表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

チョコレートと弟

作者: 杉 一雄

 甘いもの好きな小学校一年生の女子が体験した超短編小説です。

短編小説 チョコレートと弟   著作  杉一雄


福岡市に住む彩美が、小学一年生の夏休み前のことである。

甘いもの好きな彩美は、毎日おやつに飢えていた。

母の絹子は金銭的にきびしいしまり屋であった。


二人姉妹の姉美佳と彩美は、学校から帰ると、母がテーブルに用意

しておいた、おやつを食べるのが何よりの楽しみな姉妹であった。

しかしながらおやつは毎日毎日、耳パンであった。

母絹子が週に三度、買物に行くスーパーの軒先を借りている馴染みのパン屋から、自宅の子犬のおやつに上げるという理由でもって、

もらってくる耳パンであった。

それを料理が上手な母絹子が、バターを着けて美味しく味付けし、

フライパンで焼いた。

彩美と美佳は、それに少しだけ苺ジャムを塗って食べていた。

学校で仲良しの朋世は、家に帰るといつも母が、作ってくれる手作りのパンケーキを食べていると、彩美に自慢した。

彩美は母の手作りのパンケーキを、腹一杯食べ過ぎて、お腹を

こわしている夢をよく見ていた。


 母は彩美たちを家に置いて、昼から夕方までパートに出て働いていた。

小学校の四年生ながら姉の美佳は、いつも母がテーブルに置いている夕飯の材料とレシピを書いたノートを見ながら夕飯を造った。

彩美は、姉美佳の造る料理を側でみながら育って行った。


大昔、母の絹子の生まれた家は小さな借家であった。

母絹子が中学生の時、その小さな借家から突然に追い出された。

理由は、大家の娘夫婦が、東京から帰郷するというという、大家の

勝手な理不尽な都合であった。


そして現在、父と結婚し、会社の社宅に住んでいる母絹子は、

「絶対に自分の持ち家を建てる」と生きこむ女性である。

 母絹子は、子供のころ虫歯が一本もなかったと娘たちによく自慢した。小さいころ貧しかった母絹子は、おやつを食したことがなかったと

彩美たちに告げていた。ましてや、ケーキやチョコレートなどの甘い

菓子を買ってもらったことは、一度もないと告げた。それゆえに、

虫歯が無い健康優良児に選ばれた自慢げに語った。

そのような自分が経験して来たことを、自分の子供らにも善いこと

だとして、彩美らに甘いものを決して与えなかった。


 彩美は、朋子が学校の昼休みに話してくれる昨日のおやつの話しに、嫉妬を感じ、その夜、いつも夢で明美と同じおやつを食べていた。

 

 ある日、姉の美佳が、学校の特別行事の委員を務めることになり、

いつまでも家に帰ってこなかった。

彩美は、父と母が時々、夜に甘い音を立てなにか話しているのを

聞いていた。その時にはいつもは怖い母が、とても上機嫌で父と話し、

嬉しいそうな声であった。その声音は、子供心に美味しいチョコレートを二人で密かに食べているに違いないと想像して眠りについた。


姉の美佳が居ないことを幸いに、母が居ないすきに、父母が隠れて

食べている甘いチョコレートをむしょうに食べたくなった。

彩美は、忍び足で父と母の寝室に入って行った。

母絹子が、チョコレートを隠しそうな小さな引き出しを静かに開けた。

そこには父のハンケチが、きれいに折りたたんでしまってあった。

「おかしいな。きっと何処かに甘いチョコレートが隠してあるはず」と、彩美はつぶやきながら、必至に数枚のハンケチをめくった。

そしてハンケチの一番下に、不思議な模様の入ったビニール袋を

発見し、彩美は喜びに勇んだ。

そのビニール袋を、彩美は大人向けのチョコレートに間違いないと

思った。

「遂にチョコレート見つけた」と叫ぶ彩美。

彩美は、姉美佳が帰ってくるとまずいので、袋も開けずに急いで

袋の上から咬んでみた。しかし、それは甘くもなく、美味しいものでもなく変な味がするものであった。彩美は悔しくて涙を流した。

そして、そのビニール袋を、母絹子に判らないように、また元の場所に戻して、また別な箇所を探した。しかし、とうとう甘いチョコレートは発見出来なかった。


 時が過ぎて、彩美は高校一年生になっていた。

ボーイフレンドも居る歳となった。

ボーイフレンドのマサルがある日曜日、彩美を映画に誘った。

二人で映画を見た後、コーヒーを飲みに喫茶店に入った。

年頃の高校生らしいエッチな話題に話が及んだ。

マサルが彩美に、

「これは何か知っているか?」と自慢気にビニール袋見せた。

きれいなビニール袋。それはまさしく彩美が、母絹子のタンスから

見つけ出し、咬んだものに似ていた。

甘いチョコレートと勘違いし、咬んだビニール袋と同じような包装の

シロモノであった。

マサルは恥かしげに、彩美には絶対当てられないと言い放った。

彩美は、それがチョコレートではないことは既に経験し、

分かっていた。しかしながら、そのことをマサルに黙っていた。

彩美は、食べられないものの中で、このようにきれいにきちんと

包装したものはきっと大切なものに違いないと思った。

「この袋の中身は大人が使う大切なものでしょう」と答えた。

マサルは意外に{知っているなー}という感じで彩美を見つめた。

「その通り。これはセックスするときに使う大事なものだ」

マサルは自慢げに告げた。

彩美は、なんの事かまったく分からず、

「なぜ大事なものをセックスする時に使う必要があるのよ」と問うた。マサルは「これを使わないと赤ちゃんが生まれるのだ」と、赤い童顔

を一層赤らめて彩美に説明。そして、その袋を取り上げた。

そしてテーブルの下で、廻りの人に見つからないように、その袋を

開けた。そしてテーブルの下で、それに自分の親指を突っ込んでみせた。「こうやって男のモノに袋をかぶせる。精液が女性の中に入って

いくのを防ぐのだ」と自慢げに告げた。


 彩美は、ハンマーで頭をなぐられたような衝撃を受けた。

彩美が小学一年生のときに、母のタンスから探し出して、

チョコレート袋と間違えて咬んだ袋。あの袋がコンドームとすると、

あの時に咬んで出来た歯型は、袋に穴を開けたはずである。

随分と年違いの弟が生まれたが、もしかして自分が咬んだことが

原因で弟が生まれたかも知れないと思った。


 弟の賢一が生まれたのは、彩美がチョコレート袋を咬んだ日から

十ヶ月後のことだったとテーブルの下で、指を折り数えた。 

 そして、幼い頃とは言え、父と母に悪いことをしでかしたと

詫びていた。

しかしながら弟が産まれたことに、大喜びした父と母を思い出し、

良いことを為して上げた喜びを感じ始めた。

 姉の美佳と違い、勉強の出来が良くなくて父と母に心配を掛けて

きた彩美。

初めて親孝行を仕出かしていたことに歓喜の叫び声を上げていた。

驚きの表情を見せて見詰めるマサルの顔が目の前にあった。

                     (おわり)




読者の皆様。 いかがでしたか。

面白かったと思う方。

つまらないと思った方。

 皆様の生き方、次第の想いだと思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
とても面白いエピソードでしたが、穴が開くほど噛まれたゴムならお父さんが気がついて使わないでしょうw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ