思えば、この時だね…
紗英さんと中里先輩が付き合い始めて一ヶ月ぐらいした。
それまで私は、自分の想いを消しならが過ごした。
気晴らしに友達と遊びまくったり…
でも、一人になれば思い出す自分が嫌になった。
周りの友達は、クラスのカッコイイ男子を追い掛けるのに、私は新しい恋の気分にはなれなかった。
友達の千香子は、日々恋をしている
「ねぇねぇ〜あいつカッコイイよぉ!マジ惚れるし」
いつも私や友達に、その
「あいつ」
とやらの話をする
なんでも、
「腕」
に惚れるらしい。
私にはただのギャル男にしか見えない。
まぁ、そんなギャル男にも良い所はあるのだろう。
人、それぞれだもんねぇ。
どうも、みんなに着いていけない…
あ〜あ。
バイトのない放課後。
千香子と美奈とプリクラ取ったり、ショッピングしたり…
いつものように、ファミレスで食事をした。
「で、千香子はさぁ〜どうなの?あいつと。」
経験豊富な美奈が言った。
「う〜ん。あいつがさ、一緒にどっか行って一泊しないかってさぁ〜」
「え?もう?!」
ちょっとびっくりした感じで私は言った
「え〜良いじゃん!ラブラブして来なよぉ」
美奈は楽しそうに言う。
「でもさぁ…」
悩みながら嬉しそうな千香子。
「一生に一度なんだから」
美奈は言う。
「そうだけど…大丈夫なの?!」
二人に比べて私は変に心配した。
「ドキドキだけど…早く大人になりたいもん」
千香子はムキになっている
「焦るもんじゃないよ」
私は言った。
すると美奈が
「やりたい時にやれば良いのよ!いい加減な事いってるんじゃないよ!私だって!でもさぁ、したいんだったらすれば良いって話だよ!後悔しない前にさ。ゆりは、いつも保守的なことばっか言うけど、それの何処が面白いの?」
美奈が反抗するように私には言った。
「別に私は…」
何も言えなかった。
「違うよ。ゆりは、チカの為を思って言ってくれたんだよ」
千香子がフォローした。
「ごめん…」
美奈が誤った。
「うぅん…」
美奈に言われたことは、モロだった。
私は、これまで楽しい時あったかな?
どこかでいつも楽しいフリをしながら生きて来た気がする。
現に、先輩に想いを伝えられなかった事を後悔しているし。
帰宅すると、母は夕食の準備をしていた。
「ただいま〜」
「おかえり。ご飯食べる?」
台所から美味しそうな、麻婆豆腐の臭いがしてきた。
「ううん。食べてきたから」
母は、いつも元気。
そんな母を私はすごいと思った。
家計が苦しい時も笑顔で乗りきった。
私はと言えば、母の何処が似たのか、ネガティブな考えばかり。
二才下の妹もとびっきり、明るく、私は正直苦手だと思ったり…
父は単身赴任で韓国に行っていて、一ヶ月に一回は戻ってくる。
至って普通の四人家族。
初恋が終わって、ぼっーと過ごす毎日。
そんなある日
バイトでちょっとしたトラブルが起こった。
和菓子職人の叔父さんが一人、体調を崩し、あえなく辞めることになった。
「香月」
は、職人三人で和菓子を作っている。
女将の綾乃さんの旦那さん実さん。
実さんの弟子の桐生さん。そして今回辞めることになった叔父さん、三浦さん。
三浦さんは、いわゆるパートとして働いていて、
「香月」
の和菓子に惚れ込んで入った人。
大事な職人がいなくなってしまうと、大きな痛手だ。
早急に店の前に募集をかけた。
求人にも載せたいのだが、経営が苦しいせいもあり、載せられない。
当分は二人で作業することになる。
もちろん、私たちバイトも軽い作業は手伝うことに。
職人のバイトは、よほどの根性がないと続かないし、まして人気がないから、なかなか若いバイトは入って来ない。
実さんは、やる気と根性があれば年は関係ないと、店の募集ポスターに大きく書いた。
この店は、一応伝統ある老舗和菓子店。けれど、常連さんやお得意さんは、高齢者が多く若い人は値段が高いということもあり、あまり買わない。
私は、どうにか店を守りたくて、周りの友達づたいで聞いてみたが、みんなダメだった。
が、募集をかけてから一週間くらいして、私とタメくらいの男の子が店に面接にやって来た。
見る限り、チャラチャラしていて、ピアスが目立つ。
こんな人、受かるはずがないと思っていたら、予想外
なんと、受かってしまった。
どうして、雇ったのか実さんに聞いてみると…
「まぁ、根性ありそうだったからなぁ」
そんなぁ〜?!
わからない。あんな人の何処が根性あるんだぁ?!
翌日から、働き出した新人君。
まずは、掃除を教わっていた。
私は、作業の準備にとりかかろうとした。
すると勝手に自己紹介をしてきた
「あのぉ〜野村俊太っていうんだけど、よろしく」
タメ語だ。
仕方なく。
「朝井ゆり。よろしくお願いします」
ちょっと嫌みっぽく言った
すると軽く
「はい」
だって!益々嫌な感じ。
私は、なんだか知らないけど、態度からしてムカツクこの俊太が気に入らなかった。
バイト場では、紗英さんと変わらない関係で仲良くしていた。
たまに先輩の愚痴を聞いたりするけど、あまりその話題はなく、気楽に話していた。
「なんか、生意気っていうか、ムカつきません?あの野村って」
商品の和菓子を綺麗に包みながら、紗英さんと話す。
「そぅかなぁ?いいやつだと思うけど」
「え〜!!!」
「私は逆にそんなムキになってるゆりのが変だと思うけど」
「へっ?!」
我に返る。
野村の話をするだけで、熱が上がる自分。
「そんなムカツク事されたのぉ?!」
「だって、なんか人の事馬鹿にしたように見るし、一つ下の癖にタメ語だし、しゃしゃってますよ」
「そぅかなぁ?」
不思議そうな紗英さん。
「とにかく、嫌いです」
私は、共感してくれない紗英さんにも腹が立ち
「ちょっと、和菓子運んで来ます。」
そう言って作業場に向かった。
作業場で出来上がった和菓子に軽い手作業をして、しばらくした。
昨夜、遅くまで復習していたせいか、目がトロトロしてきた。
すると、いつの間に野村が居た。
物音にパッチリ目が開いた私は…
「あぁ…何か用ですか?」
聞いた。
「いえ、誰か居るなぁ〜と思って。てか、いつも眠そうですよね、朝井さんって」
「はっ??」
「いや、今も目が半開きになってたから」
「昨日遅かったからです。いつもは、眠くないわよ」
「え〜!ホントに?そのダルそうな感じ。いいなぁ〜そのキャラ。おもしろいなぁ」
「はっ???」
何言ってんだ?こいつ。
「じゃ、早くしないと、実さんがこっちに来ますよ!」
軽弾みに出ていった。
なんなんだ!あいつは?
ヘンテコでわからん。
私は、野村俊太の存在がとてもイライラした。
つかみどころのない、ワケわからないヤツ。
気にもならない時だった。それから、野村は、私を見るたびに、クスッと笑うようになった。
不愉快。
そのたびに私は、、、
「なんなのよ!」
そんなばっかり。
まともな会話ではなかった。
バイトに来るたびにズボンのポケットが裏返って飛び出していて、私は
「ダサっ」
と言った。
「ファッションだよ」
かっこつけて言っている。
「うわっ、最悪!」
そんな会話が増えるたびに紗英さんや綾乃さん、実さんまで
「二人、話してると面白い」
と言ってきた。
なんだかなぁ〜?
確に段々、私はこのリズムに吸い込まれ、慣れてしまったような気もする。
春はもう、目の前だった。






