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週刊どらゴン通信!  作者: 世鍔 黒葉@万年遅筆
第一章 「短槍使いが孤高すぎて」
3/23

1-2 番組内で〆切り言われた。

「あっ、シンジさん!ねえ、わたしたち今日も上手くやれてましたか?」


 俺がスタジオにつくと、先ほど司会をやっていたエリが話しかけてくる。ショートの薄金色の髪に碧眼、アジア系と欧州系の雰囲気が二対一で混じった感じのこの少女は、一般的に見て美少女と言われるぐらい顔立ちやスタイルが整っており、だからこそクイーンにスカウトされて番組の司会をやっている。


 俺と同じくあと数日で高校二年生になる。番組のスタッフとしては俺より三ヶ月ぐらいの後輩だ


 アルカディアにおけるユーザーのアバターは、基本的に本人のものを元にして作られている。大きな変更は出来ないが、髪や肌、瞳の色は自由に変えられるし、プチ整形的な顔の形の変更もできなくはない。


 ちなみに俺のアバターは銀髪に黒眼。元々平均的な日本人高校生の顔を少しいじった程度だ。


「ああ、よかったよ。アドリブにしてはあいつの召喚も上手く見せられたみたいだしな」


 あの巨大なクリスタル・ドラゴンは今のアルカディアの中では最強クラスのモンスターだ。エリの職業であるリコーラーは、モンスターを倒した時に低確率でそのモンスターを使い魔にできる能力を持っているのだが、あれは完全に偶然だった。


 確か、クイーンの『お遊び』で運営のイベントのために期間限定で出現していたクリスタル・ドラゴンを倒しに行ったときだったか。俺とクイーンとエリの三人でパーティーを組んで挑んだのだが、パーティーの最高人数である六人で挑まないと普通は倒せないモンスターなので、かなり苦戦した。


 そしてそのご褒美だったのか、なんとエリは幸運にもクリスタル・ドラゴンを使い魔にすることができたのだ。


「ところで、クイーンに呼ばれてきたんだが、あの女王様はどこだ?」


「ええと、多分調整室で撤収を見てると思います」


「わかった、ありがとう」


「また依頼なんですか?」


「ああ」


「そっか、また忙しくなりそうですね」


 エリが苦笑いするのを見て、俺は肩をすくめた。


 調整室を見に行くと、数人のスタッフが展開した機材をアイテムパックに収納しているところだった。触れられた機材が、次々と消えていく。


 その部屋の端っこに、妙齢で長身の女性を見つけた。


 この人は、誰がどう見ても絶世の美女だと認識するぐらい、文句なしの美貌を持っている。ああ! 今までどれほどのユーザーが彼女の美貌に惹かれて玉砕していったか!


「クイーン。呼ばれたんで来ましたよ」


「ええ、早かったわね」


「それで、今回の依頼は何なんです?」


 俺がわざとぶっきらぼうに言うと、クイーンは口の端を吊り上げつつ、答える。


「今日の放送で、再来週にノーブル・ソルジャーの特集を企画してるって言ったわよね?それで、今回の特集はあなたに情報収集をしてもらいたいの」


「下調べはしてあるんですか?」


「してないからあなたに依頼しているのよ」


 なんてこった。これまでいろいろな無茶は言われてきたが、白紙の状態の取材を番組中で期限を切られるというのはいっそ気味がいいぐらいの無茶苦茶だ。


「どうして調べなかったんです?」


「調査自体はしていない訳ではないけれど、彼には謎が多すぎるのよ。普通に考えて、あんな無名のユーザーが大会で優勝するなんてありえないわ。ソロプレイヤーであれだけの実力を持っているのよ。

 多分、彼は元々強いギルドに所属していたのだろうけど、ジョブチェンジをした上でサブネームを変えて高跳びしたに違いないわ」


 俺は絶句した。そんなことをしているのだとしたら、知り合いのユーザーからも絶縁しているに違いない。調べるのは困難を極めそうだ。


 サブネームとはアルカディアにおけるファーストネームを意味し、自由に変更が可能な上、他のユーザーと被っても問題ない。


 苗字にあたるユーザーネームは変更が不可能で唯一無二なので、識別は簡単にできる。

「まあ、アルカディアは広いようで狭い社会だから、あのレベルのソルジャーが行きそうなところをしらみつぶしに当たることね」


「無茶言わないで下さいよ。アルカディアにあのレベル帯のソルジャーが何人いると思っているんですか」


 今回のレベルキャップが最後のレベル制限だったこともあり、運営側はなかなか調整に苦戦していた。それが数百万人のユーザーを抱える人気ゲームならなおさらだ。


 結果、かなりの人数のユーザーが最高レベルである150レベルに達していたのだ。かくいう俺もレベル150のレンジャーだ。


「なに弱音吐いているのよ、取材期間は二週間『も』あるのよ。闘技大会もあるし、そこから後つければ楽勝じゃない」


「それができるのはあなただけですよ……」


「まあ、とにかく頑張りなさい。『分からなかった』ってことも、いいネタになるんだから。どんな結果であれ、私たちの理念にかなっていればいいのよ」


「『清く、正しく、面白く』ですよね……善処します……」


 俺はそうやって散々渋ったが、最初からクイーンの命令には逆らう事ができないことが分かり切っていたので、最後には承諾する。


「じゃあ、さっそくですが、この前のトーナメントの映像を詳しく見せてくれませんか?何か手がかりがあるかもしれないんで」


「あなたのそういう切り替えの早さ、私は好きよ。いいわ、丁度スタッフもいるし、思う存分見ていきなさい」


 クイーンがそう言ったので、俺はスタッフに頼んで映像を見させてもらった。




 ヴァルハラのソルジャー、シュラはひたすら敵の攻撃を弾き、弾き、また弾く。どの試合でも、相手のMP切れを待つ戦法は全く変わっていなかった。


 映像を熟視した俺は、ある驚愕の事実に行き当たった。


 アルカディアはバーチャル空間を中心としたMMOだが、その戦闘システムはそこまで新しいものではない。MPを消費することで発動するスキルを使い、相手のHPをゼロにすればその戦闘は勝ちなのだ。無論、MPがなくなれば元々のステータスと本人の力量だけで武器を振るうしかない。


 なので、普通の対人戦では下級スキルを中心に攻めていき、ここぞというところで大技の上級スキルで止めを刺す。


 ところが、シュラは相手の下級スキルの連撃に対して、全くスキルを使わずに防御していたのだ。回復アイテムに制限がかかる闘技大会において、MP切れを起こしていないのだから当たり前なのだが、スキル技を全て通常攻撃で防ぐなんて芸当、普通できるわけがない。


 それほど通常攻撃とスキル攻撃には威力の差がある。


 しかも、大技を出した時の攻撃の速さは常識では考えられないほどの速さだった。いったい、どんなふうにステータスを分配すればこんなことができるのだろう?


 アルカディアにおいてユーザーのステータスは、主に二つの要素が影響する。

 一つは、職業だ。例として、ウォーリア系(主に近接戦闘が主体)では筋力や防御力が上がり、マジシャン系(魔法による攻撃や補助が主体)では魔力がそれぞれレベルアップ時に上がりやすい。


 もう一つは、ステータスボーナスだ。レベルアップした時、ユーザーのレベルに応じた量のボーナスが貰えるのだが、それでユーザーが望む能力値を上げることができる。


 ちなみにステータスの種類は、筋力、魔力、耐久力、精神力、素早さの五つだ。それぞれ、物理攻撃、魔法攻撃、物理防御、魔法防御、スピードに影響する。


 筋力と素早さを上げれば攻撃のスピードは上がるが、あそこまで速くなることはまずない。

謎は深まるばかりだ。


 と、その時俺の視界の隅でそろそろアルカディアにいる『体感時間』がそろそろ八時間を超えるというメッセージが出た。


 俺は一つため息を吐き、メニューウィンドウを開いてログアウトを選択した。

そして数秒後、俺はアルカディアの『シンジ』ではなく、現実世界の『あずま真治しんじ』として自分の住むマンションの一室に意識を戻す。


 家には俺以外誰もいない。母親は四年前に病気で他界してしまったし、父親は仕事で忙しくてあまり帰ってこない。海外に出張することも多いのだ。

そして俺は県立の高校生として地味に一人暮らしをしている。父親はほとんど顔を見せないくせにお金だけは送ってくれていたし、母親が入院している期間が長かったため、家事は前から俺の役目だった。だから生活には困っていない。


 そんな生活をしていて、寂しくないと言えば嘘になる。実際、半年前まではそんな孤独が俺の心の中を埋めていた。


 時計を見ると、時刻は午前零時。ゲームを始めてから八時間……ではなく四時間が経っていた。


 『Arcadia online』が数百万人以上のユーザーを抱えるほどヒットしたのは、この特性のおかげとも言えた。


 脳に送る信号を限りなく簡略化させることにより、『体感時間』を二倍にまで引き延ばすことができたのだ。とある学者が人間の動きのほとんどは脊髄神経の誤作動だとかいう暴論を言うぐらい人間の神経系には無駄が多いらしく、この技術はもっと革新の余地があるそうだ。


 時は金なり。という言葉が表すように、今も昔も時間は大事だ。ゲームをやることの弊害として時間を浪費してしまうことがあげられるが、それを半減させてしまったこのMMOはある意味ゲームの理想系とも言えた。


 ちなみにアルカディアでの時間は一分が120秒と設定されており、一時間の単位ではこちらと同じなので『体感時間』の長さが変わっても意外と気にならない。どちらにせよ、ゲームをしているうちはあっという間に時間がすぎるのは変わらないのだ。

俺はベッドから起き上がり、ヘルメットのような形をしたSCSの機材を頭から外す。


 あまり長い時間SCSを使用していると、脳にはあまり影響はないのだが、体は確実になまる。だからSCSを使用したゲームでは、連続して四時間以上接続した場合、強制的にログアウトさせられ、一時間ほどログインが禁止される。システム的には五時間毎で四時間まではログインできるわけだ。


 SCSを使用している間は、筋肉に完全に信号を送ることができず、普通に寝るよりも格段に筋肉が弱りやすい。


 アルカディアのようなゲームのホームページにはそのことが必ず書いてあるので、俺はなんとなく強迫観念に駆られ、ログアウトした後は必ず筋トレをするようにしている。


 腕立て、腹筋、背筋、スクワットをそれぞれ二十回、二セット行った。


 そしてなんとなく満足した俺は、ベッドに倒れこんだ。


 明日は日曜日だ。昼間までゆっくり寝るとしよう。



おまけ

 アルカディアでは、レベルが上がっていくにしたがって転職を行うことができます。

 最初の職業は『見習い冒険者』ですが、レベル10になると『ウォーリア』、『マジシャン』、『ローグ』、『シューター』の四つから選び転職することができます。

 さらに、レベル30、70、それぞれの職業から分岐していく二次転職、三次転職を行うことができます。

 レベル120になるとリミットブレイクと呼ばれるイベントを行うことができ、成功すると全てのスキルを更に成長させることができます。(これをアルカディアでは四次転職と呼ぶ)


『ウォーリア』


一次職

・ウォーリア(戦士)

 使用武器:片手剣

 上昇しやすいステータス:筋力、耐久力

 剣による近接戦闘が領分。


二次職

・フェンサー(剣使い)

 使用武器:片手剣、両手剣

上昇しやすいステータス:筋力、耐久力、素早さ

 ウォーリアと同じく剣による近接戦闘が領分だが、より剣のスキルが強化されている。


・ランサー(槍使い)

 使用武器:槍

 上昇しやすいステータス:筋力、耐久力、精神力

 槍による近接戦闘が領分。フェンサーよりも範囲攻撃が得意。


・バーサーカー(斧使い)

 使用武器:斧

 上昇しやすいステータス:筋力、耐久力

 斧による強烈な攻撃が持ち味。防御力も高い。


三次職


フェンサーから分岐

・ソードマスター(剣豪)

 使用武器:片手剣、両手剣、双剣

 上昇しやすいステータス:筋力、素早さ

 多数攻撃が多く、スピーディーな戦いかたが持ち味。ただし他のウォーリア職よりも防御が低い。


・ブレイカー(大剣使い)

 使用武器:大剣

 上昇しやすいステータス:筋力、耐久力

 大剣による高威力、広範囲攻撃のスキルが持ち味。


ランサーから分岐

・ソルジャー(短槍使い)

 使用武器:短槍

 上昇しやすいステータス:筋力、精神力、素早さ

 短槍によるスピーディーな戦い方が持ち味。魔法防御が高い。


・パラディン(騎士)

 使用武器:長槍、突撃槍

 上昇しやすいステータス:筋力、耐久力、精神力

 馬や竜に騎乗し、高い機動力での戦闘が可能。騎乗しない時は長槍による範囲攻撃が、騎乗中は長槍による範囲攻撃と突撃槍による高威力の単体攻撃が使い分けられる。


バーサーカーから分岐

・ジェネラル(重戦士)

 使用武器:ポールアーム

 上昇しやすいステータス:筋力、耐久力、精神力

 鎧の戦士。物理防御と魔法防御が全職業中トップ。突く、掻く、叩き切るの三つの攻撃方法が可能なポールアーム(ハルベルトが代表的な槍と斧を合体させたような武器)で安定した戦闘能力を持つ。


・デヴァステーター(重武器使い)

 使用武器:ハンマー

 上昇しやすいステータス:筋力、耐久力

 ハンマーによる高威力、広範囲攻撃のスキルが持ち味。一撃の攻撃力はウォーリア職ではトップ。






MMO内の設定を考えているときが一番楽しいです。

少し前までは攻略本が愛読書だった時期もあり、こういうのを書くのはあこがれていたのであります。


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