『Arcadia online』
「なかなかいい腕してるじゃない。私をここまで本気にさせたのは、あなたで二人目よ」
「くっ・・・!」
「楽しかったわ、あなたと戦えて。止めを刺しちゃったのが残念なぐらいよ。
それじゃ、約束を守ってもらおうかしらね、これからあなたは私の部下よ。
大丈夫、多分悪いようにはしないわ。あの子たちは皆いい子だし、この仕事もきっと気に入るでしょう」
ようこそ。
俺の視界に広がるのは、二0五0年の技術力と比較しても未来都市と呼べるような街並みだ。水を使ったオブジェが随所に置かれ、地上にいながらもまるで海底にいるような感覚になる。
当然、この光景は現実のものではない。
『Arcadia online』
四年前に発売され、まだすべての機能が解放されていない比較的新しい部類に入る全感覚体感型、多人数同時参加型ロールプレイングゲーム、通称VRM・MMO・RPGの世界のものだ。
ゲームの世界に自らが入って冒険する。
どれほどの人々がそんな技術の登場を待ち望んだのだろう?
今から十年ほど前、そんな人々の夢を叶える技術が誕生した。
『Sense Commutation System』直訳すると、感覚代替システム。略してSCS。
機械の義手の技術に端を発したSCSは、体から脳への知覚刺激をコンピューターで創り出した仮想の知覚信号に置き換え、疑似的にバーチャル空間に身を置くことができるものだ。
簡単に言えば、体全ての部位を一時的に機械のものに置き換えるようなもので、本人の脳にとって生命維持に関わるような器官以外はその間だけ自分のものではなくなる。感覚器官からのシグナルをコンピューターの電気信号でマスキングし、感覚を消し去ってしまうからだ。それで脳本体は異世界にいると知覚する。
まあそんな難しい技術の話はどうでもいい。
重要なのは、この技術を使えばゲームの世界に疑似的に身を置くことができるということだ。それこそ、限りなく現実に近いバーチャル空間に。
このゲームの世界がどういうものなのか、簡単に説明しよう。
『Arcadia online』の世界、通称『アルカディア』には、『エデン』、『ヴァルハラ』、『クロノス』の三つの国が存在しており、それらが切磋琢磨しながら動いている。
ちなみに俺は『クロノス』に所属している双銃使い。ジョブ名レンジャーだ。
『Arcadia online』ではモンスターを倒していくことよりも、国同士で対決するような対人戦に重点が置かれており、月に一度ずつぐらい国対抗でのイベントがあったりする。それがこのMMOの醍醐味なのだが、楽しみ方は人それぞれだ。
人によって、店を出したり、小さなイベントを主催したりと、現実世界さながらの楽しみ方ができるのも、このMMOならではだ。
おっと、そろそろ時間だ。話はこれぐらいにして、そこのモニターに注目してくれ。
何が始まるのかって?知らないのか?
だったら見ていくといい。
これが、俺たちのアルカディアの楽しみ方なんだから。