こころのままに進もう ~自分の心にすなおに従い、私は自国の王太子妃の座を捨てました~
読んでいただきありがとうございます。
「これで手続きは滞りなく」
「いままでご寵愛を賜り本当にありがとうございました」
「いや残念で仕方ないよ」
「すべては、レオンの不徳です」
侯爵令嬢である私 アネラ・サルファは、本日正当な手続きを経て、第一王子の婚約者を辞する事となりました。
父であるサルファ侯爵と共に、国王陛下 王妃陛下への最後の挨拶を終える。
レオン殿下と私の婚約が結ばれたのはお互い10歳の時、切磋琢磨し良い国を作るために二人で頑張ってまいりました。
レオン殿下をずっとお慕いしておりましたから、レオン殿下の不貞を知った時は心が張り裂け壊れそうでした。
国のため自分が我慢すればいいと考えたこともあります。
思い返してみればこの8年間は、婚約者として、国母となるために、完ぺきな淑女として!そんなことばかり考え自分を殺して生きていたのかもしれません。
ある朝、良く晴れた空と庭の美しい花がゆがんで見えた時、このままでは私の心も体も腐ってしまう。
そう思ったらレオン殿下への思いも急激に冷め、不貞相手のガルシア伯爵令嬢メイジ-様へのもやもやもイライラも消えていきました。
私の心には新しく、誰かのためでなく自分のために学びたい!そんな新しい気持ちが芽生え、芽生えた気持ちをそのまま父に伝えるため背筋を伸ばし父の執務室をノックした。
本来は王族に対し私から婚約破棄など申し出るのは難しいのだが、不貞による破棄の申し立ては双方行える契約にしてあり。
まあ両親たちは、このような契約があっても王家にも侯爵家にも影が存在することを知っていて、そのような事はありえないと考えていたようですが……。
国王陛下と王妃様には、何度か婚約の継続を説得されましたが私の気持ちは変わりません。私は婚約廃棄の手続きを進めるとともに、隣国に嫁いだおばさまを頼り学びなおすことを決めました。
誰かのためでなく、自分のために学びたいのです。
隣国では貴族学院を出た後も学びを深めることが出来る、最高学府であるアカデミーに進学する道があります。
貴族学院の単位をすべてこなし卒業資格を得て隣国のアカデミー試験を受け。
それからの毎日は忙しいけれど、とても充実した日々をおくり卒業を一月後に控えた今日!
ついに私は自由を獲得したのです。
「アネラ。本当に卒業式には出なくていいのかい?」
「はい。お父様、わたしはこのまま ヴィクトリアおばさまの元に向かいます。胸がドキドキしていますわ」
父の悲しそうな瞳と目が合う。
「そうか。苦しい思いをさせていたんだね。アネラのそんなキラキラした笑顔を見るのは何年ぶりだろう、私達家族はいつでもアネラの幸せを祈っている」
そういってお父様は私を抱きしめた。
暖かで安心する匂い。
「お父様。私のために力を尽くしてくれてありがとう。そして迷惑をかけてごめんなさい」
レオン殿下の不貞が原因の婚約破棄とはいえ、心無い事を言うものもいるだろう。
私は隣国に行ってしまうが、家族はこの国で生きていくのだ。
「気にすることはない、私達夫婦の力を甘く見てもらっては困るよ」
「そうですわね」
もう一度父を見上げ、笑ったのに涙がこぼれた。
「いいね。表情のあるアネラは素敵だ。寂しくなるが、時々は顔を見せに来ておくれ」
「はい。お父様」
さよなら私の愛したブロア国。
そして私はヴィクトリアおばさまの元に向かった。
✿ ✿ ✿
隣国へは馬車で二日、叔母は母の妹でライド公爵家に嫁いでいる。今回の申し入れも快く受けていただき、大きな敷地の中に別棟がいくつもあるから好きに使っていいと言われ、公爵家は器の大きさが違うと感心した。
「お嬢様、もう少しで着きますよ。ララはちゃんと準備ができたかしら?」
「メル。こんな遠くまでついて来てくれてありがとう」
「お嬢様、もったいないお言葉です。本当は私もこのままお嬢様のそばに残りたいくらいなんです。ララがうらやましい」
そういいながらメルが窓の外を見る。
「あ~。ララが手を振っていますよ~。
あれ隣はライド公爵夫人と誰でしょう。男性の方がいますよ」
「ライド公爵のルイスお兄さまかしら?」
私も窓から外を覗いてみる。
!!
「あれは、アドニス王太子殿下に見えるけれど……。」
期間留学で3か月ほど学院にいらしていたことがあるアドニス殿下は、学年が一つ上で教室が違ったけれど、レオン殿下と共にご挨拶させていただいたから間違いないはず。
一国の王子がなぜ?
馬車が止まり。ドアが開くとそこには、手を差し出すアドニス王太子殿下が笑顔でたっている。
驚きを隠しきれず固まっていると。
「アネラ嬢。 私のエスコートを受けていただけますか?」
私は無意識にアドニス王太子殿下の手に自分の手を重ねる。
重ねた手は直ぐに引き寄せられ、私は殿下の横にすっぽり収まった。
「あら。お似合いね」
「ヴィクトリアおばさま」
どうしていいのかわからずおばさまを見つめる。
「まあ。話はお茶でも飲みながらしましょう。こっちよ」
ヴィクトリアおばさまは、本館と渡り廊下でつながった別棟に案内してくれる。
もちろんアドニス王太子殿下は私をエスコートしたまま、ニコニコしている。
「あの。アドニス王太子殿下にお眼にかかれて光栄です。馬車のドアが開いてすぐにお顔を拝見し驚いてしまい。挨拶が遅れましたこと、お詫び申し上げます」
「今日君が来ると伯父から聞いてね。待ちきれなくて迎えに来たんだ」
「ライド公爵様から……。」
「来月からアカデミーに通うんだろ?」
「はい。楽しみです」
思わず軽い口調で答えてしまい、慌てて口元に手を当てる。
「気にしなくていいよ。私達は血のつながりは無いが親戚だ。気楽に話してくれると嬉しい。
それに私もアカデミーの院生なんだ、ブラウン教授に地理学とホワイト教授に畜産学を学んでいる」
「まあ。地理学と畜産学ですか、私も畜産学は専攻させていただきたいと思っております」
「そうなんだ!では一緒に学べるね」
「楽しそうなところ悪いけど、私達とのお茶に付き合ってくれるかしら?」
気がつけば、別棟のサンルームに着いており、そこにはライド公爵閣下と嫡男のルイス様、ルイス様の婚約者のソフィー様が待っていた。
「やあ。アネラ、長旅ご苦労様。疲れてないかい?」
「ライド公爵閣下、この度はわたくしのわがままを聞き入れて下さりありがとうございます。その上このようなお屋敷まで準備していただき感謝します」
「いやいや本当はかわいい姪を本邸に招きたいところだけれど、ちょうどルイスの婚姻の準備などが重なってしまい。すまないね」
「アネラ。僕の都合で不便をかけてごめんね」
「ルイス兄さま、不便などありません。私こそ忙しい時に押しかけてしまいすみません」
「アネラ様、初めまして。私ルイス様の婚約者でキシル公爵家が長子ソフィーと申します。私には妹がいないから、アネラ様が来てくれて嬉しいわ。
こちらに一緒に座りましょ~」
ソフィー様はニコニコ笑い、アドニス殿下から私の手を奪うとルイス様の隣に一緒に座った。
「アドルフ様。 私のかわいい妹のアネラは簡単にはお渡ししませんからね!」
ソフィー様はそういって頬を膨らませた。
なんて表情豊かでかわいらしい人。
「ふふふ。アネラを取られてしまったわね~。アドニス」
そういってヴィクトリアおばさまは私達の向かいに腰を下ろした。
「アネラ驚いたでしょ。ガルシア王国では、淑女らしくとか窮屈な事は言わないのよ、まあ公式な場でのマナーは必要だけど、気の知れた中であれば気持ちは隠さなくていいのよ。
辛い目にあったけど、ここからはアネラの心のままに進んでいいの、私達はどんな道を選ぶアネラでも全力で応援するわ」
ヴィクトリアおばさまの、あたたかなまなざしと言葉に、こらえきれず涙がこぼれる。
涙をみたソフィー様は私を強く抱きしめた。
「モー。可愛すぎるんだから」
ずっとひとり立ったままのアドニスをヴィクトリアおばさまが見上げる。
「さあ。アドニスもいつまでたっているの。好きな所に座りなさい」
アドニス殿下は、ささっと私の隣に座りソファーは4人でギュウギュウになる。
それを見てライド公爵が声を上げて笑い。ヴィクトリアおばさまの眉間にしわが寄る。
その日いただいたお茶は、飲みなれた茶葉のはずなのに、いつもより香り高く美味しかった。
✿ ✿ ✿
それから私の毎日は、ルイスお兄様の結婚式やアカデミーでの新しい生活を全力で楽しむ。
楽しい時間は瞬く間に過ぎ、私がガルシア王国に来てすでに一年が経とうとしていた。
その日は、春の柔らかな空が広がる公爵家の庭園で、私はひとりガゼホのベンチに座り本を読む優雅な時間を過ごしていた。
突然の風に栞が飛ばされ、その先に目を移すと。両手いっぱいの白いバラの花束を抱えたアドニス様が私の方へずんずん近づいて来る。
思わず立ち上がり私の手から本が滑り落ち、私達の間に春の穏やかな風が通り抜けた。
「アネラ!」
「はい」
思った以上に大きなアドニス様の声に私も大きな声で返事をする。
「ブロア王国の貴族学院でアネラを見た瞬間、あなたに心を奪われました。
それから私の気持ちは揺らぐことも薄れることもありません。
一生かけてあなたを守ります。どうか私と結婚してください」
私は心のままに進むことを決めたんだ。不安がないわけでは無いけれど……。
「私もアドニス様のこと一生をかけてお守りします。隣にいさせてください」
返事と共にアドニス様は私に渡すはずの花束を空高く投げ上げて、私をギュウギュウ抱きしめる。
「もう。絶対に離さない」
「アドニス!私のアネラからはなれなさーーーーい」
「アネラが潰れてしまうわよ~」
声のする方に眼を向けると、公爵閣下、ヴィクトリアおばさまは、ルイス兄さま
ソフィー姉さま、ララなどなどたくさんの人にプロポーズは見守られていた。
耳まで赤くなる私の頬にアドニス様がキスをする。
真っ赤なままみんなの所に戻ると、すべてが準備されており、私はライド公爵家の養女となってアドニス王太子殿下の婚約者となることが、私のサインをするだけまでに整えられていた。
「アネラの返事次第で、私がすべて書類を破り捨てる準備っをしてたのよ~」
ヴィクトリアおばさまは、ニコニコ笑ってそう話す。
「この引っ付いてはなれない~。トリモチみたいなアドニスが嫌いになったらいつでも破棄できるように準備しておくからね~」言いながらソフィー姉さまはアドニス様を私から剥がそうとするが、アドニス様はびくともしない。
「こら。ソフィーおなかの赤ちゃんがビックリするから落ち着いて」
みんなの顔が笑顔になる。
穏やかで素敵な家族に囲まれて、私は今とても幸せ。
✿ ✿ ✿
レオン 視点
今日はブロア国の王太子である、セオドア第二王子の結婚式。
結婚式のあと盛大なパレードが行われ、国民みんなに祝福されていた。
もうすぐ各国の来賓も招いてのお披露目の夜会が始まる。
俺は、一代限りの辺境の公爵として王兄となる者として一人での出席。
アネラと話せるだろうか?
あの頃、全く何もわかっていなかった俺は学院を卒業したらアネラを正妃に、メイジ-を側妃にするつもりでいた。それですべてうまくいくと思っていた。
卒業が間近になるとアネラの姿が見えなくなったことに気がついたが、バカな俺はメイジ-に嫉妬して嫌がらせでもしているのだろうと簡単に考えていた。
どうしていないのかは卒業式の後、父上に呼び出され自分への処分と共に聞くことになった。俺が王族ではなくなり、王都を離れ一代限りの公爵となる事がわかるとメイジ-は直ぐにヒステリーを起こし俺を見限り去って行った。
そのあと俺のような立場の者に嫁いでくれる人は誰もいない。
どうして俺は、ちゃんと見えていなかったんだろう。
自分の事もアネラのことも。
一時の快楽におぼれ、周りも全く見えていなかった。
なぜあの時、すべてが自分の心のままになると信じて疑う事もなかったのか。
披露パーティーが始まり、多くの貴族が会場にあふれ、来賓の王族達も次々に入場する。
ガルシア国のアドニス王太子殿下にエスコートされ、優雅に歩くアネラの笑顔は輝いていた。
セオドア達が二人を迎え入れている。
「まあ。アネラ様じゃない?」
「隣国のアドレス王太子殿下と婚約されたのよね~」
「お似合いだし、素敵なお二人ね~」
「わぁ~。見つめ合ってあの笑顔よ~。幸せそうで安心したわ~」
会場の令嬢達がざわめく。
もう一度俺もアネラと話したい。
少し近づくと4人の話し声が聞こえた。
「セオドア殿下。お眼にかかれて光栄です
本日はおめでとうございます。」
「アネラ様。お久しぶりです私こそお眼にかかれてうれしいです」
差し出されたセオドア殿下の手の前にアドニス殿下が割って入る。
「セオドア殿下。私達も3か月後に式を挙げる予定です。是非お二人に出席していただきたい」
「まあ。もちろん伺いますわ、アネラお姉さまのウエディングドレス楽しみです」
「リーネ様、アネラは私の婚約者ですよ」
「あら。すみませんアドニス殿下。以前は姉妹の様に王宮で共に学んでいたもので。でもアネラ様がすごく愛されていて安心しましたわ」
「もう。アドルフ様ったら」
そう言って拗ねたように笑うアネラはかわいかった。
俺のそばで……。
思わず声をかけようと手を伸ばした俺の肩が掴まれた。
「これ以上、あなたがアネラ様に近づくことは許されません」
王家の影か、侯爵家の影か……。
俺はもう近づくことも叶わない。肩の手を払いのけ俺は会場を後にした。
✿ ✿ ✿
三か月後。
教会の鐘が鳴る。
「アネラお姉さま~。世界で一番ウエディングドレスが似合います~」
リーネ様が手を振りセオドア殿下とやってくる。
「アネラ~。きれいよ~。赤ちゃんもお腹蹴って祝福してるわ~」
「もう。ソフィー無理しちゃだめだよ」
お兄様夫婦も。
「「うう……。」」
「「もうあなた!しっかりして」」
私の4人に増えたお父様とお母様も。
そして新しいお父様とお母様。
「さあさあ席についていただかないと式が始まりませんよ~」
神父様がため息をつく。
みんながしぶしぶと移動するのを見て、アドニス様と見つめ合い笑ってキスをした。
自国の王太子妃の座を捨てた私は、暖かな家族に囲まれて。
隣国の王太子妃になりました。
~ 終わり ~
誤字脱字などいつもありがとうございます。
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