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誕生日

深緑の5月。

どうにか4月の観光客シーズンを乗りきり、あともうひと踏ん張りのゴールデン・ウィークがやってきた。

店は相変わらずドタバタ続きだけれど。


あいつ…

「野村俊太」

の頑張りもあり、思ったよりも順調なペースで、なぜか売れ行きも去年より良かった。



病気で店を辞めてしまった三浦さんが、一時退院で店に顔を見せてくれた。


「本当に…ご迷惑をおかけしまして…」

病気でやつれた三浦さん。

なんだかとっても、年をとってしまったようだ。


「そんなぁ…謝らないといけないのは、私の方です。店の為に最後まで体壊してまで働いてもらった上に、お見舞いにも行けなくて…」

綾乃さんは、三浦さんの肩を支えながら言った。


私は知っている。

綾乃さんが、三浦さんにお金をこっそり振り込んでいる事を。


店が忙しく、見舞いに行けないから、せめてもの想いだろう…


「ゆりちゃん…」

三浦さんが私に気付いた。

こっそり見ていた私に。


「三浦さん!早く元気になって下さいね。そしたら私、三浦さんに、大福いっーぱい買ってプレゼントしますから。」


「ありがとう」



「ねぇねぇ朝井さん」

なれなれしく、野村が売り場に来た。

「なに?」

振り返らないで言った。


「何で怒ってんのぉ?」


「何がよ?」


「こないだからさらに怒ってない?」


「は???」


「別に、いいや〜!」



「良いなら聞かないでくれない?仕事の邪魔だからあっち行ってよ!」

内心焦った。

こないだから?それは、もしかして?

私は、中里先輩に想いがあることが、まるであいつに見透かされてるようで、ならなかった。


でも、紗英さんと中里先輩の前で、私は笑った。

笑えた…

そして、今は失恋の痛みもなぜかない。


むしろ、紗英さんが時より話す中里先輩とのデートの話が楽しかったりも。

これは、時間のおかげ?!

私は、自分の心が不思議でならなかった。



慌ただしくGWが終わるとともに、5月10日が来た。

あっという間の18歳バースデイ…。

今年も、彼氏はできなかった。


ひとりになるのは嫌だし、さっさと家に帰るのもなんだから、バイトを普通にいれた。

友達の千香子は、誕生日を覚えてくれていて、かわいいポーチをプレゼントにくれた。


私は、結構嬉しかった。


クラス変えしてから、あまり顔をあわせなかったからだ。

新しいクラスになって、数人仲良い友達は出来たが、あまり深い仲ではなかった。


うわべだけの関係ってやつかな?

騒いだり、楽しい時は一緒に楽しんだり。

そんな仲。

だからといって、嫌いなわけではない。

それは、私だけじゃなく、みんな、そう思っているだろう。

だから、別に誕生日も誰にも教えなかった。


数人の中の一人は、千香子とちょっと知り合いだったみたいで、わざわざ

「誕生日、おめでとう」

レターをくれた。

星野菜々というちょっと変わった子でしっかりしている。


そんなに仲良かったわけじゃないけど、嬉しかった。


学校が終わり、いつものように店に行く。

20時半頃になって、綾乃さんが

「今日、誕生日でしょ?もう上がって良いよ」

と言った。


「いえ、別に大丈夫ですよ」


「なに言ってるのぉ?お母さんが待ってるわよ」


「まぁ…そぅなんですけどぉ…」


「ほら。」


綾乃さんは、大きい箱を私に渡した。


「え〜!ありがとうございます!」

去年も、綾乃さんと実さんから、特製の和菓子ケーキを貰った。

まさか、今年もくれるとは………


「去年あんなに喜んでくれたから、今年も頑張っちゃった!」

綾乃さんは笑顔で言った。

「すっごい、嬉しいですよぉ〜!まさか今年も貰えるなんて…実さんにもお礼言わなくちゃ!」


誕生日なんて…

って、思ってたけど捨てたもんじゃないね。


綾乃さんの言葉に甘え、早く仕事を切り上げ、作業場へ向かった。


「実さぁーん?!」


「おぉ!おめでと!ゆりちゃん」


「ありがとうございます!もぅ〜超嬉しいプレゼントいただいちゃって」


「いやいや、いつもゆりちゃんには世話になってるし…さっ!早く家に帰ってあげな♪」


「はい」


綾乃さん 実さん

この二人の優しさで支えられている自分がいる。


だから、改めて

誕生日を実感出来た。


早々と着替えて店を出た。

少し歩いた所で、見覚えのある顔が原付を止めて、こっちに向かって歩いて来た。


「げっ」

私の顔を見るなり、そいつは発した。


「なによ」

こんな風に言うのは、あいつしかいない。

野村だ。


「あれ?こんな時間にどしたの?」

ちょっと気になった。


「店に忘れ物」

ちょっくら、いつもよりぶっきらぼうだ。


「あっそ」

そのまま、通りすぎることにした。

なんだか、ムカつく。


野村もそのまま通り過ぎた。


そして私は、振り返る。


野村は、普通に歩いていた。


いつもなら、ってか、店でならもっと話してくれるのに。


なぜか、そんな風に思った。

ん???

別に、あんなのと話したくないわよ。

何、思ってんだ?私。


良く分からない、感情があった。


誕生日。


私のこれからに、何が待ってるんだろう…?


帰り道の空を仰いだ。


今日の京都の空は、綺麗な星空だった。


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