08 一回戦第四試合「託された願い」
「さあ本日最後の試合は伯爵家のご令嬢が登場です。マリエラ・リダ・イフタール候補は公式戦には過去一度しか出場したことがありません。その時は優勝しておられますが、実力のほどはいかがでしょうか?」
「実際のところ情報が少なすぎてはっきりとは申し上げられません。しかし今回ですね、伯爵家内で予選の出場権を争って試合が行われたとのことです。彼女はその戦いも予選も制してこの場に立っております」
「ほう。でも、伯爵家のご係累には有名な闘技者がおられますよね。ルース子爵家のフィアナ様とルシア様が」
「ええ、大会常連のお二人ですね。彼女たちのご母堂は前回大会の準決勝進出者でもあります。マリエラ候補はそのご両名にも勝利されたということなのでしょう」
「それは期待できそうですね」
歓声の中、マリエラは貴族らしいゆっくりとした足取りで闘技場に現れた。
その衣装は神官服を基調としていながら色は赤、差し色は黒である。
足には黒いブーツ、手には杖、ウェービーな赤い髪は背中の真ん中まで垂れている。
イフタール家は近隣諸国まで聞こえた赫々たる武功の家である。
にもかかわらず建国以来未だに王妃も王配も出したことがない。
おとぎ話のような武勲も武勇伝もありながら、王太子妃選考会だけは勝てない。
イフタール家から王妃を出す。
それはいつしか一族の悲願になっていた。
王太子妃の条件は王太子生誕の前後五年以内に生まれた女子であり、選考会を勝ち抜いた者であること。
十八年前王子が誕生した時から、同時期この家に生まれた少女たちは皆王妃になるのだと、そのために強くなるのだと言い聞かされて育った。
半年前、一族の候補となり得る娘たちがイフタール家の本家に集められた。
王太子妃選考会の予選に出場する選手を決めるためである。
もちろん出場者を増やした方が優勝の確率は上がる。
ここにいる全員が各地の予選に出たならばそのうちの四、五人は本選に出場できるだろう。
その四、五人のうちの誰かが優勝できるかもしれない。
しかしそのような手段は姑息と切って捨てるのがイフタール家だった。
一族最強の娘が代表として参加する、この方針は揺るぎない。
集まった娘たちの中にはルース子爵家の姉妹もいた。
フィアナとルシア、この二人はマリエラの叔母の娘、つまり従姉妹に当たる。
前回選考会に出場したのはこの叔母だった。
もちろんその娘たちの選考会に賭ける意気込みは人一倍強いものがあった。
しかし今回の代表決定選はそれまでとは様相が違っていた。
それまでのようなトーナメント戦ではなかった。
曰く「マリエラ一人と他全員が順に対戦し、もし勝つことができる者がいればその者が代表になる」──
あまりと言えばあまりの条件である。
集められた娘たちは当然むっとした。
代表選に出ようかという娘たちである、自分の力に自信がないわけがない。
それが遥か格下の挑戦者扱いされているのである。
面白いはずがなかった。
それが一人ずつ戦ってゆくうちに変わった。
彼女たちは徐々に顔色を失っていった。
そして一族最後の娘、フィアナが倒れたとき、マリエラが代表となることに意義を唱える者は誰もいなかった。
「お願いよ」
「私たちの願いはあなたに託すわ」
「きっと王妃になってね」
従姉妹を始めとする親族たちの懇願にマリエラは静かに頷いた。
「約束するわ」
闘技場の真ん中でマリエラは降り注ぐ観客の声を静かに受け止めていた。
彼女は一族の思いだけでなく今は勝った相手、一族の娘たちの思いも背負っている。
何があろうと負けるわけにはいかない。
「始めッ!」
試合自体は面白くもなかった。
マリエラは終始間合いを保って安全策を取った。
遠距離からひたすら『パニッシャー』の魔法で攻撃し続けた。
この魔法は通常の射撃と違い攻撃は射手から対手ではなく神から対手へといきなり発生する。
威力は弱いが回避も防御も非常に難しい。
仮に近づいても『ノックバック』の魔法で遠ざけられてしまう。
ならばと魔力撃を放っても強固なシールドで全て阻まれ、それも何とか突破しても強力な回復魔法で即座に回復されてしまう。
少し時間はかかったが、対戦相手のローダは一方的に攻撃され続けてほどなく沈んだ。
「勝負あり!」
名前:ローダ・パウス
年齢:17歳
称号:黄昏アンノウン
身長:157cm
体重:58kg
地位:生地問屋パウス家の令嬢
流派:ボナン流剣術
HP:666
MP:333
握力:33kg(利き手)
走力:100m13.33秒 10,000m33分33秒(いずれも魔法未使用時)
知能:99
装備:若草色のディアンドル、剣
特技:特になし。
メモ:影が薄い。




