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週刊どらゴン通信!  作者: 世鍔 黒葉@万年遅筆
第一章 「短槍使いが孤高すぎて」
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1-8 決闘

「《ラヴァ・ペイン》」


 俺は頭上に四回引き金を引く。そして前方に《ガーネット・バレット》を八発発射。


 シュラは炎の弾丸をゲイ・ボルグでは弾こうとするが、弾丸は全てシュラの頭上へ行き、短槍の射程では届かない。


 シュラはあまりにも外れた弾丸の狙いに怪訝な様子を見せる。


 が、直後それぞれ放った炎の弾丸がシュラの頭上で《ラヴァ・ペイン》の弾丸と衝突し、激しい爆発を起こす。


 突如現れた上からの暴力に、シュラは防御する暇もない。七割ほどもHPを減らす。


 この前のように防御を捨てた装備だったら一発でHPがゼロになっていただろう。やはり防御面も強化していたのだ。


「その技は……《ファイア・ワークス》! まさか……」


 シュラが回復アイテムでHPを満タンにしながら、驚愕する。


「《サファイア・バレット》」


 しかし俺が目覚ましだとばかりに氷の弾丸を放つと、すぐに正気に戻り短槍を振るう。


 氷の弾丸は、着弾して氷塊を出現させる前に弾かれ、明後日の方向に飛んでいく。


「やはりご存じでしたか。じゃあ次はこれ!」


 俺はまた《ラヴァ・ペイン》を発動。頭上に向けて放つ。


「《サファイア・バレット》」


 続けて氷の弾丸を斜め上方向に打ち上げた。


「っ! 《フラッシュステップ》」


 シュラは危険を察知して、その場から離れるように移動した。


 直後、《ラヴァ・ペイン》で落下してくる弾丸に、氷の弾丸が衝突。出現した氷塊が爆発の威力を乗せ、地上に降り注いだ。


「《アイシクル・ペイン》だと!」


 シュラは声を張り上げ、言う。驚きを隠そうともしない。ここで俺はわざと攻撃を止めた。


「まさか……お前、『三柱の大災害(トライディザスター)』か……!」


「そう言われていた時期もありましたね。今はただの一記者ですよ」


 俺とシュラの間に、沈黙が流れる。互いが武器を構えたまま、動かない。


「お前を、ずっと追いかけていた。戦士として常に頂点に立つお前を。

 ずっと、聞こうと思っていた。なぜお前はあの場から姿を消したのだ?」


 聞く相手に『お前』とは、ずいぶんな態度だな。

 俺はそんな風に思ったが、顔には出さない。


「約束を守らされたんですよ。とある女王様にね。いなくなった、と言えば、あなたも元々いたギルドから抜けたようですが、なぜです?」


「一人で強さを示さなければ、お前とは戦えないと思った。それだけだ……」


「なるほど、今は個人トーナメントでは『疾風乱舞の戦姫(サイクロン・プリンセス)』がいますからね。あっちのほうでは優勝できなかったというわけだ」


「なんだと……!」


 俺が少し挑発すると、シュラは容易く激昂する。


「あなたの戦い方は、スピードに重点が置かれている。ソードマスターであったころもそうだったと聞きました。そして今、あなたは攻撃スキルをあの《デザイアー・ファング》しか覚えていない。違いますか?」


「くっ! その通りだ……。だがそれがどうした」


 案の定、激昂したシュラは自分の能力の事をたやすく認めた。


 やはりそうだ。シュラの神速の槍技は、俺の《ツインガンナー》のような武器熟練度スキルだけにスキルレベルを振っていたことで可能となっていたのだ。


武器熟練度スキルだけはそれぞれレベル10まで上げなければならないが、それ以外は自由にレベルを上げられるし、上げない事だって可能なのだ。全くあげていなければ、使う事すらできないが。


 そしてもし本当に武器熟練度スキルに全てレベルを振っているとしたら、三次職の武器熟練度スキルはレベル120を超えている計算になる。


どう見ても驚異的な数字だ。


「どうもしませんよ。ですがもう一つ、あなたはこれからどうするか、という事です。

 アストラル・ウェポン、ゲイ・ボルグを手に入れ、目の前には私が居ます。そして決闘の最中ですが?」


「なるほど、そういう事か……いいだろう。戦いを続けようではないか」


 シュラが言って、短槍を構えて突進してきた。俺は《スリップステップ》で横方向に移動し、距離を開ける。更に《ガーネット・バレット》を放ち、牽制する。


 しかしシュラは炎の弾丸をたやすく弾き、更に接近。ゲイ・ボルグを横なぎに振るう。


 俺は後ろに飛んでかわすが、穂先が掠りダメージを受ける。


 痛いとは知覚した。だが、痛いとは感じなかった。


 アルカディアの戦闘では、HPが減った時にはこのような感覚が出てくる。脳の中で痛いと『感じる』部分と『知覚』する部分が別の場所にあるらしいので、このような感覚を再現することができるそうだ。だから痛みで気絶したりすることはないし、トラウマになることもない。


「銃弾じゃ牽制にもならないか……」


 俺は言いつつ、《ラヴァ・ペイン》を発動。二回引き金を引く。そしてすぐにそこから離れる。


「《ライトニング・ストーム》」


 さらに計四発の雷の弾丸を放ち、斜め前方二方向に振ってくる弾丸にぶつける。


 俺を追いかけてきたシュラが文字どおり爆雷に巻き込まれ、大きくHPを減らす。


 シュラがHPを回復するために足を止めている隙に、俺は距離を取る。


「《サンダー・バースト》か。半年も見ていなかったが、腕は衰えていないようだな……」


「女王様に負けたのが悔しかったもので」


「ほう、トライディザスターが大会に出なくなったのは誰かに負けたという噂があったが、本当だったか……」


 シュラは言いつつ、《フラッシュステップ》で接近。ゲイ・ボルグをX字に振るう。俺はシュラの移動とともに《スリップステップ》で距離を取るが完全に追いつかれ、まともに攻撃を受ける。三割ほどのHPが一気に削られた。


 俺は反撃に掃射を行うが、短槍で難なく弾かれる。


 シュラは再び接近。ゲイ・ボルグを十字に振るう。移動スキル発動直後で、回避が間に合わない。またしても三割ほどHPが削られる。


 俺は六割もHPを削られたが、シュラの神速の槍技に回復アイテムを使う暇がない。


 正直相性が悪い相手だった。単体への攻撃が主なレンジャーでは、なかなか攻撃ができない。近づかれると範囲攻撃が使えない上、直接の銃撃は短槍で防がれる。


 だったら、範囲攻撃でなくて短槍で防げない攻撃をすればいい。


 俺はもう一度、《スリップステップ》を使い距離を取ろうとする。しかしシュラは先と同じように《フラッシュステップ》で距離を詰めてくる。


「《サードニクス・バレット》」


 俺は前方の地面に向けて雷の弾丸を掃射する。弾丸が地面に着弾すると、その場所に雷が落下し、文字通り雷の壁を創り出す。


 シュラは接近したことでそれに阻まれ、立ち往生する。その間に俺はアイテムでHPとMPを回復した。


「あなたが目指しているのは何です? 元々いたギルドでも大会に出ていたんでしょう? それを蹴ってまで一人で勝ち続けているのは何故ですか?」


「高みを目指すのに理由など必要ない。ただ孤高であることに価値があるのだ」


 シュラはそう宣言すると、再度接近してくる。俺は攻撃を阻むためにもう一度、《サードニクス・バレット》を地面に掃射する。


 しかしシュラはそのまま突っ込んでくる。雷の壁でダメージを受けるが、気にした様子を見せない。

「《デザイアー・ファング》」


 そして大技を発動。突きの動作で繰り出す。俺は避けきれず、まともに食らう。


 一気にHPが九割ほど削られ、さらにMPがゼロになる。


 やばい! MPも減少させる技なのか、このままじゃやられる!


 シュラは俺の思考を裏付けるかのように、止めの攻撃を放つ。


 そしてその瞬間。全てがスローモーションに見えた。


 シュラがゲイ・ボルグを斜め右方向から振るってくるのがはっきりとわかり、俺は最低限の動作で身を低くし、かわす。さらに《スリップステップ》を発動し、シュラの脇を通り抜けて背後に回った。


 一連の動作にシュラは俺を見失い、立ち往生する。その隙に俺はアイテムでHPとMPを回復した。丁度、《デュアルバレット》の効果が切れる。


「なるほど、そうですか。俺と全く同じだ」


 俺が言うと、シュラは弾かれたようにこちらを振り返り、言葉を返す。


「同じ……だと……?」


「そうです。高みを目指すこと自体が目的だというのは、実によくある目標です。ですが、それを一人だけで目指すというのは、間違っている」


 シュラは何も返さない。言葉の意味を図りかねているのか、はたまた異論を唱えようとしているのか、俺には分からない。


「俺に諦めろと言うのか……?」


「そうではありません。ただ、あなたは一人だけで戦って楽しいのですか?」


 シュラは否定も肯定もしない。聞く気もない雰囲気だ。


 その様子に、俺は『あれ』を見せる決意を固める。


「でしたら、ただ高みを目指した者がどのような姿になるのか、それを見てもらいます。『三柱の大災害(トライディザスター)』と呼ばれた者の真の力を。戦士のなれの果ての姿を!」







次回は十二日の二十時に投稿予定。ついにシンジが『本気』を出します。


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