優等生でも親友がほしい
自分で言うのもなんだが、ワタシは今日も優等生だ。
朝早くから登校し、今日も黒板や黒板消しを綺麗にするほか、机のズレを直したり、換気として窓を開けたり。
うん。やっぱり、やることが充実していて楽しいな。
いつも通り自分のクラスだけしか整頓できなかったけど、それでも人の役に立っているだろうから良しとしよう。
自分にしかできないことじゃないけど誰もやろうとしないことは、自分でやらないとだめだ。
それがワタシのモットーってほどでもないけど、自分ルールってとこだろうか。
そのルールがあるから、ワタシは人助けをし続ける。
「おはよう、橘井さん」
「ええ、おはよう」
そうしていると、ほかの生徒たちがやってくる。
……そっか、もうこんな時間か。
「じゃあ最後に、黒板消しをクリーナーにかけてくるかな」
「あっ、橘井さーん! 宿題のコツ教えて!」
「わかったわ。ちょっと待っててくれる?」
「うん!」
ワタシ、橘井優梨は生徒たちの模範となるように生きている。
完璧だとか、そんな言葉で片付けられるのは好きじゃない。
それは、理想の自分にまだ追いついていないからだ。
「ワタシがあと三人いればなぁ……」
なんてバカなことを考えることもあるが、一人じゃできないことがあるのも事実。
それでも人は頑張るものだ。
一人でできることというのは限られているのだから。
だからこそ、他人に頼られるとちょっと嬉しい。
そんなこんなで、今日も一日を終え、下校する。
別に居残りしてもいいんだけど、みんなに良いように思われたいんじゃない。
ワタシはワタシらしさを曲げたくないだけだ。
そんなくだらないことを考えながら歩いていると、コンビニからベージュの髪色の子が出てくるのに気がつく。
もしかしたら……と思い、声をかけてみる。
「あの……」
「なんだよ?」
ベージュのウルフの子……ってことは、おそらく……
「速見美空さん、かしら?」
「あ? そうだけど?」
たまにだけど、うわさをよく聞いていた。
「ベージュのショートウルフで、たしか不登校。理由はわからないけど、入学してから一週間くらいで来なく……」
「お説教か? よそでやれよ。アタシは学校が窮屈なだけだ」
「そうなの……? よかった、ちゃんと理由があって。それならなんとかできるから!」
「はぁ……」
「ワタシの名前は橘井優梨。帰宅部よ」
「くっ……! はっはっは! お前おもしれーな」
「な、なにが!?」
「いや、急に工藤新一かっつー感じで自己紹介したもんだから……」
「た、たまたまだし!?」
狙っていなかったのに、そう言われると狙ったみたいになって、少し恥ずかしくなる。
「じゃあアタシにちょっと付き合ってくれ。帰宅部なんだし、大丈夫だろ? それに、アンタはクソ真面目だ。説得してるとか、そういうていで関われば、学校側から見てもセーフだろ」
「うん、わかった……」
なんだか気を遣われてしまい、ちょっと申し訳ない気分になる。
「じゃ、ウチ来いよ。別に、アタシの私生活を見てほしいだけだから。まあ、もう夕方だけど」
「いいわよ! どうしてもって言うのなら行ってあげる!」
「新手のツンデレかよ……」
こうして、速見美空さんの家へと向かう。
「おいユウリ、お前今日からユウリな」
「じゃあワタシはミソラちゃんって呼ぶわね! それにしても……」
「……なんだよ?」
「小学校以来だわ、友達の家に行くのは! 中学からはみんな遊んでばかりで、真面目にならざるを得なかったから……!」
「そうかい。ほれ、着いたぞ」
ミソラちゃんの家に着くと、そこは普通の一軒家だった。
「お、おじゃまします……」
「いや、両親は共働きでいねーから……変に気ぃ遣わなくていいぞ?」
「わかったわ。それで、ミソラちゃんの部屋は?」
「二階にある」
「そっか」
少しドキドキするワタシ。
だってこういうのって、部屋が汚い場合が多いから。
「じゃ、開けるぞ?」
「うん……!」
そうして開けられた部屋は少し広く、ベッド、机、テーブル、テレビにゲーム機と、ものすごく几帳面に整理されていた。
縦向きに置かれたベッド、ベッドの隙間を埋めるように置かれた机。
テレビとゲーム機も、しっかりとしたバランスで整頓されていて、感心してしまうほどだ。
「アナタA型?」
「……調べたことねーな。つーかお前、血液型占い信じてるのかよ」
「だって、そういうジンクスが人を動かす原動力になりうるのよ? そう考えたら別に……」
「だったらおめーは何型だ?」
「もちろんA型よ! それより、いくつゲーム持ってるの?」
「プレステ、スイッチ、DS……とりあえず、たくさんだな」
「ふーん。ワタシは人がプレイしてるのを見てるのが好きなタイプだから、じゃんじゃんやっちゃって?」
「変わったヤツだな……。じゃあ、FPSやるか!」
「おおっ! なんかスゴそうね」
そうして、二人してベッドに座り、テレビに向き合った。
「見とけよ?」
「うん……」
それから十数分後、ミソラちゃんの操作しているキャラが撃たれる。
ワタシは驚いてミソラちゃんに抱きついた。
「ぎゃあああ!! 画面が一瞬真っ赤に!」
「うるせぇよ! 一発しか撃たれてないのにギャーギャー騒ぐな!」
「でも、もし痛覚連動システムとかあったら……」
「そんなの普通は販売できねーから! 黙って見てろよ?」
「うん……」
その後も何度も危ない場面はあったが、なんとか一位?を取ったようだ。
「よかったね」
「こんなの、いつも通りだけどな。つーかユウリ、お前うるさい」
「……だって、ゲーム見たの五年ぶりくらいだったし」
「そうか。じゃあ、ピクミンでもやるか? それなら安全だろ」
「おおっ、あの化け物を化け物で倒すゲームね!」
「そうだけど、言い方なんとかしろ」
こうして、ミソラちゃんは頑張って怪物を倒して、お宝集めをする。
「あっ、こういうゲームなんだ……」
「ま、ピクミンは宝を集めるだけのゲームだな。そんで、それまでのドラマを楽しむゲームだ」
「なるほど……ドラマね。なら、いまは月曜九時のドラマがオススメかな」
「何の話だよ。……なんつーか、おめーがおもしれーから、明日は学校行こうか悩むな……」
「ホントに!?」
「ただし、つまんなくなったらすぐ帰るからな」
「いいよ? それじゃあ、ミソラちゃんが来てなかった日からいままでのノートを全教科まとめるから、今日は帰るね!」
「お、おう……」
こうして、ミソラちゃんを復学させるためにも、頑張ることにした。
翌日、いつも通り教室を整頓しながらミソラちゃんを待つ。
「昨日は楽しかったけど、来てくれるかな……?」
そんなことを考えつつ、昨日まとめたノートを確認する。
「よし、全教科持ってきてる」
そんなことをしていると、ガラガラッとドアが開く音がしたので、振り向くとミソラちゃんがいた。
「おいおい、早いな……」
「アナタの方が早いと思うけど……それより、勉強教えてあげるね!」
「おう……」
そしてミソラちゃんに国語から丁寧に教える……つもりだったけど、ミソラちゃんは突然アプリゲームをやり始める。
「こら!」
「だって面倒くせぇし。おめーもやるか?」
「ふ、ふん! 五分だけだからね! それで、それなんて名前?」
「はっはっは! やっぱおもしれーな、お前!」
こうして、アプリゲームをしていると、本来の目的を思い出す。
「って、もう五分経ってるじゃない! ほら、やるわよ!」
「へいへい……。昨日はFPSにビビってたくせに……」
「あれは画面がリアルで驚いたの!」
「そーかい。じつはな、FPSのゲームはスマホでもできるんだよ。見るか?」
「……アナタ、なんのために学校来たの?」
「おめーに会いに」
ワタシはついつい心が動いてしまいそうになる。
「そ、そう! なら、いろんなワタシを見なさいよ!」
「わかったよ。……勉強教えてください、優等生さま」
「うんうん、わかればいいのよ」
気を取り直して、ワタシは勉強を教えてあげる。
すると、案外覚えが早くて、少しびっくりする。
「ミソラちゃん、意外に賢いんだね……!」
「意外は余計だが、そうだな!」
「なんかコツとかあるの?」
「勉強はやっぱり覚え方だな。自分が覚えやすい語呂や語感を反復させりゃあいいんだ」
「理屈は分かるけど、ちょっと独特だね……」
でも、理にかなってるというか、ミソラちゃんらしいと思ってしまう。
「それより、優等生さまはどうなんだ?」
「え? ワタシは上の方かな……」
「順位言えよ。模試とかやってねーの?」
「えーと、中三のときは全国で九位だったかな……」
「……自慢かよ」
「だから言いたくなかったの!」
「悪い悪い……。それとユウリ! アタシ人見知りだから、サポート頼むわ」
「え?」
そんな会話をしていると、クラスメイトがぞろぞろとやってくる。
「こええええぇぇ!!!」
「お、おお、落ち着いて! 人の字を左手で書いて飲み込むのよ!」
「おめーが落ち着け。左手にだろ普通」
そんなことを喋っていると、ミソラちゃんにどんどん人が集まる。
そして、さまざまな質問が飛びかう中、ミソラちゃんはワタシに助け舟を出した。
「助けてくれ、優等生さま!」
「わ、わかった」
そうだ。ミソラちゃんはいまワタシしか友達がいない。
だから、ワタシが守ってあげなくっちゃ!
「ミ……みんな! 速見さんは学校に来る勇気を出してくれたけど、人が多いのにまだ慣れていないの。だから、ワタシ以外には慣れてないから、気を遣ってもらえたら嬉しいな……なんて」
そう言うと、みんなが遠慮する空気になるが、ここで大きな爆弾が投下される。
「あのさ、なんで橘井さんが仕切るわけ?」
そんな棘のある言い方のクラスメイトに、ミソラちゃんは言い返した。
「ユウリはアタシを学校に来るきっかけを作ってくれたからだよ。文句あるやつは……」
「ミソラちゃん、人を傷つけるのはゲームの中にしてほしいな」
「あ? おめーを庇ってんだろうが。優等生は態度まで優等生か?」
「……ワタシ、人を傷つける人は嫌いだから」
ワタシは少し不機嫌な声で忠告する。
「…………そうかよ。おめーの顔なんて見たくもねーわ。……アタシ、帰るから」
「……勝手にすれば?」
「おう、勝手にする!」
こうして、ミソラちゃんは帰って行く。
それからの教室は、いつもと違って静まり返っていた。
ワタシはみんなの会話中も上の空で、適当な返答しかできなかった。
だから、
「ごめん。今日はあまり話しかけないで……」
と言っておいた。
こうなってしまったのも、全部ワタシのせいだ。
ミソラちゃんはワタシを守ろうとしてくれたのに……。
「謝ろう。帰りたいけど、早退はまずいよなぁ……」
そう思って、ワタシはミソラちゃんのことを考えつつ授業を受ける。
だけど、
「橘井! 橘井ー?」
「は、はいっ!?」
「いや、しっかりしろー? で、ここはどう答える?」
「えーと……」
なんだ、復習問題か。
ここなら昨日ミソラちゃんのためにやったから覚えてるもんね。
ワタシは普通に問題を解いてみせる。
でも、だめだな……。
考えたくもないのに、ついついミソラちゃんのことを考えてしまう。
「はい、正解。橘井、しっかり解けるからって、集中してくれないと周りに示しがつかないから……」
「はい、わかってます……」
「じゃあ戻っていいぞ。それで、次の問題は……」
……そうだ。ワタシは見本にならなくちゃいけないんだ。
それはワタシにしかできないことなんだから。
そう考えていると、周りのみんなが話しかけてくる。
「速見さん、どうしてるかな?」
「えっ!?」
「……って顔してるよ。橘井さんも、たまには自分らしさを出してもいいんじゃない?」
「そうだよ。優等生だからって、溜め込んでたらストレスでバカになるかもしれないしな」
「それは言いすぎだけど、ありがとう。でも、あと数十分だから、頑張るね。ありがとう、みんな」
そうだ、あと一時間弱で会えるんだ。
そう考えたら、少しだけ気持ちが楽になった。
そして放課後、ワタシはミソラちゃんの家へと向かう。
「ミソラちゃん、家に帰ってるかな?」
それだけが不安だったが、杞憂に終わる。
「よう、ユウリ。ツラ見せんなっつっても、やっぱ心配しちまうな……。多分、おめーの性格が移っちまったのかもな! ……てか、もう放課後なのか」
なんと、ミソラちゃんの家に向かっている途中で鉢合わせてしまう。
どうやら買い食いをしているところに、ワタシがたまたま通りかかったようだ。
「また悪いことして!」
「え? 家には一回帰ったし、買い食いくらい良いだろ? 優等生さんよ」
「まあそのことはいいや。その前に一言だけいいかな?」
「……いや、聞かねーぞ」
「あの……」
「あばよ。また今度会おうぜ。じゃあな」
少し寂しそうに言うミソラちゃん。
そんな彼女の言葉に、ついつい涙目になってしまう。
……いや、ここはしっかり気持ちを伝えなくちゃ!
「喧嘩してごめんなさい! キツく当たってごめんなさい! ミソラちゃんのことを守るのに必死で、ミソラちゃん自身の気持ちを考えてなくてごめんなさい!」
「一言じゃねーじゃん」
「あ……ごめん」
なんか、謝ってばかりだな……。
そう思っていると、ミソラちゃんも同じことを言う。
「おめーは謝ってばっかだな! 別にいいけど。ユウリらしいしな」
「そっか……それで、許してくれる?」
「あのよ、これで許さなかったら、アタシが超嫌なヤツみてーじゃん!」
「あ、たしかに……。ってことは?」
「あー……許してやるよ」
「ありがとう!」
満面の笑みを浮かべると、ミソラちゃんは少し照れたような顔をする。
「ふん……」
「……あの、どうかした?」
「いや、なんでもねーよ」
「そっか。それより、連絡先交換しない?」
「いいぞ? なんか、今更感半端ねーな」
というわけで、連絡先を交換するワタシたち。
「よし、これでアタシたちはダチだな!」
「うん!」
「アタシはおめーのことを嫌いにはなんねーから、安心しろよ? 親友」
「うん! じゃあ、明日も学校来てね!」
「わかった。その代わり、喧嘩させるなよ?」
「それはミソラちゃん次第だけどね」
「……だな。あと、アタシは喧嘩は強くねーからしないっつーの。今日のやつは、脅すつもりだっただけだしな」
それはそれで問題だと思うけど……。
「なら脅しもだめ! わかった?」
ワタシはミソラちゃんに顔を近づけて注意する。
「……わかったよ。それより、どんなゲームしてるのが見たい?」
「ミソラちゃんがゲームしてるところ!」
「そ、そうか……」
その後、ミソラちゃんがそっぽを向いたので、ワタシはこう言ってみる。
「ワタシ、高校で親友って存在がいなかったから、ミソラちゃんが親友で嬉しいな!」
「そうかよ」
こうして、今日もミソラちゃんの家でゲームの見学をする。
ワタシはゲームをするミソラちゃんが好きだから、これからが楽しみだ。
そう考えながら、今日もミソラちゃんの家へと向かうワタシたちだった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
百合っぽくなりましたが、あくまでもロマンシスです。
この二人はもっと話を広げられそうなので、反応があれば続くかもしれません。




