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週刊どらゴン通信!  作者: 世鍔 黒葉@万年遅筆
第二章 「疾風乱舞は愛の疾走」
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2-6 第二作戦

「うーん。なんていうか、この人たちどこかで見たことがありそうだなあ。よく思い出せない……」


 ソラがレイの撮影している画像を引き続き見ながら、なにやらもどかしそうに呟く。


 エデンのソルジャー、イオンがギルドマスターを務めるギルド、『庭園大蛇』の面々は、いつも集まっているであろう喫茶店的な建物で少しの間会話をし、それからばらけて行動することになった。各々が各々の方法でレベル上げをしたり、アイテムを集めに行くのだろう。


 シェリイも含めてそれぞれが立ち去っていくなかで、一人だけ建物に残っている者がいた。その女性は突然銃剣を鞘から抜き放ったと思うと、真っ直ぐにカメラに向かってそれを突きだした。並んだ二本の刃の間に位置する銃口が、映像を見るあたしたちに向けられるような感覚を覚える。


『そこのカメラマンさん。私たちに何か用かしら?』


 というのは当然気のせいで、この女性は消費アイテムを使って《ハイド》を無効化し、レイを見ている状態なのだ。いや、そんなことは問題じゃない。


 あたしたち、もとい、レイの《ハイド》が見破られてしまっているのだ。


 レイはその場で《ハイド》を解き、降参のポーズをとる。


『失礼した。己は『疾風乱舞の戦姫(サイクロン・プリンセス)』、シェリイを追っている者だ。直接取材をしたいところだったのだが、あのような場では邪魔かと思い、このような方法を取った』


 そして口から出たのは、ほとんどが全くのでまかせ。番組の名前さえ出さない。


『ふうん。それでコソコソと撮ってたってワケ? シェリイも大変ね。要件ならば私が伝えるわよ。その代わり、次からこんな方法は絶対にとらないで』


『心得た。決してこの方法はとらないことを誓おう』


 レイがぬけぬけと言うと、女性はため息を吐く。


「レイ、せっかくだからシェリイとあのイオンって人の関係を聞きなさい。こんな勘の鋭い人なら、何か知っていてもおかしくはないわ」


 あたしが言うと、レイは顔色一つ変えずに再び口を開く。


『さっそくだが、一つ聞きたい。貴殿はシェリイとギルドマスターのイオンの関係をどう見ている?』


 レイの言葉に、女性はさらに厳しい表情になる。


 まったく、ストレートに聞きすぎだ。


『なるほどね。やっぱりあんたもそう思う? だったら、シェリイとイオンの関係はあなたの思っているとおりよ』


 そう言ってから、銃剣使い(ブリンガー)の女性は表情を緩める。


『イオンに言ってメンバーのみんなに晒しものにしてやろう思ったけど、やめた。なかなか面白いことを知ったわね。

 あんたさ、私と組まない? シェリイは絶対イオンに惚れているけど、恥ずかしがり屋な性格だからちゃんと伝えられずにいるの。だから、そういうシチュエーションを作って、ちゃんと告白させるのよ。そろそろ、大会で優勝し続けるもの健気すぎてかわいそうだなって思ってたし』


 あたしにとっては願ってもない最高の提案だった。引き抜きの事などすっかり忘れて、あたしはレイに提案を受け入れるように指示する。


『いいだろう。それならば己の仲間も手伝いに遣わす。勝手に撮影を行った迷惑料も加えて、貴殿の計画を成就させようではないか』


『オーケー、そういえば自己紹介がまだだったわね。もう分かっているかもしれないけど、私のサブネームはレダ。あんたは?』


『己はレイという。今後ともよろしく頼む』


 レイが言うと、レダは口の端を吊り上げた。







『……て、何で俺がこんな役割をしなきゃいけないんだよ!』


 ボイスチャット越しに、シンジ君の抗議が流される。


「この前の罰だと思えばいいんじゃないの? どちらにせよ、これはあなたじゃないとできない事でしょ?」


『やってきたヒーローに倒される役目ってか? そんなの他の奴でもできると思うんだが……』


『シェリイに対抗できるのは今のところあなただけでしょ。それに、敵が強い方が彼女を守りたいって気持ちを出させる可能性も高まるわ』


『さいですか……』


 最後にはやっぱり承諾するシンジ君。いやー、ほんと扱いやすいよねー。


「さてと、レダさん、そっちの首尾はどう?」


『順調よ、この時間帯はみんなで集まって話すから、いつでもイオンをそっちに向かわせられる』


 あたしたちが今計画しているのは、名付けて『白馬の救世主』作戦だ。この前の試合でシンジ君ならばシェリイを負かすことができそうだということが分かったので、それを利用して意図的にシェリイをピンチの状態にするのだ。


 そんな状態をあのギルドマスター、イオンが見たら、助けに入らざるを得ないだろう。この前のダンジョン散策でも同じような事があって、シェリイは助けに入るイオンに見とれるような性格であることが分かっているので、今回はそれを二人だけの場面でやってもらう。


 まず大事なのは、シェリイの方がイオンに惚れ込むことだ。


 それからなら、いくらでもやりようはある。大会に優勝し続けるというのは相手の目には留まるだろうけど、恋の手段としては悪手だ。そんなことで相手が彼女の気持ちに気が付くはずがないのだから。


 戦闘中に助けられたときには、シェリイはイオンに熱い視線を送っていた。いくら鈍感な男でも、それに気が付かない人はいないだろう。


 しかし、そのためにはシンジ君には本気になってもらわないといけない。もとい、あの暴走状態にならざるを得なくなるけれど、そうなっても大丈夫なように今回は手を打ってある。


「まあ、戦闘狂のあなたが存分に力を振るえるのよ。はりきっていってきなさいよ、狂犬(マッドハウンド)のシンジ君?」


『その呼び方はよしてくれ、この前の事はすごく反省してる』


『ねー、ナツキ。シンジとレイが来るのは分かるけど、どうしてボクもこの場で撮影をするの?』


 不意に、鈴を鳴らすような声が割り込んでくる。


「一人ぐらいは完全に撮影に専念する人が必要ってことよ。目は口ほどにものを言うって言ってね、こういう場面に直面したシェリイがどんな表情をしているか、ちゃんとチェックしておくのよ。どんな感じに思っているかで今後の対応も変わってくるわ」


『やっぱり……なんか悪趣味……』


 ソラはぼそっと言ったが、あたしは聞こえないふりをした。


「さあ、そろそろシェリイが所定のポイントを過ぎるみたいよ。シンジ君、準備はいい?」


『ああ、乗り気じゃないけどな』


 そうしてシンジ君は腕を組み、誰かを待つかのようにそこで仁王立ちする。今回もシンジ君の服装は『バーツ』であったころの戦闘服だ。


 ちなみにここは『地底界』というダンジョンのとある階層の回廊で、敵が出現しないけれど、ダメージは受けるマップだ。ここより下の階層でシェリイはよくモンスターを倒して経験値を稼ぐそうで、つまりは彼女が確実にここを通ることが分かっている。


 地底界と言うだけあってここは洞窟らしい雰囲気がよく醸し出されている。通路であるこのマップでも、壁に光る鉱石のようなものがたくさん埋まっており、天井を見るとプラネタリウムさながらのイルミネーションだ。


 そして狙い通り、シェリイがシンジ君の前に姿を現す。


『来たか……疾風乱舞の戦姫よ』


 うわ、厨二臭っ。よくこんな台詞言えるわね……。


 けれどそんな台詞を投げかけられたシェリイは、当然、そこで足を止める。


『何の用?』


 そして警戒してか、両剣を構えて言葉を返す。


 シンジ君はそれに対し、不敵に笑いながら腰につけてあるホルスターに手を伸ばす。


『それは半年前の俺を知っているなら、分かるだろう。俺はここでお前を待っていた。お前とまた戦うためにな!』


 そして銃を抜いたシンジ君は、いきなりリミットブレイクスキルを発動する。


『《シャドウショット》』


『っ!《ゼピュロス・ブレイド》』


 それに対し、シェリイも自身のリミットブレイクスキルを発動する。


『ハーッハッハッハーッ!』


 既にシンジ君の瞳は血のような真紅に染まっており、《デスペレイド》としての力をいきなり発揮していることを雄弁すぎるほど語っていた。


 そして展開される戦闘は、この前のようにもはや人の域を超えたものだった。シンジ君のような外見の変化はないものの、シェリイも《デスペレイト》としての力(仮)を使ってシンジ君の猛攻を弾いていく。


 しかし、今回は少し戦闘のおもむきが違った。前回はシンジ君の攻撃を《ゼピュロス・ブレイド》の衝撃波で防いでいたシェリイだったけれど、今回は武器についている魔法反射属性を存分に用いてシンジ君の銃撃を「弾き返して」いく。


 普通の銃使いの職業なら、こんなことをされたら嫌な顔ひとつぐらいするだろうけど、頭の痛いことにシェリイがそうやって技巧を見せるたび、シンジ君は獰猛な笑みを増していくのだ。


「よし、レダさん。そろそろイオンさんを呼んでくれる?」


『オーケー。助けに向かわせましょ!』


 それでも、ここまではなかなかいい流れだった。シェリイそうやっても少しずつシンジ君に圧されていたし、そろそろイオンさんを呼べば間に合いそうな戦況だった。


『《デュアルバレット》』


 しかし、ここでシンジ君が更に攻撃補助スキルを発動したことで、均衡が崩れる。時間差で放たれる一回につき二発の弾丸は、さらにシンジ君の銃撃を読みにくくし、さらに手数自体が二倍になったことで弾き返せるものも弾き返せなくなる。


 そのせいで急速にシェリイのHPが減少し始める。回復アイテムを使いながらでも、シンジ君の猛攻の前ではほとんど関係ないような感じだった。


「まずい……。レイ、そろそろシンジ君の邪魔に入って!」


『御意!』


 シンジ君が《ラヴァ・ペイン》と《ライトニング・ストーム》の合体技、《サンダー・バースト》を多重展開しようとしたところで、レイが絶技を披露する。


 シンジ君が放った《ライトニング・ストーム》による雷の炸裂弾の四発のうち二発を、この日のために用意していた魔法反射属性付のグローブで弾き返したのだ。暗殺者職の素早さがなければ、とてもできない芸当だ。


 しかも、そして弾き返した先にあったのはまた別の雷の弾丸であり、その二手でレイはシンジ君の《サンダー・バースト》を完全に無効化した。


『邪魔に入るのか。まあいい、貴様も俺を楽しませてくれるようだからな!』


 シンジ君はそれを見て一瞬で自体を察したようだけれど、シェリイは《ハイド》を使ったレイの存在など知るはずもなく、困惑した表情を見せる。


 しかし、シンジ君が続けて放った攻撃で我に返り、応戦する。


 レイは決してシンジ君に攻撃しようとはせず、シェリイに対して致命傷になりそうな銃撃だけ弾き返していく。あまりにあまりな戦闘の状況に、通りかかった人はすぐにその場を後にするほどだ。というか、いい迷惑でしかない。


 《デスペレイト》が三人も集まると、こんなことになるのか……。今度からは絶対にやめておこう。


 あたしがそう思いはじめたころ、やっと今回の目的、イオンがレダと共に現場に到着する。


『シェリイ! こいつは!』


『イオンさん! この人はこの前の大会で……』


 そこでシンジ君の銃撃が割って入り、会話を途絶えさせる。しかし、イオンはそれだけで状況を察したようだった。


 そこからは、レダとイオンも入り四対一。流石のシンジ君でも多勢に無勢だった。既に《シャドウショット》と《デュアルバレット》の効果も切れており、普通の人でも少しは対処でできる程度の銃撃しかできなくなっていた。


 そこからは、レイも精力的に動きは始める。


 あたしは、ソラに遠距離からの撮影を任せておいてよかったと心底思った。レイの今の動きでモニターを見ていたら、絶対に画面酔いを起こしそうな勢いなのだ。


 そしてシンジ君の暴走状態のせいで限りなく実戦に近い茶番劇は、そろそろ終幕を迎える。


 レイの力を持ってしても守りきれなかった(ように見せかけた)レダが、あたしと一緒にモニターを眺めている中でシェリイとイオンは協力してシンジ君のHPを徐々に削っていく。


 そして、シンジ君のHPが半分ぐらいになったところで絶好の機会が訪れる。


 イオンとシェリイの二人で、完全に挟み撃ちにすることに成功したのだ。シンジ君の前方には銃弾を弾き返せるシェリイがいて、シンジ君は一手を封じられている状態だ。


 しかし、その状況でもシンジ君は戸惑うことを知らない。《ラヴァ・ペイン》と《サファイア・バレット》を発動し、《アイシクル・ペイン》の大質量攻撃でシェリイを立ち往生させる算段を立てる。


 そこで、イオンがリミットブレイクスキルを発動する。


『《ドラゴン・ダイヴ》』


 イオンの姿が消え、大技の前兆が示される。シェリイはそれを察し、移動スキルを使って離脱をする。シンジ君もそれに習おうとしたが、絶妙なタイミングでレイが邪魔をした。


『《影縫い》』


 三秒間のみ移動を制限する暗殺者職のスキルだが、たった三秒間とはいえこんな状況では致命的な隙になる。レイはそうしてからすぐに離脱した。


 そして、上空から大鎌を振りかぶったイオンが出現し、思いっきりシンジ君に大鎌を叩きつける。大技の派手なエフェクトが広範囲に展開され、まるで爆発でも起こったかのような光景を生み出す。


『もう絶対にシェリイに付きまとうんじゃないぞ! 今度やったら許さないからな!』


 イオンの怒気のこもった台詞を聞きながら、その中心にいたシンジ君は当然HPをゼロにされ、光となって消えた。


 いやー、お見事。


 長時間の戦闘で気分的に疲れたのだろう。シェリイがその場にへたり込む。


『大丈夫か?』


 イオンがそんなシェリイを気遣って、手を差し伸べる。


『あ、はい……』


『まったくなんて奴だ。大会で負けたからってこんなところで報復するなんて……。でも、もう大丈夫だ。またなんかあったら、俺が守ってみせるよ』


イオンの手を取ったシェリイは、そんな台詞を聞いたせいでみるみる内に顔を紅潮させていく。


 うわー、やばい。この人めっちゃかっこいいじゃん。


 ギルドマスターとして相応しい人格の持ち主だ。でも、こんな台詞を聞いたらシェリイは違う方向で感情を昂ぶらせそうだ。


 というか、これでシンジ君は完全に悪役になったわね……。


 その時、モニターに映るシェリイの瞳が何か決意したかのような色を帯び、あたしとレダは息を呑む。


『イオンさん……私……』


『ん? どうした?』


『あの……』


 これは! 言うの! 言わないのっ!


『や、やっぱり何でもないですううう!』


 そして顔を真っ赤にしたシェリイは、脱兎のごとくその場から走って去って行った。


 その光景に、あたしとレダは同時にため息を吐く。まったく、分かりやすいというかなんというか……。


「そう簡単にはいかないものね……でも、イオンさんはこれで気づくかしら?」


「ちょっと分からないわ。イオンはいい人だけど、かなり鈍感だし」


 とはいえ、第一の作戦はほとんど成功と言っていい結果だった。





次回の投稿は六月二日の二十二時です。

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