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《4》あなたはなあに?

髪を梳く

───知らない

背を撫でる

───こんなの知らない

頬に触れる

───だって


こんなにも誰かが優しくしてくれたことって、一度もなかった。


だから、知るはずがなかった。





明るい。カーテンを引かない窓から容赦なく朝日が注ぎ、ノラの眠りを邪魔する。むずがる子供のように顔を背け抱き付いた何かにすり寄る。途端にその何かはくすぐったそうに身じろぎした。

「お嬢さん、朝だ。起きて」

聞き慣れない声が低く囁く。けれどどうにもこの納まりの良い場から離れがたくて、そのまま微睡みに身を委ねてしまいそうになる。

「お嬢さん、お嬢さん」

今度は、両肩を掴まられ、抱き付いていたものから引き離される。目は開いたが未だ夢現で、かくんと首がうなだれてしまう。そうしていると大きく手が頬に添えられ、優しく顔を持ち上げられた。

酷く近い距離に見知らぬ青年がいた。

「おはよう」

「・・・おはよう」

昨夜は黒だと思った髪と瞳が、朝日の下では鈍く金属の様な光沢を放っていた。

・・・そう、昨日。見知らぬと思ったのだが、この顔は昨日、見た。

覚醒するに従い、ぶわりと昨夜あったことが次々思い出されていく。退学危機、召喚、成功、狂喜乱舞、抱き・・・

「う、にゃああああぁぁッ!?」

そうだったそうだった目の前にいるこの青年こそが召喚術により現れた某かであった。同時に縋りついて泣きそのまま寝落ちたことまで思い出し、羞恥と混乱から絶叫と共に後ずさる。支えていた手を振り払う所か、密着していた体を思い切り突き飛ばしての行動だった。狭い室内のこと、直ぐに壁にぶち当たった。

ご、ごん、と石造りの壁に頭をぶつけ痛みにうずくまり悶える。ふと、音が2つであったことに気付いて恐る恐る顔を上げると、青年が後頭部を押さえ床に転がっていた。突然突き飛ばされ受け身も取れなかったようだ。

「あっ、ご、ごめん!」

「・・・いや、いい。若い娘に対してこっちも無作法だった」

ゆっくりとした動作で起き上がり、そちらこそ大丈夫なのかと聞かれ、ノラは慌てて頷く。

「そうか。所でもう気分は落ち着いたのか?」

「う、うん。えっと」

「もう、泣かない?」

「あ、はい。・・・昨日は、取り乱して、迷惑掛けて、ごめん、なさい」

ノラの謝罪に対して、青年はすっと目を細めただけで何も言わなかった。ただ居住まいを正し、空気を変えたのを見てノラも背筋を伸ばし相対する。

「では、改めて問おう。君が俺を喚んだのか?」

「−ええ、そうよ。私が貴方の召喚者」

言って、気分が再び高揚していくのが分かる。昨日のように舞い上がって叫ぶことは無いが、今度はしみじみとした実感が胸を満たしていく。

とうとうやった、ついに、−−−を召喚・・・。

「・・・」

「どうした?」

ぎしり、と固まったノラに怪訝そうな顔をする青年は、一見人間だった。というか、どこからどうしても人間で、人外である要素が見受けられない。

魔力は、感じる。細波一つ無い湖面を思わせるような酷く静かな魔力だ。そのお陰ですんなり受け入れて流していたが、これは並みレベルの魔力量ではない。

ノラは、簡単に召喚できる小妖精を喚んだ筈である。しかし、違う。小妖精ではない。彼らに人間に化けるだけの力はない。出来て精々、目眩ましの魔法で人の姿の幻を纏う位だろう。だが、彼は違う、確かな実体を持ってそこに存在している。

詰まるところ、ノラは自分が何を喚んでしまったのかが全く分からなかった。

「あ、の」

そしてその混乱の儘に、

「−−あ、なたは、何?」

本人に直接問いかけるという愚行を犯した。


チチュン、チチュンと小鳥が囀る爽やかな朝。正体不明の召喚獣は、自らを喚んだ魔術師のその一言に唖然とする他無かった。


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