表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/6

Episode 1-5 final

車の中で着替えた僕は、スマホを見た。


玲司から先ほどの写真が送られている。



少し乱れた髪の僕と、肩を組んだ玲司。

2人とも自然な笑みを浮かべている。


2人の仲の良さが伝わってくる———そんな写真だった。



少し笑って、それをフォルダに保存する。



ついでに、フォルダ内の写真を見た。

思いのほか一杯ある写真は、全て学園での思い出だ。



それを、ひとつひとつ開いて、見ていく。



高等部の入学式の写真

———玲司と僕の家族で撮ったなかなか大人数の写真だ。


書記に任命されたときに、生徒会で撮った写真

———ふふ、僕緊張してる。


新入生歓迎会、体育祭、文化祭で撮った写真

———高等部の行事は、華やかでとても楽しかった。


生徒会長と副会長、庶務を務めた先輩方を送る会で撮った写真

———とてもお世話になった先輩方がいなくなるのが、寂しかった。


新しい生徒会で撮った写真

———海斗、陸斗、楠木、そして玲司。みんなで協力して学園を盛り上げようと、決めた。



2年の行事関係の写真は、少ない。

新入生歓迎会も体育祭も、おざなりに終わってしまった。


文化祭は、僕がまだ復帰できていなかった。


修学旅行は、準備は手伝ったが体調を考慮して行かなかった。

玲司にお土産をいっぱいもらった。

現地での仕事もいっぱいあったのに、ごめんと謝罪した僕に

『大した事ねーよ、気にすんな。』と笑い飛ばした玲司。


写真を撮ったのは

先輩方の卒業式のときと

僕と玲司が生徒会の任期を終えたとき。


先輩方に、『お疲れさま』『助けてあげられなくて、ごめん』———そう言われた卒業式。

実は僕の片思いを知っていたと、こっそり言われたのには驚いた。

『だから、ごめん』と謝る先輩に、慌てて首を振ったのを覚えている。

最後まで、僕を心配して卒業していった先輩達に、心から感謝した。


生徒会の任期を終えた時

双子達と楠木が、僕と玲司を送る会を開いてくれた。

寮の玲司の部屋に集まって、夜通し話をして騒いだ。

———あのコもいたけど、楽しかった。

そのとき、寝ていた獅童を呼び出して写真を撮ってもらった。

文句を言っていたけど、『ありがとう』というと照れていた。


大変だった時、風紀の人にたくさん協力してもらった。

獅童とも仲良くなれた。

いつも僕の体調を気遣ってくれて、夜遅く寮に戻る僕に警護の人をと提案してくれた良いヤツだ。

結局、警護は三鷹がしてくれたのだけど。


3年になって

また写真が増える。

ただ、これまでは玲司達との写真が多かったのに対し、

親衛隊との写真が増えた。

三鷹からもらった写真だ。


度々お茶会に誘ってくれた

——僕の好きな茶葉を入手した、と。

——お茶菓子を焼いた、と。

——みんなが会いたがっている、と。


色々な理由をつけて、誘ってくれた。

きっと、精神的に参っていた僕に気を遣って。


本当に良い子達だった。


いつも撮る側を買って出た三鷹が一緒の写真は、———少ない。



僕がそう思っていると、


「お…っと。」


スマホが震えた。


「あれ、楠木…?」


———珍しい。


メールの送り主は、楠木。

彼とメールしたのは、業務的な連絡の時くらいではないだろうか。

ほとんど会って話していたから、その回数は少ない。


不思議に思って

メールを開く。



『榊先輩には、送ってません。』



文面に、さらに?が浮かぶ。


が、



「っ!!」



添付されていた写真を見て、思わず赤面した。



それは、


中庭の桜の下で


抱き合う


僕と


———三鷹。



しかも、アップ。




楠木ーーーっ!!

どこから撮ったんだよ!!

無駄に高解像度なカメラだなっ!!


無意味に足をジタバタさせてしまった。


しかも、玲司には送ってないって…!!!


「やっぱり、あいつ気付いてたんだ…っ」


なんて恥ずかしいっ!




とりあえず、楠木には


『消せバカ!!』


とだけ返信した。




そして、写真は



———保存した。



いや、だって三鷹の写真少ないしさ!


とか言い訳を考えながら、保存した写真を改めて見る。


そして、顔の熱が上がるのが分かった。




「なんて———顔してるんだ…。」




三鷹のその顔は、見てるこっちが恥ずかしくなる程


…とろけたというか、緩んだというか


とにかく、愛しくて仕方がない———という顔だった。




ふ、と笑いが漏れる。

これは———覚悟しなければ。





スマホを握る僕に



「空港に着きました。」



と澤田さんから声がかかった。






———————

———



ロンドン行きの飛行機を、座って待つ間

僕はスマホに詰まった写真を見ていた。


家族との写真、学園での写真


———思い出を、目に焼き付けるように。




「春人様、お時間ですよ。」




澤田さんの声に、顔をあげる。




立ち上がった僕は、澤田さんにスマホを渡す。



「これ、—————解約しておいて。」



「……よろしいのですか?」



「うん。大丈夫。」



家族の番号は控えてあるし。


思い出は、もう僕の中にある。

みんなとの繋がりは、消えない。


向こうで新しいのを買おう。

誰も知らない番号の携帯を。



「では、解約して…端末は…この澤田が———お預かり致しましょう。」


「え…?」


「思い出を、形に残しておきましょう。

春人様が、日本に戻られたときにまた———見返せるように。」



優しく言われた言葉に、僕は考え


「…じゃあ、———よろしく、お願いします。」


預けた。





澤田さんから軽い手荷物を受け取る。

生活に必要な物は全て、エドのもとに送っている。

足りない物は、向こうで買えば良い。


「必要な物があれば、どうぞご連絡ください。」


「うん、ありがとう。」


「春人様、」



澤田さんの両手が、僕の肩に優しく置かれる。

僕をこれまで支えてくれた———大きな皺だらけの手。



「私や、旦那様、奥様、秋人様、藤峰家に仕える全ての者は


いつだって———春人様の、味方です。


どうか、それだけはお忘れなきよう。」



「…うん。澤田さん、いつもありがとう。本当に感謝してる。」



「もったいなきお言葉です。」



澤田さんの大きな手も、優しい顔も———忘れない。



「ところで、春人様。」


「なに?」




「目標は何でございましょう?」


「目標?」


「左様でございます。


物事を始める際には、何事も目標を決めなくては。」



なるほど、と思う。



「そうだね、…分野別の売り上げで国内トップを取るとか、まぁさしあたっての目標は色々あるけど…。


どうせなら


———大きな目標を、澤田さんだけに教えようかな。」



ふ、と笑う僕に

澤田さんが首を傾げる。



「僕の後輩にね、


行き先を言わずに消える僕を探す———っていうやつがいるんだよ。」



「ほお。」



澤田さんの目が丸くなる。



「世界中探して、僕を見つける———って言ってたんだけど、」



にやり、と笑って

暗闇に見える飛行機を見据える。




「———そいつが探さなくても見つけられるくらい




世界に、———名を轟かせてやろうかな。」




言い切って振り返ると

呆気にとられたような澤田さんが目に入る。


それが面白くて

噴き出す。




「じゃ、行ってきます!」




笑ったまま、僕は澤田さんに手を振って歩き出した。




セキュリティチェックを過ぎたところで

澤田さんを振り返ると


慌てたように



「っ春人様!お体にお気をつけて!!」



声をかけられた。


笑顔で彼に手を振った。







—————

———




席は、兄が取ってくれたファースト。

学生なのだから、と遠慮したのだが


『長旅だから』


と言って聞かなかった。



座り心地の良い椅子に座ると

乗務員が静かに寄って来て、飲み物を聞かれる。

それに笑って首を振る。


畏まりました、と下がろうとしたその女性が

僕の頭を見て、何かに気付く。


「髪に、花びらが…。」


失礼致します、と言って取ってくれた手には

———桜の、花びら。



学園でついたのだろう花びらを受け取った。



「今日、卒業したんです…———。」



ついでに言った僕に

女性は笑って



「ご卒業、おめでとうございます。」



と言ってくれた。



それに笑ってありがとう、と言うと

彼女は去っていった。





手に残った花びらを見る。





先が2つに分かれた花びらに

思い浮かべる2つの影。


ふっと笑って、握りしめる。






玲司、三鷹、






————行ってきます。











僕を乗せた飛行機は


夜空へと



—————飛び立った。









これが僕の———卒業した日の話。




Fin.

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ