1-6 全てバレていた。
「《サードニクス・バレット》」
俺は高さ三メートルはありそうな巨大なゴーレムに向かって、雷の弾丸を乱射する。弾丸はすべてゴーレムに命中し、アルスター遺跡の天井から大量の雷がゴーレムに落下する。
しかしダメージは通ったものの、麻痺は発生しなかった。
「雷属性に耐性があるのか、厄介だな」
俺はそう言いつつも更に攻勢に出る。
「《サファイア・バレット》」
今度は氷の弾丸を乱射。ゴーレムを囲うようにして氷塊を出現させ、移動を制限する。
「よし、これで何もできないはず……」
と、言ったのもつかの間、石の塊のような拳が飛んできた。正真正銘、そのまんまのロケットパンチだ。
「っ!」
俺は何とか移動スキル《スリップステップ》を使い地面を滑るように移動。紙一重で拳をかわす。拳が当たった後ろの壁に、轟音とともに爆発が起きた。
ゴーレム本体を見ると、飛ばしたはずの拳がすでにゴーレムの腕にあった。一度発射してからすぐに装填されてしまうようだ。
「あの耐久力で遠距離攻撃もあるとは……更に厄介」
ゴーレムのHPは三分の一ぐらい減らしたが、予想外の機動力と防御性能に俺は手を焼いていた。弱点は頭にあるようだが、どうしても腕で防御されてしまうのだ。
しかしゴーレムの移動を制限していることは確かだった。この状況ならいくらでもやりようはある。
「《ラヴァ・ペイン》」
俺は頭上に六発銃撃を行う。
「《ガーネット・バレット》」
そしてすぐに炎の弾丸を乱射、《ラヴァ・ペイン》の落下してくる弾丸に正確に命中させる。そうして双銃技の弾幕をゴーレムの四方に展開した。
十二発の弾丸が互いに衝突して生み出した衝撃波が、ゴーレムを圧殺するようにその威力を振るい、激しい爆発を起こす。
これをまともにくらったゴーレムは大きくHPを減らした。
しかしゴーレムも黙ってはおらず、ロケットパンチを発射する。
俺は引かず、更にスキルを発動させた。
「《フローズン・ブレイク》」
並のオブジェクトなら貫通する強力な氷の弾丸を二発、正面からロケットパンチにぶつける。爆発が起こり、ゴーレムの拳は消えてなくなるが、氷の弾丸はそのまま貫通する。
そして、氷の弾丸はゴーレムの頭を貫き、一気にHPをゼロにした。
「よしっ!」
俺が言い、ゴーレムが光となって消えた瞬間、頭の中で景気のいい音楽が流れた。
俺は何が起きたのか分からず、数秒の間困惑した。
……レベルアップだ。限界レベルに達してから結構な時間が経っていたから、なんだが新鮮な感覚だ。
俺はメニューウィンドウを開き、ステータスの変化を確認する。
「能力値上昇と、スキルレベル+1、それと……リミットブレイクスロット+1にスロットスキル+1か。レベル151で結構変わるもんだな」
能力値は言わずもがな、スキルレベル+は任意のスキルのレベルを上昇させることができ、リミットブレイクスロット+とはレベル120以降の《リミットブレイクスキル》を習得できる個数が増えることを示す。これまで二個だったのが三個までに増えたのだ。
更に全職業習得可能なスキル、《スロットスキル》の枠も四から五まで増えた。
俺はステータスボーナスを割り振ってから何のスキルレベルを上げるかしばしの間考える。
ラヴァ・ペインとガーネット・バレットはもう上げなくていいか、だが他のをそんなに上げても意味ないし……そうだな、双銃の熟練度を上げるか。
俺はそう考え、三次職スキル《ツインガンナー》のレベルを上げる。このスキルは双銃の連射速度と威力を上昇させるので、全体的な火力を上げることができるのだ。
と、その時、俺はあることに気付く。
「もしかして……あの人はこれを使っていたのかも知れないな……。実際に会えたら、確認してみるか」
目標が新たに生まれた。
「しっかし……なかなか目的の人物が現れないな、これで三日目なのに。ずっと張ってなきゃいけないのがきついな……」
俺は自らが考案したとある捜索方法に自分で愚痴りながら、無人のアイテム販売機で回復アイテムを購入する。
「あらあら、苦戦しているようね。レイの言った通りだわ」
突然後ろから声を掛けられて振り返ると、クイーンがいた。
「誰のせいだと思っているんですか……」
俺は静かに、だがたっぷりと怒気を含ませながら言うが、クイーンは涼しい顔で流す。
「そんなに大変なら、休息も必要よ。今スタジオで面白いものが見られるから、シンジ君も見ていったらいいわ」
「はあ……そうですか……」
どちらにせよこの後エリと打ち合わせをしたかったから、スタジオには行くことになる。
「ところで、どうしてここに?」
このマップのこの場所は、戦闘のためのアイテムを買ったり、大会に出場ずるための手続きをするためにある。俺が見る限り、クイーンが経験値稼ぎのためにモンスターを狩っていたことは一度もない。それなのにレベルは俺たちよりも高めだから、どこかで狩りをしていても不思議ではないが……。
「今度ある個人戦トーナメントでね、一人密着取材をしようと思っている人物がいるのよ。その為に、一番いい席を取りに行くのよ」
なるほど、たまにはプロデューサーらしい仕事もするものだ。
「それじゃあ、私は行くわね。あなたもせっかくのゲームなんだし、取材を楽しみなさい」
そう言うと、クイーンは転送石を使ってどこかに行ってしまった。
ゲームなんだから楽しめ……か。確かにそうだな、もっと気楽にやるとしようか。
俺はクイーンの言葉のおかげで少し軽くなった足取りで、水上都市ヴィネルのスタジオに向かう。
「おーい、エリ、いるか?」
俺はスタジオに着くと、待ち合わせをしていた少女の名前を呼ぶ。
「あ、シンジさん。こっちこっち!」
すると、奥の方から声が聞こえたので、俺はそちらに向かう。
エリがいたのはスタジオの舞台のそでにあたる場所だった。そこで俺は目を疑う光景を目にする。
その部屋には、エリ一人ではなく、同じ司会であるナツキもいた。しかし、二人の少女は、とあるサブカルチャーで絶大な人気を誇る、イがメとドに挟まれた名前の職種の恰好をしていた。
アルカディアでは戦闘時の防御力などを上昇させる戦闘防具だけではなく、能力値に影響せず見た目だけを変える外装装備というものが存在する。
これがあることによって性能のいい装備を自分の好きな外見にして装備できるので、ユーザーからはけっこう評判の高いシステムだ。
よってエリとナツキが来ているこの服も、誰かが作った外装装備だ。
「ど、どうですか?」
エリが言って、くるりとその場で回って見せる。エプロンと合わせられたロングスカートがふわりと舞い、元々の彼女の美貌と相まって幻想的とまで言えそうな光景を創り出す。
「あ、ああ……まあ、いいんじゃないか?」
と、いうわけで生返事しかできない俺だった。
「おやや~、シンジ君が見とれてる。エリちゃんの魅力に負けたかあ?」
そしてここぞとばかりにナツキがからかいにかかる。
俺はなんとなくはめられた感じがして、ため息を吐いた。
「どうしてそんな恰好を?」
俺が聞くと、ナツキが真っ先に口を開く。
「それはエリがシンジ君を落とし……」
「今度番組でこういう企画をやろうかなと思っているんです」
が、少し頬を赤らめたエリが絶妙な角度でナツキの口を塞ぎ、代わりに説明をする。
「なるほどな。たまにはそういうアクセントも必要ってわけか。でも毎度はできないと思うぞ?」
「確かに、こういうのはインパクトが重要ですもんね……」
エリに発言を潰されて目を白黒させているナツキを横目に、番組でコスプレ企画なるものをどのように扱うか一言二言議論を交わす。
「うう、意外とエリって強いのね……でもそうまでして否定するってことは……」
議論を交わす間にナツキが再び息を吹き返し、また何か言おうとしたが、エリに睨まれて口を塞ぐ。
「ところで、アルスター遺跡について何か新しい情報はあったか?」
俺はここに来た本来の目的を思い出し、聞く。
「ええと、クロノスでも何人かがアルスター遺跡の捜索をしていて、いくつかのチームは最深部までたどり着いたそうです」
「本当か? 最深部には何が?」
「予想通りといったら予想通りなんですけど、ボスがいたそうです。ですが、そのボスモンスターがかなり強いらしく、捜索にいったチームはみんな全滅させられたそうです」
退散ではなく全滅か。それほど強いモンスターなのだろう。いや、それとも。
「普通のモンスターがそこまで強くないから、ボスにも油断したのかもしれないな」
「いやいや、あそこのモンスターは普通に強いって。エリちゃんとシンジ君だから楽勝に思えるだけだよ。ガルムモノリスとかの火力と耐久力に苦戦している人もいるんだから……」
ナツキが両手を振って俺の一つの考察を否定する。
「あと、通常のボスと違って、戦う時に閉じ込められてしまうらしいんですよね。
わたしが調べられたのかここまでです、シンジさんは?」
「ヴァルハラの掲示板とかを探っているんだが、どうもな……。なかなか情報がなくて苦戦してる。アルスター遺跡に何らかのレアアイテムがあることは間違いないんだが……」
俺は半分ぐらい嘘を吐く。心苦しいが、他の人には知られたくない事情があるのだ。
「それ、嘘ですよね?」
「へ?」
が、エリはそれを一瞬で見抜く。
「ナツキさんから聞いたんですけど、シンジさんはここ三日間アルスター遺跡で散策をしているんですよね? レイさんが見たところによると、誰かを待っているような感じだったとか」
俺は計画を台無しにされたことに関して、ナツキを睨む。が、エリの時は引き下がったにも関わらず、ナツキは涼しい顔だ。
「もしかして、一人で何かを解決しようとしてませんか?」
図星だった。だが俺はせめてもの抵抗を試みる。
「そ、そんなことないさ。それは……」
「はいはい、無駄な抵抗は止めなさい。あんなこと、別に知られてもいいでしょ? あのね、エリ、シンジ君はあのノーブル・ソルジャーの狙いが何なのか全て知っているし、それを利用して取材をするつもりなのよ」
「そんな……そんなことどうして黙ってたんですか……」
エリが上目使いで俺を真っ直ぐに見る。
万事休すだ。もはやなんの弁護もできまい……。
「ごめん、エリ。隠してたのは事実なんだ。その理由もすごく個人的なものだし、独りよがりだったな」
「だったら、わたしも連れて行ってください」
再び真っ直ぐに見つめられて、俺は反論の余地がなくなる。
「分かった、連れてくよ……」
俺が言うと同時に、エリはぱあっと表情を明るくした。
「ありがとうございます!」
俺は苦笑いをし、心の中で目頭を押さえる。これではほぼ確実に『あれ』を見られてしまうだろう……。しかし作戦を変更するわけにもいかない。特集の放送は四日後に迫っているのだ。
「でも、その隠してた理由って何なんですか?」
エリが言うと、ナツキはしてやったりというような意地の悪い笑みを浮かべる。
きっとこれを聞いてみるようにそそのかしたのだろう。
くそ……なんてことだ。ナツキはエリを利用して俺に勝利宣言をしてきたようなものだ。
「すぐに分かる……言わせないでくれ」
俺は大きくため息を吐き、『あれ』見せる覚悟をなんとか固めようとする。
それは闘技大会で優勝するよりも難しいことに思えた。
おまけ:シューター職の転職経路
一次職
・シューター(撃ち手)
使用武器:短銃、弓
上昇しやすいステータス:魔力、素早さ
短銃または弓のどちらかを使って戦う。どちらも魔力で威力が上昇する。
二次職
・ガンナー(銃使い)
使用武器:短銃、機関銃
上昇しやすいステータス:魔力、素早さ
銃の連射による手数の多い遠距離攻撃が持ち味。短銃と機関銃を扱うことができる。
・アーチャー(弓使い)
使用武器:弓
上昇しやすいステータス:魔力
弓による高威力の遠距離攻撃が持ち味。連射速度と素早さはガンナーに劣るが、その分一撃の威力は高い。
三次職
ガンナーから分岐
・スナイパー(長銃使い)
使用武器:長銃、機関銃、散弾銃
上昇しやすいステータス:魔力、精神力
長銃による狙撃、機関銃による掃射、散弾銃による迫撃など様々な戦い方ができるが、その本領はスナイパーの名にもある通り長銃による狙撃である。
・レンジャー(双銃使い)
使用武器:双銃
上昇しやすいステータス:魔力、素早さ
双銃による中距離戦闘が領分。連射速度が高く、火力も高いので一体に対する攻撃力は高い。
・ブリンガー(銃剣使い)
使用武器:銃剣
上昇しやすいステータス:魔力、素早さ、耐久力
銃と剣の機能を持つ武器で接近戦闘も中距離戦闘も行える。接近戦闘では筋力がウォーリア職よりも低く、打ち負けしやすいが当たりさえすれば高い魔力で大ダメージを与えられる。
アーチャーから分岐
・ハンター(魔弓使い)
使用武器:弓
上昇しやすいステータス:魔力、精神力
弓による同時多方向への攻撃や、矢の雨を降らせたりと範囲攻撃が得意。
・バード(吟遊詩人)
使用武器:ハープ
上昇しやすいステータス:魔力、精神力
ハープを奏でることで魔力の矢が発生、マシンガンのように打ち出すことができる。それだけでは無く、強化魔法も多数覚え、クレリックとも並ぶ支援職でもある。回復魔法も覚えるので、意外と万能。
・ディバイダー(両剣使い)
使用武器:両剣弓
上昇しやすいステータス:魔力、素早さ
弓のような形をした両剣を扱い、人によっては踊るように戦う。防御面は弱いが、高い魔力での強力な遠距離攻撃と斬撃は脅威の一言である。
次回は十日の二十時に投稿予定。三話ほど戦闘が続きます。
アルカディアでのゲームシステムは、実際にあるMMOのものをもとにしたり、作者があったらいいなと思う機能を詰め込んでできたものです。
外装に関してはもともとあるものと、3Dアーティスト的な人が個人で作っている設定です。あまりヘンな恰好を作ると運営側に削除されたりしそうかなと想像しています。