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異国令嬢ユーラリアの日記  作者: しろうるり


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【25 最初の授業(4)】

 お互いに語るべきことを語り、聞くべきことを聞いてしまうと、そのあとには沈黙が残る。お互いに触れたお互いの中にある熱の、その余韻を噛み締めるような沈黙だった。


「――申し訳ありません、ユーラリア嬢。教えていただく立場なのに、少々話しすぎました」


 短い沈黙を破って、アルフェネル様が、そう詫びる。声音も態度も、もとの穏やかなものに戻っていた。わたしはいいえ、と首を振る。


「お考えを知ることができて、よかったと思っています、アルフェネル様。こういったことは、目的が何よりも重要ですから」


 そこまで言って、わたしは言葉を切る。今回はこれでよいにしても、次からのことを考えておかなければいけない。


「いちばん最初のお話に戻りますけれども、アルフェネル様、両方、ということなのですよね?」

「最初の……ええ、はい、ユーラリア嬢。どうすれば魔法を扱えるのか、魔法をどのように扱うべきか。私は、どちらも学ばせていただきたいと思っています。強欲と思われるかもしれませんが」


 強欲。たしかに、そうかもしれない。両方というのは、わたしも考えていなかった。でも、この強欲を、わたしは忌避すべきものとは思わない。


「さきにも申し上げましたが、わたしは、わたしに可能な限り、お手伝いいたします。でも、両方となると、やはり時間が必要になるかと。わたしの時間はよいとして――」


 政務に携わられているアルフェネル様は、自由になる時間が、そもそもあまり多くない。その中から、魔術師としての魔法の行使に関する理論と、そして為政者として魔法を活用するためのあれこれを学ぶための時間を捻出することになる。それは控え目に言っても、かなり難しい話のはずだった。


「私の時間を作らなければいけない、ということですね。何とかしましょう」


 少しの間、口許に手をやって考え込んだアルフェネル様が、ふっと顔を上げる。


「もしご迷惑でなければ、なのですが、ユーラリア嬢」

「はい」

「夕食後の談話の時間をこちらに充てる、というのは、いかがでしょうか」


 アルフェネル様の言うとおり、夕食は5人で食卓を囲んで、そのあとは皆でお喋りに興じている。わたしがその時間を楽しみにしていないと言えば、それは嘘になる。でも、その楽しみの多くは実のところ、アルフェネル様との会話にあるわけで――。


「――迷惑だなどとは思いません、アルフェネル様。アルフェネル様がよろしければ、是非、そのように」


 わたしはもちろんそう答え、翌日から、毎日の夕食後の1時間ほどが、授業に充てられることに決まった。


※ ※ ※ ※ ※


「そういえば、ユーラお嬢様」

「なあに?」


 わたしの髪を念入りに梳きながら、フランがわたしにお話を振る。もちろんそれは、夕食を終え、辺境伯家の皆様とのお喋りを終えて、お湯を使わせてもらい、わたしたちの部屋へ戻ってからのことだ。


「どうだったのですか?」

「アルフェネル様?」

「ええ」


 どう答えるべきか、とわたしは少し考える。


「学ぶことにはとても熱心ね。理由も伺ったけれど、やっぱり、この辺境伯領を豊かにしたい、って仰ってた。昔に比べればずいぶんと豊かになった、とも仰っていたけれど、まだ足りない、と」


 フランは黙ったまま、わたしの話を聞いている。


「わたしの研究の成果もだけど、魔術師としての魔法理論も学びたい、と仰ってて。明日から、夕食後のお喋りの時間は、すぐに切り上げることになりそう」


 ふ、とフランが小さく笑った。


「良かったではないですか、ユーラお嬢様」

「……そうね」


 自分や自分の研究の成果を必要としてもらえる、というのは、とても幸運なことに違いない。学術院で評価された研究とはいえ、それをどこで使ってもらえるか、というのはまた別の話だ。


「今後は、どのように?」

「アルフェネル様ご自身の方は、まず魔術師としての適性を見ないといけないわね。適性があれば理論と実践を半々、なければ理論を中心に、かな」


 魔術師としての適性、素質があるひとの割合はけっして高いものではない。わたしはたまたま素質を持って生まれてきたけれど、そうでないひとの方が数としてはずっと多いのだ。ご自身でも「使う側として価値を知りたい」というお考えなのだから、理論だけでも十分とは言える。


「辺境伯領への魔法の導入は……ちょっと難しいわね。ひとまず、エリューシアのここ50年のことを少しずつ説明するしかないかな、って思ってる」


 国も住む人も違うのだから、辿る経過が同じになる、とは言えない。でも、先行して魔法を復興し、それを広く活用しているエリューシアで何が起こったかを知ることは、この先のことを考える手掛かりにはなるはずだ。


「私は門外漢なので何とも申せませんが、アルフェネル様は頭の良い方、とお見受けしました」

「そうね、わたしもそう思う」

「ユーラお嬢様には及びませんが」

「……フラン?」


 フランはときどき、こういうことを言う。気恥ずかしいし、誰かに聞かれたらと思うと怖い部分もあるから、あまりそういうことは口に出さないでいてほしい。


「ですから、意図を説明すれば、ご理解いただけるのではないかと」


 その点については、わたしも心配していない。意欲があり、それを後押しする理由があって、わたしの話を理解しようとしてくれている。教師役にとって、理想の生徒と言っていい。


 ――だからこそ。


 わたしは、その意欲に応えたい、と思う。魔石の取引を円滑に進めるために結ばれる縁で、だから政略結婚、と呼ばれるものではある。でも、そこに気持ちがあってはいけない、ということはない。

 エリューシアを発つときには、あまり考えていなかったことだけれど。


カリキュラムが倍増している件。まあ双方やる気だから問題はないんですが。

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