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週刊どらゴン通信!  作者: 世鍔 黒葉@万年遅筆
第一章 「短槍使いが孤高すぎて」
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1-7 再接触、そして……

「魔法を発動させます。シンジさん、この子を守ってください!」


「分かった」


 エリが召喚していた風の精霊、ヴィリデアエレメントに魔法を使う指示が出されたのを確認して、、俺はその前に立ちふさがる。


 今戦闘しているモンスターは、羽が生えた獣を石像にしたようなモンスター、フィアガーゴイルだ。こいつらが五体固まって襲ってきたので、ヴィリデアエレメントの魔法で一掃する算段だ。


 ちなみに、エリと共にアルスター遺跡の捜索をして、今日で二日目になる。


「攻撃を引きつける! 《ライトニング・ストーム》」


 俺はスキルを発動させ、雷属性の特大の弾丸を撃つ。弾丸はフィアガーゴイルの一体に命中し、周りに激しく雷撃をまき散らす。


 これによって俺は五体のフィアガーゴイル全てにダメージを与え、のけぞらせる。


 その直後、五体のフィアガーゴイルは一斉に反撃として羽から衝撃波を発生。遠距離から俺に真空の斬撃を見舞う。


 一斉に来るとは思わなかったので、俺は焦る。後ろにヴィリデアエレメントを匿っているからよけるわけにもいかない。少しでもダメージが通ると、魔法詠唱は中断されてしまうのだ。


「《ガーネット・バレット》」


 俺は一か八か、炎の弾丸を発射すべく、銃の標準を合わせる。


 その瞬間。全てがスローモーションに映った。高速の衝撃波も止まって見えるほどだ。俺はその『止まった』衝撃波を妨害するように炎の弾丸を発射する。


 次の瞬間、時間の感覚が戻った。炎の弾丸は衝撃波に命中し、その爆風で他の衝撃波を相殺する。


 危ない……一瞬『本気』になりそうになった……。


 俺は攻撃を受けそうになったことよりも、また別の懸念に冷や汗をかく。


「《スリップステップ》」


 ともかく敵の注意は完全に俺に向いたはずだ。一気に接近する。


「《パワーショット》」


 威力は他のものより低いが連射性能の高いスキルを発動させ、弾丸を乱射する。フィアガーゴイルは爪の生えた足で攻撃してくるが、俺は《スリップステップ》を使いかわしていく。


「シンジさん、そろそろ詠唱が終了します。離れて下さい!」


「了解っ! 《ガーネット・バレット》」


 俺は置き土産とばかりに炎の弾丸を撃ちつつ後退する。


「発動します! 《サイクロン》」


 エリが言うと同時に、フィアガーゴイルたちのいる地面に巨大な魔法陣が描かれ、直後に風の乱流が巻き起こる。


 風の槍が次々と発生し、何度もフィアガーゴイルたちを貫いていく。十秒ほどの効果時間のうちに全てのフィアガーゴイルのHPがゼロになり、光となって消えた。


「ザコ敵とはいえ、五体も同時に出ると慎重にならざるを得ないな。まあ無傷だったし、いいか」


「はい。この子の経験値も入りましたしね」


 リコーラーの召喚することができる使い魔は、初めは使い魔にした時点のレベルであり、弱いモンスターである場合戦力にはならない。だがレベルを上げることで格段に強くなり、一線級の戦力になるのだ。しかもレベルアップのための経験値がユーザーよりも少ないため、比較的早く成長させることができる。


「さて、そろそろ最深部に着くころだと思うんだが……ん?」


 俺はスキル、《鷹の眼》を使い、先の道を観察する。


「人がいるな……これは……戦っている?」


「どうしたんですか?」


 エリが心配そうに問う。


「この先の大広間で誰かが戦ってるんだ。相手は一体みたいだけど、ずいぶん苦戦しているな」


「助けに行きます?」


「そうだな、何か情報が得られるかもしれない」


 俺とエリはそう言って走り出す。が、その広間での光景には驚きを隠せなかった。


 六人のパーティーと一人のユーザーが争っていた。普通に見たら、一人のユーザーの方が襲われていると思うだろう。だが実際はそうではなく、一人のユーザーが六人のパーティーを圧倒していた。


 そのサブネームは『シュラ』ノーブル・ソルジャーその人だった。


「シンジさんっ!」


「待て、まずは状況をじっくり観察しよう。下手したらこっちがやられる」


 パーティーのほうは、ジェネラルが二人、スナイパー、バード、プリースト、そしてソルジャーの編成だった。明らかに持久戦に持ち込むためのメンバーだ。


「くそ! ノーブル・ソルジャーっていうのに、ちっとも気高くないじゃないか! 人の取った装備を奪おうだなんて!」


 ソルジャーの男が焦ったように言うが、シュラは全く反応せず、ただ短槍を振るう。前衛が三人いるので、今のところシュラは前進する気は無いようだ。ひたすら攻撃を加え、前衛三人のHPを削っていく。


 しかし回復役にプリーストとバードがいるので、戦況は遅々として進まない。


 ここで俺は疑問に思った。装備を持ち帰りたいのなら、その場で『転送石』を使えばいいのだ。なのに彼らはそれをしていない。


 何か事情があるようだった。


 一瞬、ジェネラルの一人がシュラの短槍で武器を弾かれ、プリーストとシュラの間に道ができる。シュラはそれを見逃さなかった。


「《フラッシュステップ》」


 光の如く直進で、一気にプリーストの元へと接近する。大会の時には使っていなかったスキルだ。新たに覚えたのだろう。


「《デザイアー・ファング》」


 そして大会でも使っていた大技を発動させ、一気にプリーストのHPをゼロにする。


 プリーストが消えるのを見届けることなく、シュラは近くにいたバードに短槍の乱舞を浴びせる。遠距離では高い火力を持つバードだが、近距離ではめっほう弱い。すぐにHPをゼロにされてしまった。


 ようやくジェネラルの二人とソルジャーが追いつくが、時既に遅しである。


 回復役がいなくなったパーティーなど、シュラの敵ではなかった。


 ジェネラルの二人とスナイパーを切り倒し、最後にソルジャーと三メートルの距離で対峙する。


「そこまでしてこのゲイ・ボルグが欲しいのかよ! なんて奴だ」


 ソルジャーの男は持っている短槍を見ながら言う。


 シュラがかすかに頷いたように見えた。


 そして次の瞬間、シュラは光の如く直進でソルジャーの目の前まで接近する。


「《デザイアー・ファング》」


 短槍スキルで不意打ちをし、止めを刺す。


「な……に……?」


 ソルジャーの男は何が起きたのか分からないというような表情で、光となって消える。


 シュラはこの十数分で六人のユーザーを本国送りにし、そして一本の武器を手に入れた。


 男が消えた場所に、一本の短槍が残っていた。オブジェクトとして残っているという事は……間違いない。


 あの短槍『ゲイ・ボルグ』は『アストラル・ウェポン』の一つだ。


 シュラはゲイ・ボルグを引き抜き、自分のものとする。


 アルスター遺跡にあるレアアイテムとは、短槍系最強武器、ゲイ・ボルグだったのだ。あのパーティーは先ほど最深部のボスを倒し、それを手に入れた。


 そして、シュラはそこを狙って襲撃をかけたのだ。計画はゲイ・ボルグを手に入れることによって成就した。


 戦士として、どうすれば強くなれるか。シュラはずっとそれを考えていたのだろう。そしてもっとも簡単な結論に行きついた。すなわち、最強の武器を手に入れてしまえばいいと。


「取材を申し込む。エリはここで待っていてくれ」


「で、でも……」


 ここまで来て置いていかれるのはエリも嫌だろう。だが……。


「シュラさんが相手だとエリも巻き込んでしまう。俺は『その時』になったらエリを倒したことにも気づかないかもしれない」


 俺の物騒な発言に、エリは気を呑まれたように頷いた。


「ごめんな。必ず上手くやってみせるよ」


「はい……せめて私はカメラを回しておきます……」


 少し拗ねたようなエリの態度に、俺は苦笑して、そしてシュラの前に姿を現す。


「何者だ」


 あの時と同じく。シュラは短槍を構え、問う。


「週刊どらゴン通信の記者。シンジと申します。取材を申し込みたく、参上しました」


 俺は無駄だと知りつつも無駄に丁寧な言葉で話しかける。


「あの時のか……お断りだと言ったはずだが?」


 予想通りの反応だ。


「そうですか……。でしたら」


 俺は腰につけているホルスターから、二丁の短銃を取り出す。


「決闘を申し込みます。俺が勝ったら言う通りにしてもらいます。その代わりにあなたが勝ったら俺はもうあなたの前に現れるようなことはしません」


 シュラが動きを止める。兜のせいで眼は見えないが、口元を歪めている。笑っているようだ。


「ふん、どうせさっきの戦いも見ていたのだろう? 俺がゲイ・ボルグを手に入れたと知ってなお、戦いを挑むか。面白い、受けてたとう」


 やはりだ。シュラは武士気質が強い。このように挑戦すれば必ず戦ってくれると思っていた。


「分かりました。では、行かせてもらいます! 《デュアルバレット》!」


 俺はスキルを発動。《デュアルバレット》は一定時間放つ弾丸が通常一発のところ二発になるスキルだ。単純に火力が二倍になるからかなり強力なスキルと言えるだろう。


 孤高の短槍使い、シュラとの戦いが始まった。







おまけ:武器について。

 アルカディアでの戦闘で使用する武器は攻撃スキルを発動する条件であり、これがなくては戦闘を行う事はほぼできません。


 ユーザーが武器を持っている状態には三つの段階があり、それぞれ武器機能の発揮の仕方が違います。


・非装備状態

 アイテムパック内に武器を所持し、持っているだけの状態。当然ながらそのままでは使用することはできない。


・装備状態

 武器を装備し、関係する能力値が上がっている状態。剣なら鞘に、銃ならホルスターに収まるなどして、装備者の外見も変化する。武器に関係するスキルは発動できない。


・臨戦状態

 装備状態から武器を抜くとなる状態。特定の行動をとることによってスキルが発動し、戦闘が可能になる。


 装備することによって様々な効果を発揮する武器ですが、一例としてシンジの装備している銃を紹介します。


・コラーダ

 装備レベル:150

 装備ランク:S

 装備効果:火属性攻撃威力上昇S。射程距離上昇A。


・アーレス

 装備レベル:145

 装備ランク:S

 装備効果:火属性攻撃威力上昇S。爆発系攻撃範囲上昇A。


 装備レベルは装備できるレベルの下底を意味し、装備ランクはそのレベル帯の武器のなかでどれだけ強いかを意味します。

 装備効果はその武器を付けている間変化するステータス以外の効果を意味します。


 装備ランクはC、B、A、Sの四段階で示されます。強さは次の通りです。

C:店に売っている。装備効果が存在しない。

B:モンスターなどから時々入手できる。上昇する能力値がCランクよりも高く、装備効果が存在する。

A:レアモンスターやボスモンスターから入手できる。ランクBよりもさらに上昇する能力値が高く、強力な装備効果を持つ。

S:一部のボスモンスターから入手できる。最高クラスの能力値を持ち、装備強化も非常に強力。


装備効果の強さの種類はC、B、A、Sで、Cが最も弱く、Sが最も強い。






マメ知識的な何か

「アルスター」

ケルト神話の一つにアルスター伝説という物語が存在する。その中で、究極の槍、ゲイ・ボルグを持ったク・ホリンという戦士が登場する。レイはこれのことを言っていたつもりらしいです。


次回は十一日の二十時に投稿予定。シュラとシンジがぶつかり合います。


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