10 ナイスなアドバイスって感じもしないことない
うれしいんだか怖いんだか笑えるのか泣けてくるのか、もう頭の中がゴチャゴチャだぁ~
家にいてもモヤモヤするばかりだし、それに少しくらいは勉強を進めないと(そこ大事)、と、アタシは思い切って図書館を目指し、外に出た。
みどろちゃんは、仕方なくエコバッグに入れて自転車の前かごに。濃いグリーンの袋の口から少しだけ頭(?)をのぞかせ、案外気持ちよさげに前かごで揺られている。
暑くないのか、オマエは? そう問いかけるアタシはすでに頭のてっぺんから汗まみれだ。
図書館の駐輪場に着いた時、
「おっ、サク生きてたかー」
能天気な声に振り向くと、クラスメイトの池島タケルが日向から手を振っていた。
アタシを凌駕するほどのバカ(褒め言葉)だから、そのまま日向に立ったまま汗をダラダラかいてしゃべっている。
「オマエ、数Ⅰと物理と日本史、補講だって? オレなんて地理と化学とコミュ英、ところでさ、コミュ英のコミュって何? キリシマにそこから調べてこい、って説教されちまってさ、オマエ知らねえか?」
とにかく日陰に来なよ、と手招きすると屋根の下に入って、ようやく前かごのコイツに気づいた。
「おっ何これ」
池っちにはコレがどう見えているのか、興味もある。
彼は急に暗くなったせいか目をぱちぱちさせてから、エコバッグの端をそっとめくった。
「うっわ! 何これすげえ」
どうやら、池っちが見ているものとアタシが見えているものとは同じようだ、と安心したのもつかの間、ヤツは無防備にみどろちゃんをすくい上げ、目の前に掲げてまじまじと見つめた。
「きったねえ柄だなー、何これ」
「……それはアタシが訊きたい、これ何だと思う?」
池っちそれには答えず、しばらく面白そうな目をして黙ってみどろちゃんを眺めていた。
「つうかこれ、どうしたワケ」
アタシは早く答えが聞きたかったんだけど、とにかく聞いてほしいのもあって、早口でむっちゃんからこいつを預かってからここに至るまでの顛末を(もち、兄キが喰われた部分についてはきれいになかったこととして省いて)語ってきかせた。
早口なのには他にも訳がある、池っちが喰われてしまわないか、ちょっぴり心配にもなってね。
池っちはひょい、とみどろちゃんをカゴに返すと、意外なことを言った。
「ムツミなら、連絡来てたけど?」
えっ、とあわててラインを見る。ほんとだ。いつの間にか既読がついている。そして、本人の一言も。
―― 島まじサイコー。しばらく帰りません!
アタシが訊いていたみどろちゃんに関する質問も爽やかに無視してるし。
ホント、信じらんない! アタシがぶつくさ言ってるところに、池っちが軽く口を挟んだ。
「だったらさ、別にいいじゃん?」
コイツの言い方はどこまでも軽い。
「どっか棄てて来ちゃえば?」
「はあ?」
「でさ、ムツミには『ごめん逃げちゃったー』って謝れば、いいじゃん」
だってさ、しばらく、っていつまでか分かんねえじゃん? 夏休みいっぱいかもよ。したらずっと面倒みなくちゃ、ならねーんだろ? エサもすげー、喰うんだろ?」
「……だよね」
もちろん池っちには、餌の充実した内容については話していないけどね。
アタシは腕に抱えたみどろちゃんを見る、みどろちゃんはひとつの目を半眼に開いてこちらに向けたまま、ひと声大儀そうに啼いた。
「でもさ」
池っちを見上げてアタシは真面目な口調で言ってやった。
「コイツから、逃げ切れると思う?」
「えー」
池っちは鼻の脇をポリポリかいている。
「だってコイツ、だらーっとしてんじゃん? どっか山ん中にでも棄ててくればさ」
そこにエラソーな女の声が響いた。
「ちょっと。今、ステル、って言ってたわねアナタがた」
目を上げると、今度日向に立っていたのは、白い日傘をさした背の高いオバサマだった。