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2008 総一郎
総一郎は、梅の木を見上げた。
良い枝振りだ。春は満開の花が咲き誇り、青い空を透かしてゆらゆらと揺れていた。
おそらく近いうちに、世界の経済が破綻する。
既にこの地上に巡らされた金融の「網」。
その網が破滅の芽をくるみ込み、この世界を覆っているのが分かった。
細かな光を巻き込み、崩れ去る巨大なバベル。
悲鳴を上げる小さな命が見える。
「早いうちに、手を打つようにおじさんに言ってください」
総一郎は、父を振り返った。
「空売りを」
小さな応えが帰り、背後の気配が消えた。
もういちど、空を見上げる。
暑い空だ。美しいけれど、汗がまといつく。
衣の裾を引く汚れた無数の手を振り払い、総一郎は呟いた。
「僕はまだ、お前達には食われない」