04 夏休みなのに楽しくない
7月はまだマシだった。
ほとんどむっちゃんに会わなかったから。そうまあつまり、忙しかったの、アタシも。
補習とか、補講とか特別補講とか……そこんとこ突っ込まない!
8月。
ようやく自由を味わえる日々の始まり……と思ったら
ねえねえ、ちょっと起きてよ! お願いがあるんだけどっ!
そう、むっちゃんが部屋に飛び込んできたのは、忘れもしない8月の1日。
そう、むっちゃんの胸にはしっかとアレが抱かれていた。
だらんと身体半分を垂らしてついでに床にぽたりぽたりと赤い粘り気のある液体を落とし続けている、アレが。
「むっちゃん、ちょっとソレがナニを」
アタシはあえてソレに目を合わせないようそっぽを向いて、床を指さす。
「あっ、たいへんみどろちゃん」
むっちゃんは本当に驚いたように丸い目を更にまん丸くして言った。
「暑かった? こんなに汗かいて、ごめんねみどろちゃん」
そう言いながらなんと、にこにこしたまま素手でソレの表面をぬぐってやってから無意識にその手をアタシのシーツにこすりつけようとするから
「ちょーーーーーっっっストーーーーップ!!」
あわてて押し戻す。
「何すんの! アタシに変な病気とかうつすつもり!?」
「お願いってゆーのはねっ!」
やっぱりだ、やっぱり聞いていませんよこの子は。
「おかーさんが商店街のサマービンゴで一等賞当たったの! でね、出かけることになったの、家族で、常夏の、ええと、ほら」
チラシをこちらに突きつけてきた。そこには雑でキャッチーなロゴで
「……ハワイ?」
違う、少し違う。眼をこらしてみると
「ハクイ? ハクイ島って?」
「よくわかんなーい。日本の領土みたいだよー」
まぎらわしい片仮名の下に、こっそりと『白帷島』と書かれていた。
そしてさらにこっそりと
『日本で唯一、政府公認の呪われた無人島』
と、あった。
むっちゃんは家族で呪われた南の島にバカンスに出かけて行った。
「みどろちゃんをお願いねー」
と明るく手を振りながら。