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01 むっちゃんの「かわいい」は信用できない
ねえねえ、これ見て! すごいよ! すごいかわいいよっ!
そう、むっちゃんが飛び込んできたのは、夏休みの初日。
むっちゃん・睦美は近所の幼なじみ、幼稚園からなんと高校までずっと同じ。
友だち、っていうよりくされ縁。こうして二階の部屋にまで上がり込んでくる。
いやな予感がする。アタシは寝てるフリを貫き通すことに。
「ねえ、さくちゃん起きてよー、見てよこれ」
「みたくない」
せっかくそう答えたのに、がばっと布団をはがされた。
掛け布団じゃない、敷布団を。おかげでアタシは半ひねりで頭から床に転がり落ちる。
「ったいじゃん、何すん」の、まで言い終わらないうちに、もっちゃんのキラキラした目がすぐ目の前に迫った。
「拾ったの! これ、かわいいでしょーー!?」
「これ……どこで拾った」
つい、シリアスドラマの中年刑事みたいな口調になってしまった。
目の前につき出されたのは、どう見ても
「かわ……いい?」
とは、対極にある物体だった。