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ねむれる姫神・外伝集  作者: flower
本編外伝
1/41

1976 霜園と伽倻子 1

「わ、私の言う事を聞くのだぞ」


真っ黒な髪の美しい女が叫ぶ。

金襴緞子、とも呼びたくなるような、素晴らしい着物を着ているお嬢様が。


本当に痩せていて、20という歳には見えない。

なにもかもが少女のような、ちまちました愛らしい姿だ。


霜園は、今まで触った事もないようなすべすべの綺麗な畳に座り、ぼんやりと天井を見上げた。

何だか綺麗な透かし彫りのようなものがある。


何故こんな所に居るのだろう……。

背広の男達に車に乗せられ、ここに運ばれて来たのだが。


……自分は、工事夫だ。こんな場所は似つかわしくない。

安賃金で、様々な工事に借り出され、あくせくしている毎日だった。

地べたに座り込み、たばこと缶コーヒーを味わう事だけが楽しみだった。

今頃、安アパートの臭い部屋でごろ寝していたはずなのに。


「はあ……」

「なんだ、お前。私の言う事を聞くよう申し付けたであろう。くつろぐがいい!」

「腹減った」

「え」


女が、小さな拳をぶんぶん振るのを辞めた。


「お、お前は、お腹が空いたのか」

「ああ」

「ああではない!はいだろう!私を誰だと」


うるさい女だった。

とんでもなく可愛い顔をしているのに……。


「なあ、何かないですかね。握り飯とか」

「握り飯……」


美しいお嬢様が、困ったように首を傾げる。

小さな顔に、桜色の指先を当てた。


「わ、私が作ってやろう、未来のお、お、夫の為に」

真っ赤だ。小さな作り物のような耳の先まで真っ赤になっている。


「あのー」

「なんだ!」


お嬢様が、キッ!と顔を上げた。

かわいい。本当に20歳なのか。黒い子猫のようだ。


でも……。


「俺、いつあんたの夫になるって言いましたっけ……」

「えっ」

お嬢様が泣きべそ顔になった。


「め、め、雌が決めた事なのに。雌が決めたのに、雄のお前が、雄の……」


お嬢様が、綺麗な畳につっぷし、美しい帯を震わせて泣き出した。

傍らに控えていた年かさの男が、慌てたようにお嬢様を抱き起こす。

「そのようにお泣きになってはなりませぬぞ、ああ、お可哀想に、伽倻子様」


「あの、俺、明日早いんで、帰りたいんですけど……」


工事夫の佐々木が、全く話の通じない、変人のお嬢様に惚れるのは……ずいぶん先のことになる。


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