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異国令嬢ユーラリアの日記  作者: しろうるり


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【36 予習(上)】

 数日後、わたしは、お屋敷を訪れてくれたルーチェと、自分に与えられた続き部屋の応接室で顔を合わせている。奥方様からは、お茶やティーセット、お茶に合わせるお菓子まで用意していただいていて、ほんとうに頭が上がらない。


「せっかくですから、あなたたちのお話が済んだあとにでも、わたくしの部屋へ寄っていって」


 そんなことを言われたけれど、わたしもルーチェも、後回しにすることなどできなかった。まずはふたりで奥方様に御挨拶する。


「あら皆様、ご丁寧にありがとう。でも、お話が済んだあとでも寄ってくださると嬉しいわ。今日のお菓子は、今度のお茶会でお出ししようと思っているものなの。感想を伺いたくて」


 もちろん、わたしたちに否やはない。お話が済んだらまたご挨拶に伺います、と約束して、それからわたしの部屋へと向かう。


 今日のわたしの装いは、辺境伯閣下に最初にお会いしたときとほぼ同じもの。

 派手すぎず地味すぎず、理知的に見えるという青系の色をメインに。落ち着きすぎないように白のストールを羽織り、アクセサリーをアクセントに使う。髪型と髪飾りだけは変えて、変化をつけている。ハーフアップに纏めた髪に、銀細工の髪飾りだ。

 フランは、チャコールグレイのワンピースに同じ生地を使った上着。装飾性はほとんど無いと言ってよい。服だけを見ると地味すぎるのでは、と思ってしまうけれど、彼女のほっそりとして背の高い身体や銀色の髪は、それ自体がよく目立つ。服そのものに飾りを入れないのは、わたしの衣装との相性まで考えてのことだろう。

 そうやってふたり分の服の組み合わせを見事に決めてしまうのだから、やはりわたしはフランなしでは社交生活などできない。


 ルーチェは、ワインのような深い赤の生地を使ったガウンとスカート。要所に、すこしくすみ加減の金糸で刺繍がほどこされている。ルーチェ自身の金色の豊かな髪を引き立たせる色の取り合わせだった。胸元は真珠をあしらったネックレスで飾り、アクセントを付けている。

 アスティは暗めのブラウンのワンピース。いい生地だけれど、フランと同じように、装飾らしい装飾はない。やはり、ルーチェとアスティの関係は、わたしとフランの関係と似ているのだろう。友人のように会話をすることもあるけれど、表に出るときには主人を引き立てることを第一に考える、というような。


「ユーラはやっぱり、青系のイメージなのよね。似合ってると思うわ、とても」

「ありがとう、ルーチェ。服やアクセサリーに、おかしなところはない? あなたの目から見て」

「そうね……アルトフェルツの流行の型とはちょっと違うけど、あなたの場合はエリューシア出身だし、逆にそのくらいの方がいいと思うわ。気後れしないことね」


 ルーチェが問題ないと言ってくれるのなら、これで問題ない。そもそも、辺境伯閣下に最初にお会いしたときと土台になる部分は同じなのだから、あまり心配する必要もなかったのだろう。


「ルーチェのそのドレス、深い赤に髪の金が映えて、とても素敵。完璧な色の合わせ方だと思うわ」

「ありがとう、ユーラ。あなたに借りたドレスから起こした型紙、これに紫の色味を加えたような色合いの生地で仕立てようと思ってるのよ」

「すごい、貴婦人の色よね」


 艶やかなだけに、着る方が負けてしまうこともありそうだけれど、ルーチェならその心配もない。きっと、素晴らしい夜会服を着こなしてくれるに違いない。


 お互いにお互いのドレスを確かめたら、次はお茶の時間へ向けた準備だ。


「ユーラ、場所については何か聞いてる? このお屋敷のどこでやるのか、とか」

「広間のひとつで、庭園を眺められる場所、って仰ってたかな。ルーチェのお屋敷の、あのお部屋みたいな雰囲気のところなんだと思う」


 思い出しながら答えたわたしに、なるほどね、とルーチェが頷いた。


「ユーラ、紙とペンをちょっと貸してもらっていい? 蝋板と尖筆でもいいけど」

「もちろん」


 わたしが答えると、さっと席を立ったフランが、紙とペンを持ってきてくれた。


「このお屋敷でお茶会をするのは、たぶん2年半くらい……もうちょっとかな。間が空いてるから、記憶が曖昧なんだけど、その間は准男爵家の持ち回りでやってたのよね。夏はガーデンでやることも多いんだけど、冬場はお部屋の中が基本」


 わたしは口を挟まずに頷く。寒い冬場に外でお茶会、というのは、たしかになかなか厳しいだろう。お茶やお喋りを楽しむことも、ままならないかもしれない。


「このお茶会ってね、あとで説明するけど、目的があって。まあ、普通のお茶会と同じ、参加者の交流、というところが重視されてるのだけれど」


 そうね、と一旦は頷いて、わたしは少し首を傾げた。


「広間がこうあると、」


 言いながら、ルーチェが紙にさらさらと線を引く。大きな四角の中に、丸がいくつか書き足されてゆく。


「テーブルがこんな感じで配置されて……人数はだいたい、30から50くらいかしらね」

「こっちの、空いてる場所は?」


 広間を示す大きな四角の三分の一ほどは、テーブルが描かれていない。


「気が早いわね、ユーラ? そのあたりは、立ち話ができるように、場所を空けてあるの。参加者が、30人から50人くらい、って言ったじゃない? 年齢がね、だいたいわたしたちと同じくらい。お相手を見つける場でもあるのよね」


 ああ、とわたしは頷く。参加者の交流というのは、お友達に、という意味だけではない、ということだ。


「だから、最初は席は指定されるし、テーブルごとに男女が分かれているんだけど、途中から自由に移動できるようになるのよ。異性のテーブルに行ってお話しするのは、だいたい、『あなたともっと仲を深めたいです』という意味合いになるの」


 わたしはまた頷いた。これは先に聞いておかなければいけなかった、と改めて思う。家庭教師についてのやり取りが、エリューシアでは実質的なお見合いの申し込みであるように、アルトフェルツでは、お茶会のテーブルの移動で交際の申し込みをする、というしきたりなのだ。

 知らずに自分が誰かのところへお話をしに行ったり、あるいは来てくれた誰かに思わせぶりな態度を取ってしまっていたら、と思うと、空恐ろしくなってくる。あんな思いは二度三度と味わいたいものではないし、間違って誰かに味わわせたいとも思わない。

 知識で避けられる難ならば、避けるに越したことはないはずなのだ。


貴族社会は慣習とお作法で成り立つ世界なので、ムラハチ・トラップがあちこちに埋まってるんです。こわいですね。

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キョートザイバツニンジャよかまし、ましです、よね?
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