【42 ティーパーティー(5)】
「戻るのが遅くなってしまいました、ユーラリア嬢。それに、いろいろとお見苦しいところを」
テーブルで唯一空いた席に腰を下ろしながら、アルフェネル様が言った。わたしはいいえ、と首を振る。
「ご挨拶でお忙しいことも、お気に掛けてくださっていることも、存じております。それに、ラネス様がおられましたので」
「あら、それだけ?」
わたしの言葉を聞いたルーチェが、面白そうに口を挟む。
「あの、それに……あちらのテーブルの方たちに、釘を刺していただいて。ありがとうございます」
「ルシール嬢、そうやって言わせるのは、あまり感心しませんね」
「感謝の気持ちは、やはり言葉にしなければ、きちんと伝わらないのでは、と思いまして」
苦笑しながらたしなめるアルフェネル様に、ルーチェはすました顔で応じている。
「経緯はともあれ、ユーラリア嬢、私自身が教師を望んだ、というのは、紛れもない事実です。父に頼んで、招請の書状をしたためてもらったのですよ」
その一通の手紙が、わたしの道を変えた。
はじめはたしかに落胆した。
でも、こちらへ来てからは悪くない道だ、と思えるようになった。
今では、呼んでくださったことに感謝さえしている。
わたしの望む結末に至る道かどうかは、まだわからない。そして、たとえそうだったとしても、長い道のりにはなるのだろう。
そこまで考えて、わたしは気付いた。
わたしはもう、歩く過程そのものに喜びを見出してしまっている。だからきっと、歩く長さは苦にならない。
※ ※ ※ ※ ※
それから後は、くつろいだお茶会になった。
ミリアム様とラネス様は、別のタイミングで別のテーブルに移られた。ミリアム様は騎士家の御令嬢が集まるテーブルに、ラネス様は騎士家の御令息が集まるテーブルに。それぞれ、ご友人が招かれているのだろう。
わたしたちのテーブルにも、騎士家のひとたちが入れ替わりで何組か、ご挨拶に来られた。
アルフェネル様が同じテーブルにいるから無礼な振る舞いに及ぶひとはいないし、ルーチェやアルフェネル様が紹介してくれるひともいる。
全員が歓迎一色、というわけではないけれど、少なくとも、ご挨拶をしてお付き合いをしたいと考えているひとがそれなりにいる、というのは、遠くから来た身にしてみればありがたいことだ。
「そういえば」
わたしたちのテーブルに来ていた騎士家の御令嬢ふたりが丁寧な礼をして立ち去り、また4人になったテーブルで、わたしはルーチェに小声で話しかけた。
「リーゼンヴァルト様とご友人、どんなお話をしてたの? ところどころ聞き取れなくて」
「ただの陰口よ。ユーラが気にするようなことじゃないし、」
ふ、と息を吐き出しながら、それでもルーチェは答えてくれる。
「こういう場で口に出したいような台詞でもないのよね。たとえばこう」
言いながら、指先でテーブルに字を書いてくれる――『魔女』。たしかに、それでだいたい会話の雰囲気は伝わる。端的で明瞭な、悪意の発露。
「――ありがとう」
好むものが共通するよりも、嫌うものが共通するほうが、仲間になりやすい、とは聞く。新しい、なかなか理解が及ばないものを持ち込もうとする、異国から来た娘。いつの間にかアルフェネル様のそばにいる娘。
悪意や敵意を向けて結束するにはちょうどいい、ということなのだろうと思う。悪意や敵意を基礎にして結束しているのか、もともと結束しているところへ共通の敵が現れたのか、どちらが先かはわからないけれど。
「知らない、新しいことだから。ある程度は仕方ないと思うのよ。ただね」
言葉を切り、その先の言葉を探すように、ルーチェは宙に視線をさまよわせる。
「ただ、こういうところで口に出すのは、礼儀を失していると思うのよね。それから、ユーラ、あなたも知っておいていいと思うんだけど、准男爵家と騎士家にも、付き合いの濃い薄いがあってね」
それはたしかに、そういうこともあるだろう、と思う。でも、なぜそういうお話がここで出てくるのかが、よくわからない。
「最初にここに来た、無礼なふたりがいるでしょう? 彼らのお家、リーゼンヴァルト家に近いのよ。そこの三男と次男かな」
「……!」
つまりあれは、たまたまの暴走ではない、ということだ。フランやラネス様が間に入ってくれなければ、何が起きていたかわからない。敵意と悪意の大きさに、身震いがする思いだった。
「……それこそ、こんなところでする話じゃなかったわね。ごめんなさい」
顔色に気分が出るのは、隠せなかった。
いいの、と首を振り、わたしたちはもとの取りとめもないお話に戻る。向けられた悪意の大きさを考えると、この先の道のりは不安ではある。長さとは違う意味で、さまざまな障害がある、と考えなければいけない。
改めて、フランの言葉が思い出される。深入りするのならば、わたしにも覚悟が必要なのだ。
ギスギスバトルにも一応の決着がついたところで、お茶会編はここまでです。




