発覚
桐崎冬馬。
18歳の高校3年生だ。
中学高校と帰宅部で、家に帰ってはパソコンに向かってインターネット漬け。
まさに現代の若者を象徴するような存在だ。
4人家族で、3つ上の姉がいる。両親は共働きで、家にあまり居ない。
姉の美咲は創作するのが好きらしいが、あんな性格しているんだ。
どうせイラストだってなんだって、センスのかけらもないだろう。
というか、前見たイラストは下手だったしな。
「コハルさんは、今日も元気に書いてるかな…」
俺はあの日のことを覚えている。
12歳の、冬の日…
インターネット上で、コハルと名乗る小説家が書く、3000文字の短編小説。
魅力的な文章の表現力。文字だけで人を圧倒させる世界観の構築。
あれから自分は、おかげさまですっかりネット漬けになっちまった。
小説の新作がある日は、何度も読み返したくて学校をサボったこともある。
「コハルの次の作品はいつだろうな…」
短編小説で、1ヶ月か2ヶ月に1回の更新。
新作には毎回、前作の要素や伏線回収が含まれている。
そんな簡単にはできないようなことを長年続けていることに、自分は最大限の敬意を示したい。
女性的な美しい表現を、初期から変わることなく発揮しているのが一番の魅力だ。
自分はコハルさんが好きで好きで仕方がない。今どきの"ガチ恋勢"というヤツだ。
「コハルさんといつか会えたらな…
って、こんな一般人男性が会えるわけないか。」
きっと相当な有名人か、はたまた作家として同じ土俵に立てなければ、到底無理な話だろう。
アクセス数は毎回100万を超える、トップクラスの人気作家だからな。
―コハル、久しぶりのSNS更新です!
次の作品は公開間近ですので、皆さん楽しみにしていてください~!―
フォローしている人物のメッセージが流れると、通知音が鳴るようになっている。
コハルさんのSNSの更新があるたびに、自分はダイレクトメッセージを送っている。
「前回の伏線がどのように回収されるのか…次の作品も楽しみにしています!
あなたの作品が、この世界で一番好きです!」
この気持ちは、あの日あの時からずっと変わらない。
きっと多くのメッセージのうちの一つだから、本人には届いたとしても反応は無いだろう。
でも、見てくれればそれでいいんだ。
「ソフト落ちた。もう創作だっる。もう全部辞めてえ~」
隣の部屋から聞き慣れた声がする。姉の声だ。
ドアを閉め切っていないせいで、こっちに声が入ってきている。
それと同時に、SNSの通知音が発した。
―ソフト落ちた!でもコハルは皆のために頑張る!―
コハルさんもソフトが落ちたらしい。変なアップデートでもあったのかな。
どんなツールもアップデート頻度が多くなった昨今、よくある話だろう。
「もう、次の更新はあと1ヶ月後にしよっと!」
お前の作品なんて1ヶ月後だろうが1年後だろうが興味ねぇよ。
「うっさいわね!何も作れないヤツは黙ってなさいよ!」
姉が急に部屋に入ってきた。
小声で喋っていたが、どうやら聞こえていたらしい。
姉の作品についてあまり触れてこなかったが、どうやら怒りを買ってしまったみたいだ。
姉は部屋に戻り、再びSNSの通知音が鳴った。
―次の更新はあと1ヶ月後になると思います。お待たせしてすみません!―
…ん?
いやいや。これはただの偶然だろう。
ドア越しに、姉の怒りが混じった声が聞こえる。
「今日だって、世界で一番好きだってメッセージくれた人がいたんだから!
自分がそんなこと言われたらどう思うか、少しは考えなさいよね!」
……これは今、何が起きているんだ?
突発小説。続きは気まぐれ。