小さな猫の話
むかしむかしあるところに一人の男の子がいました。
男の子はとても小さく泣き虫でいつも泣いてばかりいました。
男の子には家もなく家族もいませんでした。
あるとき道でであった猫に、
「君はどうしてそんなに泣いてばかりいるんだい?」
と聞かれました。
男の子は、
「ぼくもなんで泣きたいのかわからないんだ。でもきづいたらなみだが出てるんだ」
と答えました。
それから男の子は猫と旅をしました。
来る日も来る日も一人と一匹で旅をしました。
旅の途中でいじめられると猫が助けてくれました。
いつしか助けてもらってばかりだった男の子も一緒に戦うようになりました。
それからご飯は猫と一緒に半分に分けて食べていました。
お腹はみたされませんでしたが、男の子はそれでも良かったのです。
なぜなら、猫がいつしか男の子の大切な存在になっていたからです。
猫といる毎日が男の子は幸せでした。
男の子が大きくなり立派な青年になった頃、猫は大分歳をとっていました。
そしてある日猫は青年にこう言いました。
「君はもう泣き虫なんかじゃない。気付いていたかい?」
青年は答えました。
「いいや、ちっとも気付いてなかったよ。猫さん何故だか知ってるかい?」
猫は答えました。
「それはね、君が独りぼっちじゃなくなったからだよ。昔の君は独りが淋しくて泣いていたんだ。でも今の君は独りじゃない、そして誰かと過ごす素晴らしさを知ったんだ。だから、その素晴らしさをまた違う誰かに伝えてあげるんだ」
青年は言いました。
「それなら猫さんも一緒にこの素晴らしさを伝えよう。僕は一緒に伝えたいんだ」
猫は答えました。
「残念だけどそれは出来ないよ、もう僕には時間が無いんだ。今まで君と旅をすることが出来て本当に楽しかったよ。僕に素敵な時間をプレゼントしてくれてありがとう」
そう言うと、猫は細い細い路地はへと消えていきました。
青年はとても悲しくなりました。
それでも決して泣くことはありませんでした。
何故なら青年の心の中にはあの猫がずっと居てくれたからです。
青年はある村で一人の女性と出会いました。
女性はずっと独りで暮らしていたのでいつもいつも泣いてばかりいました。
しかし青年が傍にいて一緒に暮らしているうちに笑顔が増えていくようになりました。
そして二人は結婚しました。
結婚した二人には沢山の子どもがいました。
決して裕福ではありませんでしたが、みんないつも笑顔でした。
何故なら大切な存在と一緒にいることの幸せを知っていたからです。
その家に生まれた子どもたちは大きくなって家を出ていきました。
家を出るとき父親は猫の形をしたペンダントを子どもに渡しました。
それはお守りでした。
そして子どもたちは別の場所で大切な存在と一緒にいることの幸せを伝えていました。
青年の家族の傍にはいつも小さな猫の姿がありました。