぎ聞きつけて仲裁に来たらしい。いやー、助かった。あのまま戦闘とか目立っちゃうしな。
「やるならきちんと申告してからやれ。俺が場所を用意してやるから」
ええ!? 何この人。止めにきたんじゃないの? 何でもっとやれみたいな表情してんの?
「わかりました。おいてめぇ、逃げんじゃねーぞ!」
「それなら、試合は明日の午後から武闘場でだ。しっかり準備してから望むんだぞ」
そう言って二人は去っていってしまった。俺の意思は関係無しで決められちゃったんだけど。
ああ、俺の静かな学園生活はどこかへ去ってしまったようだ…