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三題噺もどき4

夜散歩

作者: 狐彪

三題噺もどき―ろっぴゃくよん。

 



 玄関の戸を開く。

 陽が沈み、月の浮かぶ夜空が広がる。

 冷たい空気は肌を刺すように吹き、思わず身が震える。

 出かけるのをやめようかと思ったが、家に籠りきりもあまり良くないだろうと思い至り、そのまま足を踏み出した。

「早めに帰ってきてくださいね」

「あぁ、分かった」

 病み上がりなんですから……そういいながら、小言を続けようとする声を断ち切るために玄関の戸を早々に閉める。

 少しして、内側から鍵のかかる音が聞こえた。

 一応持っているから入れるには入れるが、コイツはこういうところがある。

「……冷えるな」

 当たり前のことを口に出しながら、歩いていく。

 確かに病み上がりではあるが、もう既に万全に近い状態ではあるし、寝た切りなのも性に合わないのでこうして外出している。

 ちょっとした気分転換も兼ねているので、今日は普段とは違う所にでも行こうか。

「……」

 とは言え、あまりにも空気が冷たすぎる。

 冬とはこんなに冷え込むものだっただろうか……体の芯から冷えるような感覚はここまで酷いものだっただろうか。

 まぁ、動いていれば多少は温まるだろう。一応、防寒はしているので、むしろ暑くなるかもしれない。

「……」

 階段を降りて、家の目の前にある道路に出る。

 時間が時間なので、車通りはない。もちろん人も歩いていない。

 街灯が点々と経っている程度の、薄暗い夜道である。

「……」

 足の向くまま気の向くままに、そこから適当に歩いていく。

 運命というモノに興味はないが、何かしらの出会いがあるかもしれない。

 この辺りは住宅街なこともあって、家々の明かりも消えている。

 しんとした空気と、冷たい風が相まって、どこか寂しさを感じる。

「……」

 しかし、この空気感は好きだ。

 元より夜の生き物であるし、こうしてこの時間に出歩くことは季節問わずしているが、冬のこの時期が一等好きかもしれない。

 静かな町を堪能できるのはこの時期くらいだろう。

 まぁ、賑やかなのも好ましくはあるが、そこに突っ込もうとはあまり思わない。

「……」

 普段は歩かないような道へと入り、進んでいく。

 ホントに街頭が少ないなぁ。これはこれで個人的には視界良好なのでいいのだけど。

 へたに明かりがついていると、眩しすぎてしまう。

「……」

 足音を殺し、息を殺し。

 静かに歩いていく。

 ふと、その先で足が止まった。

「……」

 暗闇の中に浮かぶ白が見えたのだ。

 あれは何だろうか……。

 足は、自然とその白へと向かって進んでいく。

「……」

 砂利が敷かれているのか、時折足音が響く。

 この音は嫌いではないのだ。性質上この国にある神社や寺は多少入りずらさがあるが、この音を聞くために近づく時がたまにある。

 大抵夜なので、誰もいない。それがまたいい。

「……」

 近づくと、あっさりその正体は分かった。

 なんと言うのだったか。正体見たり枯れ尾花……か?

 それは、花瓶に挿された白百合だった。

「……」

 この時期にその花は咲かないだろうと思ったが、なるほど。

 これは造花か。プラスチックのようなつるりとした茎に、手触りのよさそうな花弁がついている。中心にはしっかり軸があって、完成度がそれなりに高いように思える。

 ま、造花である以上本物にはかなわないだろうが。

「……」

 よく周囲を見れば、ここは墓場だった。

 同じように造花の並ぶ墓石があったり、枯れた花が挿さっていたり。

 水が入れられている茶碗のようなものもある。

「……」

 それで自然と足が向いたのか。

 今までここに来なかったのが不思議なくらいに、ここは心地が良い。

 まぁ、大抵は決まった道を進んでいくものだから、足が向かなかったのもあるだろう。

 今度からここも散歩コースにでも入れようか。

 墓場に来たとて、人のように手を合わせたりはしないが。

 風に揺れる花を見るのは、いいかもしれない。

「……」

 しかし今日はもう帰るとしよう。

 ひゅうと吹く風があまりにも冷たく頬を刺していく。

 首に巻いたマフラーを少しだけまき直し、帰路につく。

 またここに来るとしよう。

「……」

 そういえば、出がけにキッチンから甘い香りがしたんだが。

 ストレス発散に、またぞろクッキーでも焼いているんだろうか。





「戻った」

「……おかえりなさい」

「なんだその不満そうな顔は」

「……鍵お持ちだったんですね」

「……わざと閉めたな」

「いいえ、何のことやら」

「お前……」











 お題:運命・百合・クッキー

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