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異国令嬢ユーラリアの日記  作者: しろうるり


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【21 奥方様と】

 中身の濃いお茶会を終えて辺境伯家のお屋敷へ戻ると、わたしはすぐに、奥方様への面会を申し込んだ。奥方様の予定は空いていたようで、ほとんど待たされることもなく、侍女がわたしとフランを呼びに来てくれた。


 態度を大きく変えるのも失礼に当たる、とは思う。それは承知している。でも、王室に繋がる方、と考えると、今更ながらに少々緊張してしまう。初対面のときから見せてくださっていた気品のある仕草や作法も、今にして思えば当然のことだったのだ。


 あまり余計なことは考えまい、と自分に言い聞かせながら、わたしはフランと一緒に廊下を歩き、奥方様の部屋へ案内された。


「先ほど戻りました、エミーリア様」

「おかえりなさい、ユーラリア嬢、フランツィスカ嬢。いかがでしたか?」


 穏やかな笑みを浮かべた奥方様が尋ねる。


「はい、いただいたお菓子は、オルランディ嬢にとても喜んでいただきました。ありがとうございます。オルランディ嬢からも、エミーリア様によろしく、と言付かっております」

「そうですか、それは何よりでした」

「教えていただいたとおりの、とても気持ちのよいお嬢様で。親身にいろいろとお話をしていただけました」

「そう言っていただけると、わたくしとしても嬉しいわ。同じ年頃のお友達がいれば、こちらの暮らしにも張り合いが出ますものね」


 奥方様の言葉に、やはり気遣っていただいているのだ、と実感する。ありがたいことでもあり、少々申し訳なくもある。


「いろいろとお話をして、オルランディ嬢といくつか約束をしました。彼女には、こちらの言葉や習慣を教えてもらうことに。わたしからは、使っている化粧品と、それから、エリューシアから持ち込んだ服をお貸しする、と」


 わたしの言葉を、奥方様は頷きながら、どこか面白そうに聞いている。


「いいのではないかしら。言葉や慣習、それにお作法は、わたくしが教えて差し上げることもできますけれど。でも、こういうことは、歳の近い方のほうが、気兼ねがなくてよいものですからね」

「それから、不躾かもしれませんけれど、よろしければエミーリア様、調製した化粧品をいくらか、お受け取りいただけますか?」

「まあ!」


 笑みを浮かべた奥方様が声を上げる。


「もちろんです、ユーラリア嬢。わたくしも気になっていたの。こちらこそ不躾と思って、お尋ねできなかったのよ。調製って、ユーラリア嬢、ご自身で作っていらっしゃるの?」


 やはり気になるところだったのね、と実感する。


「はい、化粧品そのものは出来合いのものですけれど、それを溶くときに、水の代わりに薄めた魔法薬を使っているのです。化粧を乗せるとどうしてもお肌を傷めますから、それが治るように、と」

「素敵。魔法薬というのは、そういうふうにも使えるのですね。もしそのことが知られたなら、皆が欲しがると思いますわ」

「わたしも、あまりたくさんの量を作れるわけではありません。ですから、当面は、個人的に知り合った方々にお渡ししようかと」

「ええ、ええ、それがよろしいでしょう」


 わたしとしても今すぐにこれを売り出したい、というわけではないから、今の段階であまり目立つことは避けたい。奥方様には、その意図が伝わったようだった。


「服は、もしよろしければ、エミーリア様や、嫁がれたお嬢様たちにも」

「そうね、娘たちはともかく、わたくしには少々若すぎるように思います。ですから、機会を見て、娘たちにもお話をしてみましょう。いくつか服は拝見しましたけれど、あの服を見立てたのは、あなたのお母上? それともご自身で?」

「いいえ、エミーリア様、フランが見立ててくれたものです」

「そうだったのですね? ユーラリア嬢、あなたによくお似合いでしたわ。小物や装身具との合わせ方もとても素敵で」

「ありがとうございます、奥方様。恐縮です」


 ここまで黙って話を聞いていたフランが、丁寧に頭を下げる。


「あら、エミーリアでよろしくてよ? あなたたちはおふたりとも、わたくしたちのお客様なのですから」

「では、エミーリア様と呼ばせていただきます」


 フランの返答に、奥方様がにこりと笑う。気安く接してくださるのはありがたい限りだけれど、王陛下の従妹と考えると、それはそれで少々怖い部分はある。


「もうひとつ、エミーリア様」

「どうなさったの?」

「ご子息――アルフェネル様に、魔法のことをお教えする日取りなどは」


 婚約や結婚に向けた段取りなのかもしれないけれど、アルフェネル様は学びたい、と仰ってもいた。わたしとしても、あまりのんびりしていては、それが癖になってしまうかもしれない。教授にも、実践から何かを見出すこともできる、と言われているのだから、自分にできることをやっていかなければいけない。


「まだいついつ、というふうに決めているわけではありませんのよ。わたくしも旦那様も、あなたたちが旅のお疲れを癒して、それから、と考えていたものですから。でも、そうですね、アルフとも話をして、政務を少し空けるようにしましょう」


 家格から言っても、辺境伯というのは相当な重責のはずで、だとすると次期辺境伯であるアルフェネル様も、今から少しずつ執務をされていておかしくはない。その貴重な時間を割いていただく、ということなのだ。わたしとしてもいい加減な教えかたをするわけにはいかない。


「ありがとうございます、エミーリア様。日が決まりましたら、お教えください」


 エミーリア様がはい、と頷く。

 わたしたちは、もう一度お礼を言って、退出した。


※ ※ ※ ※ ※


 わたしたちに予定が告げられたのは、その日の夕食の席でのことだった。


「ユーラリア嬢、父と母から伺いました。こちらへいらしてから、まだあまり日も経ってはおりません。私としては嬉しいお申し出なのですが、ご無理をされてはおられませんか?」

「いいえ、アルフェネル様、無理などではございません。わたしとしても、心待ちにしていたところですから」


 気遣わしげに言ってくれたアルフェネル様に、わたしは頷いてみせる。心待ちにしていた、というのも嘘ではない。学ぼうとする意欲のある方になにかを教えるのは楽しいものだし、わたし自身、個人的に惹かれてもいる。


「では、明後日の午後から、ということでいかがでしょうか。お教えいただいたことを噛み砕くのにも少々時間がかかるでしょうから、一日置きにでも」

「承りました、アルフェネル様。どうかよろしくお願いいたします」

「ああ、ユーラリア嬢、そのようなことは」


 一礼したわたしに、アルフェネル様が慌てたような口調で言う。


「私が請うて教えていただくのですから。私の方こそ、よろしくお願いいたします」


そろそろ本題に入りましょうね、というお話です。

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