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週刊どらゴン通信!  作者: 世鍔 黒葉@万年遅筆
第一章 「短槍使いが孤高すぎて」
2/23

1-1 まずは一見。話はそれからだ。

(勿論、番組的な意味で)

 時刻は午後十時丁度。空中に浮かぶモニターから景気のいい音楽が流れ出し、画面には二人の少女が映し出される。


「こんばんは! 2050年4月9日、土曜日。週刊どらゴン通信の時間がやってまいりました! 今日も水上都市ヴィネルのスタジオからお送りします。司会はわたくしリコーラーのエリと」


「メイジのナツキが務めさせていただきます!」


「いやー、今週もアルカディアではいろいろな珍事がありましたね! まずは、今週一週間を一気に振り返ってみましょう。ナツキさん、お願いします!」


「あいあいさー! それじゃあ、いくよー!」


 二人の少女の内、いかにも魔女らしい恰好をしたナツキは両手の内に球体を出現させる。それを光らせながら全身を光の柱に包み、一瞬でその場から消えた。


 そして画面が切り替わった。ナツキが別のモニターの前に立って、話し始める。それと同時にモニターに映像と共にテロップが映し出された。


「今週一週間の出来事を振り返るこのコーナー。ラッキーセブン!


 まずは日曜日! 桜村では満開の桜の下で飲み食いする人々でにぎわいました。リアルではなくなってしまった光景ですが、昼間から酔っ払って殴り合いを始めるユーザーもいました。なんて伝統的などんちゃん騒ぎでしょう! 酒臭くないのが唯一の救いです


 月曜日! ついにレベルキャップが解放され、レベル150からレベル200まで限界レベルが上昇しました! それに伴い、各職業最強武器、『アストラル・ウェポン』が解放されました。

アストラル・ウェポンは新ダンジョンのどこかに眠っているとのこと。みなさんも探してみては?


 火曜日! 戦いの炎は今回も熱かった! 闘技島の四次職クラス個人対抗バトルロワイヤル。

キル数部門ではヴァルハラのドロッパー、コトミが優勝です。エデンのジェネラル、カイトとの一騎打ちでは敗れてしまいましたが、驚異の技のキレでダントツの一位!


 水曜日! ここ水上都市ヴィネルでユーザー主催の賭け牛レースが行われました。一時間に及ぶ激闘の後、なんともっとも賭けが少なかった黒牛、デスクトップが一位でゴール。会場は結果に一喜一憂する人々で大いに盛り上がりました!


 木曜日! オリンポス火山の頂上にてエデンのブレイカー、タツヤとヴァルハラのソードマスター、レノの決闘が目撃されました。因縁の二人は激しく剣をぶつけ合い、最後には互いの放った遠距離技で相撃ちするという男臭い結末が!


 金曜日! 城塞都市レムルスの四次職クラス団体対抗トーナメントで前代未聞の優勝者が登場! ヴァルハラのソルジャー、シュラがたった一人でトーナメントを勝ち上がり、見事優勝を勝ち散りました! アルカディアネットでは彼のことを孤高の短槍使い(ノーブル・ソルジャー)と呼び、大いに盛り上がっています!


 そして今日! クロノスのシーフロード、ジュンがファブニル遺跡にて同職業のアストラル・ウェポン、『ダインフレス』を獲得! 今度の個人対抗トーナメントに期待が高まります!

 以上、今週一週間の主な出来事でした!」


 画面が再び切り替わり、エリ一人だけのスタジオが画面に映し出される。そして、開いているスペースに光の柱がまた立ったと思うと、ナツキがスタジオに戻ってきた。


「今週はレベルキャップ解放のこととか、てんこ盛りの一週間でしたね! アルカディアの世界も、どんどん広がっていくようです。


 そして、本番組は今現在、ダインフレスを獲得したジュンさんと接触することに成功しました! 現場のタクトさん!」


 画面が切り替わり、盗賊らしい恰好をした男と、マイクをもった男が映し出される。


「はい。こちらファブニル遺跡の入り口にいます! ジュンさんから話を伺ったところ、アストラル・ウェポンには特別な効果があることが判明しました。


 装備ランクはX。防御力無視の効果が付き、攻撃力もトップクラスという文句なしの最強武器ですが、これを持った者は戦いの宿命から逃れられないようです。


 効果欄には、アストラル・ウェポンに対応する職業からダンジョン内で攻撃を受けた場合、どちらかのHPがゼロになるまで『転送石』を使ってダンジョンから脱出することができなくなると明記されています。

 さらに、アストラル・ウェポンはダンジョン内でその所持者を倒すと、倒した人からアストラル・ウェポンを奪う事ができるそうです。ジュンさん、これについてどう思われますか?」


「誰がこいつを奪おうとしようが、返り討ちにするまでだ! この武器の性能を見たら、負ける気なんておきねえぜ!」


「すごい自信ですね! ますます、今度の闘技大会が楽しみです!」


 タクトがそう締めくくり、画面はスタジオに戻る。


「現場のタクトさんとジュンさんでした。いやー、アストラル・ウェポンって予想以上に強いみたいですね、しかも勝てば奪えるなんて、争奪戦が白熱しようです!

 それでは、次のコーナーに参ります。エリ、ふっちゃって!」


「はい! それでは今週の出来事の一番を決める、どらイチ!

 今回本スタッフが選んだどらイチは、こちら!」


 エリが言うと、画面に大きなテロップが現れる。


「城塞都市レムルスの四次職クラス団体対抗トーナメントをたった一人で優勝するという偉業を成し遂げた、ノーブル・ソルジャーことシュラ! です!

 わたしもこの試合を見ていましたが、彼の技は神業、の一言に尽きましたね。彼の職業の武器である短槍は、まさに神速で振るわれます。

 それではあの伝説的な決勝戦をもう一度見てみましょう!」


 画面が切り替わり、巨大な競技場の中央で六人のユーザーと一人のユーザーが向かいあっている映像になる。


『それでは決勝戦!ファイッ!』


 司会者の威勢のいい掛け声とともに、六人の戦士たちが同時に動き出す。

六人のユーザーのほうは、片手剣を両手に装備しているソードマスターと、忍者刀を逆手に持つドロッパー、短銃を両手に装備しているレンジャー、オーブを装備しているメイジ、長銃を装備しているスナイパー、そして回復役であろうプリーストの編成だった。


 対するシュラは全身を黒い鎧で包み、顔を兜の防具で隠した出で立ち。ソルジャーの専用装備である短槍だけで迎え撃つ。


 ソードマスターとドロッパーがシュラに切りかかるが、シュラは一本の短槍で軽くいなす。その瞬間をねらってレンジャーやスナイパーが銃を撃つが、それすらもシュラは短槍で弾く。


 そしてそのまま、膠着状態が続いた。シュラは絶対に出過ぎようとせず、ただ少しずつ前衛のHPを削っていく。その神速の短槍によって剣は防がれ、銃弾は弾かれ、魔法弾は打ち消される。


 そして、シュラ以外のユーザーが持つ回復アイテムが切れ始め、攻めの勢いが弱くなり始める。

 そうなってから、シュラは積極的に攻撃し始めた。


『《デザイアー・ファング》』


 初めに回復役であったプリーストが短槍スキルの餌食となり、一瞬でHPをゼロにされた。一瞬遅れてプリーストのユーザーが光となって消える。強制的に控室に転送されたはずだ。


 それから、パーティーは転げ落ちるように次々と短槍の餌食となり、プリーストが倒されてから五分と掛からずに全滅してしまった。


『勝者、ヴァルハラのソルジャー、シュラ!』


 司会者がシュラの勝利を高らかに宣言したところで、画面が切り替わった。


「いやー、何度見てもすごい戦いですね! 銃や魔法を全て弾いてしまうなんて、そうそうできるものではありませんよ。

 と、いうわけで、本番組ではノーブル・ソルジャー、シュラの特集を企画中! 再来週の放送を予定しています。こうご期待!」


「それでは次のコーナー。みんなのどらゴン通信!


 このコーナーでは視聴者からの便りをアルカディアネット経由で募集し、紹介していきます。エリ、いつもの!」


「はい! それでは意見箱、召喚!」


 エリが手をかざすと、いかにもくじ引き風な箱が現れる。その中にエリが手を突っ込み、一枚の紙を取り出した。


「サブネーム、ショウゴさんからのお便りです。

 最近の週刊どらゴン通信では、あまりエリさんのドラゴンを見られないのが心配です。彼は元気でしょうか?

 お便りありがとうございます。そういえば最近番組中に彼を召喚していませんね」


「それじゃあ、せっかくだし召喚しちゃおうよ!」


「そうですね、彼の元気な姿を皆さんにお披露目しましょうか。

 来て! クリスタル・ドラゴン!」


 エリが手に大きな本を出現させ、それを広げながら言うと、スタジオに大きな魔法陣が描かれ、眩い光とともに白銀に輝く西洋風のドラゴンが現れる。


 クリスタル・ドラゴンはその存在を誇張するように、翼を広げて咆哮した。


「えー、このとおり彼は元気です。ここ一か月は一度も召喚不能状態にはなっていません。ショウゴさん、心配させてごめんなさいね」


「ねえ、これからはもっとクリスタル・ドラゴンも番組に出してあげようよ。せっかくの『週刊どらゴン通信』なんだしさ」


 ナツキが言うと、俺の周りで同じように番組を見ていた人々から忍び笑いが聞こえた。


「確かにそうですね。先代の司会者もドラゴンに乗ったパラディンでしたし、彼にももっと出番を作りましょうか。

 えー、それでは次、サブネーム、シンイチさんからのお便りです。

 私もシュラさんの優勝を見ましたが、すごくびっくりしました! 再来週の特集が楽しみで仕方がありません!


 お便りありがとうございます。

 期待されてしまいましたねえ、そういっていただけると本スタッフもきっと力が入ります。

 そろそろお別れの時間が近づいてきました。

 最後のコーナーは、スタッフが選ぶ今週の一枚絵」


 画面が切り替わり、長剣と大剣で鍔ぜりあいをしている二人の男の姿が映し出される。


「本スタッフのレンジャーが撮影したものです。ブレイカーのタツヤとソードマスターのレノの宿命の対決の臨場感が伝わってきます。


 それでは、お別れは最近アルカディアで人気を集めている歌手。リーナさんの『水流イルミネーション』にのせて」


「「それでは、また来週!」」


 エリとナツキが声を合わせて言い、スタジオを上の方から見下ろす視点になる。


そして軽やかな電子音が紡ぐ曲に合わせ、スタッフロールと共に今週の出来事が次々と映し出される。


それで、番組は終わりだった。


俺はふっと息をつき、ベンチから立ち上がる。


この『週刊どらゴン通信』は、見ての通りアルカディアのユーザーが主催しているニュース番組だ。なにを隠そう俺もそのスタッフの一人で、番組の最後に出た写真を撮ったのは俺だ。


 まあ、初めは強制的にやらされたのだが、今では自分からこの番組を良くしようと考えるぐらいにはのめりこんでいる。


 いつもの癖でメニューウィンドウを開くと、誰かからメッセージが届いていた。


 差出人は『クイーン』。


 内容は、番組に関してシンジに依頼があるからヴィネルのスタジオまで来いとのこと。

 ああ、悪い予感しかしない。


 あの女王様は、自分がお金を出して番組の枠を取っているので、俺たちのプロデューサー的な立場にあり、命令には逆らう事ができない。

 

 つまり何が言いたいのかと言うと、またこき使われることを懸念しているわけだ。


 ……と。自己紹介が遅れたな。


 俺はクロノス所属のレンジャー。サブネームを『シンジ』という。

 これから用事があるから俺は行くが、君は自分のやり方でアルカディアの世界を楽しむといい。





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